020 ~Youの心は~

Iは辺り見渡した。

記念の塔を後にしてまだそんなに時間は経ってはいない。

だから目の前に広がる景色は枯れた大地だ。

寄り道しようにも、そんな場所はなかった。


「寄り道? Youさん、この辺り知ってるの?」


いつもの難しいことを考えているような表情ではなく、

考えているように見えて頭の中には何も浮かんではいない、そんな表情だ。


「いえ、知っているというのではないんです。実は……。」


Youはそう言いながら、Iたちに一枚の紙を差し出した。

どうやら地図のようだった。


その地図は四枚に分かれていて、それぞれに東西南北と書かれている。

方角通りに置くと中央に一つの文字が浮かび上がった。塔だ。


「いま私たちは北に向かっております。ここが塔で、このように歩いてまいりました。」


Youは指を差しながら、いま自分たちが来た道をなぞるように指を動かした。

その指は、その延長線上の先にあるバツ印で止まった。


「このバツ印、北の紙と西の紙が重なって浮かび上がるんです。

 なんだか気になってしまって。」


Iが興味深そうに地図を覗いた。


「へぇ、面白い仕掛けですねぇ!」

「いや、そこじゃねぇだろ。宝の地図ってことだよな!」


「ヒー君、あんたってやつは平和でいいわ。でも……。」


Heに嫌味を言いつつ、SheはYouの妙な異変に気付いていた。

気になったら遠慮はない。それがSheの良いところではある。


「Youさ。気になっているだけか? 本当は何か知ってるんじゃないのかい?

 根拠のないまま知らない土地を訪れるようなバカじゃないだろ、あんた。」


Youは驚いたように身体を振るわせ、そして俯いた。

それが答えとなっていることはYou自身もわかっている。


しかし言うことができない。

本当のことを言えば、旅を急ぐIたちの足を引っ張るかもしれないからだ。


Youは、自らを押さえていた。Sheはそのことを前から気にしていた。


「私はあんたのことは信頼してるつもりだよ。たとえ騙されても恨んだりしない。それでも言えないかい?」


Youはさらに深く俯いたが、小さく うん と頷いたかと思えば、

両手を組んで握っていた手を開いた。そして顔を上げた。


皆の方を向いたその顔は、真っ赤に染まっていた。


「そ、その印の所に、ハ、Howという方がいます! 以前、私がお、おつ、おつ、いや、な、仲良くしていただいていた方です!」


目は口ほどにものを言う、という諺があるけれど、

この場合はもう口が物語っている。


Sheを含めた一同が、驚きを隠せなかった。


「恋人?!」


Youは口を開けたまま、目をぐるぐる動かして真後ろに倒れ込んだ。

Youの心は、Howという者に向いてるようだった。

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