017 ~短い付き合い~


サブ・ジェクトは静かに安堵していた。

紆余曲折あったが、どうにか主語の民を集めることができた。

あとはみなから返事を聞くことだけだった。


それは機械的なやり取りに、なるはずだった。


「さぁみなの者、時間だ。応えを聞こう。」


Iとyouは手をとり、

またHeとSheはそれぞれ横並びになり、そして答えた。


「Yes!」



それで全てが始まるはずだった。

返事は辺りの暗闇を押し広げ、この先の無事を占うかのようだった。


しかし一人の声が足りない。

そのことに気づいたのはItだった。


「Theyはどうする?っと。Yes、かにゃ?っと。」


みなの視線がTheyに集まった。

何も難しいことではない。こだわる必要もない。

真実を疑う気持ちもわかる。しかしTheyにとってそんなことは関係がなかった。


「俺はごめんだ。応えはNoだよ。」


かつて同じように返事を断った者がいた。その時もやはりTheyの一族だった。

Itの記憶には鮮明に記録されている。


「やれやれ、やはり血か。このサブ・ジェクトの威厳もここまでか。」


どうやら必ずしも全員が揃っている必要はないらしい。


「別に構わないぜ、俺がいれば充分だろ。」

「あら心外ね、私たち、の間違いでしょ?」


はやし立てるHeとSheには気にも留めず、

Theyはことの事情を説明した。


その話によれば、

事情はどうあれ一度でも仲間に手を上げてしまった後悔と反省らしい。


一緒に時間を過ごすことはできないということだった。


「短い付き合いだったが、礼を言う。」


Theyは暗闇の中を暗闇に向かって進んでいった。

ちらとIとYouの方を見た気がしないでもない。


「怖気づいてんだろ、ほんとは。」

「ちょっと! ヒー君!」


Theyは無駄に反応したりはしない。

多くは語らないTheyには秘めたる想いがある。

なにも敵になったわけでもない。Iにはわかっていた。


「さっきは! 助けてくれて、ありがとう。」


その声がTheyに聞こえたがわからない。

でも消えゆく姿のその手が、少し上がるのを見た気がした。


「大丈夫、きっと戻て来てくれる。」


いつのまにかサブ・ジェクトも姿を消していた。



役者は、そろった。


これから、主語の民、そしてIの旅が始まる。

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