033 ~Be と V~

YouとSheは急いで準備をし、目の前に倒れいている者の蘇生に取り掛かった。


HeはHeで持ち前の機動力を活かし、周囲の警戒を怠らなかった。


IとItは蘇生の支援だ。

YouやSheの言う通りに、木の枝や水、木の実などを急ぎ集めた。


しかしSheには迷いがあった。


「あのさ、You。今更だけど、いいのかよ……?」


Youにもその言葉の意味は充分に理解していた。

しかし動かす手を止めなった。


「おい、Youってば!」

「わかっています! いいか悪いかで言えば、あまりよくはないでしょう……。」


Youは、仰向けに寝ている者を見下ろした。その視線は胸元の刺繍に注がれている。


「でも、だからと言って見捨てられますか!? 私にはできません……!」

「ゆ、You……。」


Youはすーっと息を吸うと、

その両手を交差させて、刺繍の上に置いた。


身体の柔らかさ、奪われていく体温、

しかしそれでもよくわかる。SheもYouの手の下にある文字を知っていた。


奇しくもこれからYouが唱えようとする呪文と同じ頭文字だった。


それはなにもただの刺繍ではない。

いくら泥臭くとも、雑多にもまれようとも、

それはその者にとっては大切な所属を意味し、

そして唯一無二の誇りでもあった。


その文字は“V”。


背中に焼き付けられた痛々しい印とは対照的に、

誰かの手によって施された生地は温かみがある。

それでいて強さの象徴でもある。


背中のBeと胸元のV。


文字を交互に見たYouは瞬時に状況を理解した。

だからこそ、決心がつかないでいる。


Youの心は揺れていた。

本当に助けていいのだろうか。


交差させる手は光であふれ、今にも決壊しそうであった。

そうなってはもうこの者は助からないだろう。


あとは唱えるだけだ。

にもかかわらず最後の一言が出ない。


「おい、You! もういい、私に代われ!」


SheがYouを押しのけ代わりに詠唱し始めようとした。

しかしその時、Youはそれとは反対の方を向いていた。


その目線の先には、Iがいた。


「大丈夫。一緒だよ。」


その声は確かにIの声だった。しかしその唇は閉じたままだった。


不思議に思いながらも、Youは自分の身体が動くのを感じた。

そして光が溢れて初めて、Youは自分で呪文を唱えていたことに気がついた。


「ヴィヴィファイ!」


倒れていたものは途端に呼吸を取り戻し、そして目を見開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る