011 ~始まりの予感~
三人の掛け声とともに、光は空高くまで放出された。
その光は果てしなく遠くまで立ち上り、そして青い空に溶け込んだ。
間もなく静寂が訪れ、その静謐な余韻に誰もが言葉をつぐんだ。
「プルーラルってなんだ? おいshe、知ってるか?」
空気が読めないのはやはりHeだった。
尋ねられたSheは呆れたと言ったように、もう答える気さえ起きてはいない。
プルーラル“Plural”とは英語で「複数」を意味する。
複数があるということは、単数もある。それがHeとSheだ。
Weもyouもtheyも、それぞれが複数の意味を持っている。
その意味で仲間であった。
「いくら一匹狼の私たちでも、さすがに知っておくべき言葉なんですけど。」
「はいはい無知ですみませんね。おかげで一つ賢くなったよ。」
二人がそんな嫌味を言い合っている間、
Iとyouとtheyはお互いに目を見合わせていた。
「これで、they様も仲間入りですね。」
Youが言った。その言葉にIも同意し、顔を大きく縦に振った。
一方のtheyは困ったなと言った顔をしている。
ようやくつかんだ仲間の存在を嬉しく思わないでもない。
しかし自分が犯してしまった罪は大きく、
-と言ってもHeには足元にも及ばないが-自責の念に耐えられずにいたのだ。
素直になり切れないTheyは自ら手を振り払った。
「仲間? まだ心を許したわけではない。それを忘れるな。」
IとYouは苦笑いをしながらも、Theyの本心を見抜いている。
「それでもいいよ。よろしくね、Theyさん。」
Iはtheyに歩み寄った。お辞儀をしてはぶつかってしまうぐらいの距離感にある。
いくらTheyでもその間合いを許してしまうのはIの持つ人徳のおかげだ。
役者はそろった。
これから皆で力を合わせなければならない。
記念の塔は始まりの塔。
ここから新たな物語が紡がれていくことになる。
しかしなんのためだ?それを知る者はただ一人だった。
この出来事を遠くから見ていた者、その名は「サブ・ジェクト」。
Iたちをすべる神と畏れあがめられている、主語の神であった。
サブ・ジェクトはIたちのやり取りに業を煮やし、
いよいよしびれを切らせてIたちの元に向かった。
「ねぇ、何か聞こえない?」
Sheが言葉にするや否や、サブ・ジェクトはみなの前に現れた。
その勢いのあまり、周りにあったものは塔以外がほとんど吹き飛ばされてしまった。
Iたちも例外ではない。一人残らず吹き飛ばされてしまった。
同時に溢れ出るその殺気に、Theyさえ毛を逆立てていた。
「生ぬるい、生ぬるいぞ!」
サブ・ジェクトは、その力を使って皆を再び塔の前に引き寄せた。
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