019 ~禁忌~

「ど、どうしたの、Iちゃん。あ、Iちゃんにイズ様はちょっと恐れ多いかも……。」


HeもHeだが、SheもSheで歯に衣着せない人だ。

だからその端切れの悪い言葉がどこか気になる。


「え? イズがどうしたの? それに様って?」

「い、いや、いいんだ。頼むから呼び捨てにすんじゃねえ。わかったからよ。」


Heさえ逃げ腰といった様子だ。両手を出しながらIをなだめている。


あの変わりようといったら他にない。

Iには自分の頭によぎった言葉が結局なんだったのかを知る術はなかった。


「ほら、あれよあれ。にしてもよね、れにしても!とにかく行きましょう。善は急げって言うでしょう!」


ひどく懐かしく、しかしひどく歯車があわない。


「そ、そうだな。れにしてもな。行こうぜ、早く!」


HeとSheが何かを隠していることは、Iにはよくわかった。

しかしもう訊くわけにはいかない。訊かない方がいいと思ったからだ。


Iはうすうす気づき始めている。その存在の大きさを。

Iはうすうす気づき始めている。その存在が絶対的であることを。


Iはその正体不明の存在を、この旅で思い知ることになる。


HeとSheはもうすでに遠くへ走り出していた。

今のところ落ち着いているのはYouだけだ。

やはり冷静なYouは頼りになる。Iはそう思う。


「そうだね、っと。とにかく、動詞の国ヴァーブに行ってみよー、っと。」


空高くそびえる塔を覆うように遠くから暗雲が立ち込めている。

何かを考えこむYouの顔にもどこか影が差しているように見えなくもない。


迫りくる雲から逃げるように、Iも歩き始めた。

Youの手を引く。その時には、頭によぎった音はさっぱりなくなっていた。


振り返り見る塔は遠くから見ればそれほどでもない。


一体さっきのは何だったんだろう。

そしてこれから何が起こるんだろう。

Iがそう考えているうちに、塔は地形に消えてしまった。


そこでYouが口を開いた。


「すみません、ちょっと寄り道したいところがあるんです。」

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