042 ~死線~

「notだと? 聞いたことはあるけど、でもなんでお前が使えるんだ?」


Heはとぼけた顔で笑っている。

Sheの疑問もそのはずだった。博識のSheがnotの存在を知らないはずがない。


だからこその違和感だった。

Not”ノット”は「~~ない」を意味し、動詞と関わるものだ。

それがなぜHeの手から出ると言うのか。つまりはそう言うことだった。


「おい、He。お前……。」


Sheがそういうや否や、Youが一歩足を引いた。そこにはIがいる。


「いてっ。足踏んでるよ、Youさん。」


開かれた腕は後ろにいるIを覆うような恰好をしている。

一般Beも一度は手の平にnotを出す素振りをしつつも、

異変に気づいてすぐにやめた。


おかしいのはBe子だ。

「あらあらあらHe様ってたくましいのねぇ。目移りしちゃうわ。」


Be子はその扇を自分とHeの顔をそれぞれ隠すように掲げた。

その光景を見て一般Beは何も思わないのだろうか。


「ねぇ一般Be、一応聞くけど、いいのかい、あれ。」

「言っただろう、何としてもこの戦に終止符を打たなければならないと。」

「じゃあ最初からBe子は……。」

「あぁ、使えるものは何でも、だ。ほれみな。」


一般Beが指を差す方を見ると、

扇の向こう側からからあふれる光は一層その強さを増していた。

Be子の甲高い声が空にこだましている。


それだけならまだしも、

HeはHeで身体を振るわせるようにして、うめき声をあげている。


「お、おい! He! 一体どうしたんだ!」


Youがすかさず防御魔法を発動した。


「Youまでなんなんだ!」

「She様! 失礼します!」


Youはそう言うとSheを真後ろから蹴飛ばし、魔法陣から弾き飛ばした。

一般Beはその暴挙を不思議そうにするわけでもなく、毅然と突っ立っている。


「おい! なにすんだ!」


「She様聞いてください! あなたは気づいてはいないかもしれませんが……。」


「なんなんだ! 気づいていないって、何にだ!」


Itは魔法陣の境をギリギリに飛行し、そしてSheとHeを見つめた。


「にゃんと……、顔が……。」


Be子が扇をたたむと同時に、Heの顔が姿を現わした。

その光景を間近に見たSheは声を失った。


「お、お前その顔……。」


「おーっほほほほほ! Sheとやら、そなたも同じ顔をしておるぞ、愉快愉快!」

「なにっ!?」


HeとSheはもともと姉弟。

流れる血が同じなら異変も同様に起こる。


いや、利用されたと言った方がいいかもしれない。


Heは左顔を、そしてSheは右顔をそれぞれ失っていた。

そしてその顔が物語っている。


「あれが、Isです……。」


Youがそう言うとHeとSheから光がほとばしり、そして二人はその場に倒れ込んだ。直に光りは集まり、人の形を作っていった。


「お久しぶりですこと、Is兄様。」


Isと呼ばれた者は雄叫びをあげた。

その声は魔法陣を突き抜け、Youたちを吹き飛ばした。


それは今までに感じたことのない、最悪の死線だった。

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小説 : 英文法物語 ~『Iの旅路』~ 安乃澤 真平 @azaneska

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