第二章

018 ~内乱の国、ヴァーブ~

翌朝、皆がみな疲労を拭いきれないといった様子だった。

無理はない。


いきなりこの世の中に出現させられ、

そしてサブ・ジェクトを始めitの出現など、

置かれた状況だけでなくキャラの濃い者たちの理解に苦労していたからだ。


中には自身の力に目覚めたものもいた。

その翌日に無事でいろという方が無理なのかもしれない。


たった二人を除いては、だ。


「おい、いつまで待たせんだよ。日が暮れちまうぜ。」


Theyがいなかったことがこの意味で幸いだった。

木陰で横になっていた者、塔に寄りかかっていた者、

そしてちゃっかり塔の中で身体を休めた者、皆がHeの声で目を覚ました。


「しゅーごーにゃ、っと。いざ出発にゃ、っと。」


正しくは一人と一体だったか。

元気な一人と一体にまくし立てられるように、他の者たちも準備を始めた。


ほどなくして、皆が塔の周りに集合した。




「で、結局どこ行けばいいんだ、俺たち。内乱ってなんだ、祖国ってなんだ?」

「一度にいくつも質問しないでよ、もう。」


ただでさえ寝起きの悪いSheにはHeの質問攻めは酷だった。

それをなだめるようにして、IはYouに今後の予定を尋ねた。

情報が少ない分、歴史を知っているYouが何よりも頼りだった。


「古い記録によれば、このイングリッシュ・グラム・マーは10個の国に分割されているようです。しかし祖国の内乱と言われてもどこで何が起きているかはさすがにわかりかねます。」


SheとしてもIとしても事情は同じだ。

幸先が悪いと思っているところ、ここでHeが良いきっかけをつくった。


「Itが知ってんじゃねーのか。もともとその役目だったんだろ。」


「あっ、そっか。」

とはHe以外の反応だった。


そのいでたちや振る舞いから、

未だに情報源としては少々頼りないと思ってしまっている。


しかしそんなことに奥目もなく、自信満々といったように話し出すItであった。

咳払いなど、どこで覚えたんだろう。


「えへん、っと。まず、正しくは9つの国なんだにゃ、っと。」

「えっ、10ではないのですか。」

「えっ? あ、うん、そ、そうだにゃ、っと。9なんだにゃ、っと。」


どことなく自信が感じられないのはItの性格か。

話は続いた。


「そ、それで祖国と言うのは、まぁこのイングリッシュ・グラム・マー全体のことだからいいとして、いま内乱が起きて大変なのは、動詞の国、ヴァーブにゃ。」


「……。」


動詞と聞いた時、Iの頭の中にとある音がよぎった。

それは懐かしいようで、しかしどこか歯車があわない違和感もある。


Iはこの音を言葉に出して、その違和感を確かめようとした。


「イズ……?」


その時、HeとSheがIの方を向いた。

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