025 ~対抗呪文~

浮かび上がった謎の存在はいくつにも分身し、

そして浮遊すると円を描くようにしてIたちを取り囲んだ。


「お、おい、一体何だってんだ。どうすりゃいい。」


「い、いえ。何もしなくて結構です。もう、こうなっては従うしかありません……。」


Sheの顔は苦痛に満ちている。

圧倒的な力の差にSheの魔法でさえ太刀打ちできないことがうかがえたからだ。


IはYouに促されるまま、Youの背後に身を隠している。


浮遊する円は段々と範囲を狭めていく。逃げる隙も見られない。


「従うったって、このままじゃ……!」


Heは一層言葉を荒げる。

Sheは歯を食いしばった。

その歯茎からは血がにじんでいる。


その中で、唯一、別の理由で身体を振るわせているものがいた。Iだ。


非力でいつも助けてもらってばかりだった。

そんな自分がまさに今も助けられている。何もできないでいる。


しかし誰よりも大きな勇気を持っている。そして優しい心を持ち合わせている。


Youの背後にいたIは、その陰から一歩を踏み出した。

何かできるかなんて知らない。わかりもしない。でも何もしないよりはましだった。


「I様! 危険です!」


Youが呼びかけた。


「でも、いつも助けてもらってばかりじゃ……。」


いまにも拘束は免れない。

間もなく浮遊物に接触するかと言ったところだ。


Youは目をつむった。


その時だった。


「む!?」


謎の者が驚くのと同時に、浮遊物はその周回を乱し始めた。

そして一つ、また一つと周回を逸脱し、いよいよ隙ができ始めた。


その姿はどこか混乱しているように見える。


Youは見逃さなかった。


「もしかして……! I様、今です! 対抗呪文、お願いいたします!」


「え、えっ、なに!? たっ、対抗!?」


Youは質問には答えず、Iの手を握った。

呪文を伝えるためだった。


じんわりと手、腕、そして肩が温まるのを感じると、

Iは自分の頭に一つの呪文が浮かぶのに気がついた。


そしてそれを、呟いた。


「エクスクラメーション……!」

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