008 ~もう一人の仲間~

「待って!」

いくら怪しい者とは言え、まだIたちは何も被害を受けてはいない。

ただ怪しい存在が周りにいるということだけだ。


そう考えると、Heの行いはあまりにも乱暴に思われた。

今にもその手は怪しい者の腕を引きちぎってしまうようだった。


そのHeを止めたのが、Iの一声だった。


「なんで止めんだよ。」

「大丈夫。悪い人じゃないよ。」

「わかんねぇだろ、そんなの!」


Heがより強い力でグイっと手を引くと、怪しい者の右手が灯りに照らされた。

どうやら怪しい者も相当の力を入れているようだった。まだ姿ははっきりしない。


「逃げたいわけじゃないんだよ。こっちに出られないだけ。そうだよね?」


Iの声はHeを越えて怪しい者に届いただろうか。返事はなかった。

ただHeが引く手を何倍もの力で振り払おうとし始めたことは伺えた。


Heは涼しい顔をしているが、両手を出していることが物語っている。ただ者ではない。

あとどのぐらい自分の力が保てるか、Heさえ自信はなかった。


「ねぇ、sheちゃん。He君の横に立ってみて。」

Sheには真意がわからなかった。

わからないから、わからないといった表情をするしかない。

そしてわからないままHeの横に棒立ちした。


「おい、その呼び方すんじゃねぇ! うわっ!!」

注意を欠いたことで危うく手を離ししてしまいそうなHeであった。


そんなことを気にもしないと言ったように、Iは次にYouの方を向いた。


「ねぇ、Youさん。あの二人のことを何て呼ぶ?」


すでにYouにはIの言いたいことがわかっているようだった。

だからもったいぶるような顔をしている。


「私が言っていいんでしょうか。」

「もちろん!」


何でもいいから早くしてくれと思っているのはHeだった。

今にもその怪しい者の手はHeの指から抜け出してしまいそうだった。


Youはなお咳払いをして、じらすように姿勢を正した。

そして厳かに、口を開いた。

その言葉は、仲間の名前だった。


「もう結構ですよ、theyさん。」


松明の灯りは途端にその幅を増し、theyと呼ばれた者の全身を明らかにした。

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