小説 : 英文法物語 ~『Iの旅路』~

安乃澤 真平

第一章

001 ~英文法への導き~

私は英語が嫌いだった。

その私が英語を嫌いから苦手と思えるようになれたのは、

とある先生との出会いがきっかけだった。


その先生は、私が中学生の時に通っていた塾の先生で、名前を飛鳥という。

どうやら塾内で使われているニックネームらしかった。


「飛鳥だって。飛鳥時代? 社会の先生かな。」

「理系っぽいから、数学の先生かしら。」


今思えばすごい偏見だったけれど、

入塾手続きの時に母と一緒になってそんなひそひそ話をしたことをよく覚えている。


だから初回の授業の時に、担当が英語とわかって驚いた。

顔を見れば恐そうな先生だったけれど、話してみればよく冗談を言う先生だった。


質問すればわかりやすい解説も返ってくる。

勉強のことも、勉強の仕方も、勉強以外の話だって、

先生はいつも親身になって相談に乗ってくれた。


でもだからといって、

すぐに英語が私の中で「苦手科目」に昇格したわけではなかった。


それほどまでに、

私は英語が嫌いだった。




「この本、読んでごらん。」


ある日の授業の直前に、

飛鳥先生はそう言いながら私に一冊の本を手渡してきた。


表紙には『Iの旅路』と手書きのようなタイトルが書かれてある。


「なんですか、これ。」

「英文法物語。」


何のことかわからない。だからわからないまま読み始めるしかなかった。

でも私はいつの間にか、続きを読みたいと思うようになった。


まさか私が英語のとりこになるなんて、その時は思ってもいなかった。


『Iの旅路』


そこにはこんな話が書かれてあった。

(つづく)


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