034 ~矢の謎~
力を出し切ったYouは、消えゆく意識の中で再びIと目があった。
Iは顔色をピクリとも動かさなかった。しかし変わらず優しさを現している。
「大丈夫、大丈夫。Youさんはゆっくり休んでて。」
実際に聞こえたわけではない。
でもそんなことを言われた気がして、Youは安堵した。
目を閉じた。
Youとは対照的に、目覚めた者は突然飛び上がった。
まるで飛び跳ねた猫のように、なりふり構わず触れたものをけりとばす。
一番の被害者はHeだった。
いくら戦闘狂のHeでも不意の不意にはひとたまりもない。
反動で木に激突したHeはそのまま気を失った。
「助けてもらった奴にしちゃ随分とご丁寧なもんだな、おい。」
SheはHeが受けた仕打ちを自分のことのように受け止め、そして答えようとした。
「ねぇ、ちょっと待って!」
「うんうん、っと。ちゃんと話してからにゃっと!」
そうしてIとItが仲介していなければどうなっていたかわからない。
話が分かる者が一人気を失っており、
頼るべきはもうIしかいない。Iは自分でもわかっていた。
できるとは思ってはいなかった。
しかしここ数時間のうちに自分の異変に気づいていた。
何かはわからない。
でもできる気がしてならなかった。
「話を聞いて!」
そう念じて相手の目を見れば、必ず伝わる気がする。
果たしてそうなったようにも感じられていた。
それが定か否か、この時はIにもわからなかった。
「そなたらは、この辺りでは見ない顔だ。」
話せるとわかれば交渉はSheの方がいい。IはSheに目で合図した。
そしてSheもこれに応じた。
「あたしたちは主語の国の使いだ。とある命で動詞の国の乱をおさめにきたんだ。」
その者は眉をひそめた。
「時間が惜しい。単刀直入に聞くが、今一体何が起きてるんだ?」
何かを言おうとしてやめたと言った様子だった。
ただ一言を残してその場を去ろうとした。
「すまない、やはりおぬしたちを巻き込むわけにはいかない。」
「ちょっと待て、巻き込むってなんだ?」
「それにHeさんが頭を狙ったのも、あなたなの?」
その者はIの言葉に反応した。
「頭? 私はそんなことはしておらぬが。」
Sheは、ついさっき木に打ち込まれた矢を無言で取り出し、
そして乱暴に投げつけた。その者が放ったものだと思っていたからだ。
しかしその矢の実態が見えるか見えないかという刹那に、
その者は途端に警戒した。一瞬で間合いが、三歩は変わったようだった。
「そ、それは……! やはりおぬしたちは何も知らないのだな。」
その者はその場に座り込み、皆に近寄れと言った。
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