013 ~語られた使命~

「我々は、もとは一つであった。」


ひれ伏していた者たちは一人ひとり徐々に身体を起こしていった。

サブ・ジェクトの語りぶりが穏やかになっていったからだ。


「しかしその後は、この記念の塔の歴史通りじゃ。」


吹き飛ばされたHeは再びこちらに向かってきているようだった。

一応姉弟だからと様子を気にしていたSheが、豆粒のようなHeを遠目に捉えていた。


「塔より散り散りになった同胞、

 ランゲージの民はそれぞれ赴いた地でそれぞれの文明を築いていった。」


Youが小さくうなずいた。かつて聞いた昔ばなしと酷似していたからだ。

嘘じゃなかったんだ。一人でそう納得していた。


「我々の祖先はイングリッシュの民、

 その国をイングリッシュ・グラム・マーと言う。」


Sheが再び後ろを振り向くと、Heの影は少し大きくなっていた。

どうやら走っているらしい。砂埃がHeの3倍高く舞い上がっている。


Theyはすでに知っているかのように悟った顔をして俯いていた。


一方のIは、話し半分に聞いていた。いや、半分に聞くことしかできなかったのだ。

先程の出来事が尾を引いているのか、ずっと右腕が痛む。


耐えられないほどではない。

しかしその痛みは強くなってきている。


「今、我が祖国では内乱が起きている。お前たちがこれを沈めてまいれ。」


流石のYouもこれには驚きを隠せなかった。

そんな一大事、たかだか主語の民に負わされる責務としては大きすぎると思ったからだ。


内乱? 誰が? どこで? 


今この世界を理解した主語の民にとって、

それは作られた物語、つまりはおとぎ話にしか聞こえなかった。


いくらサブ・ジェクトの話を聞いて理解しても、

今まで伝説として聞いていたYouとしてはなおさらだった。

すぐさま、はいと言うことはできない。呆然と立ち尽くすことしかできないでいる。


Sheも、Theyも、そして後からこの話を聞いたHeもきっと、

すぐには飲み込めないだろう。


そしてIだ。先ほどの腕の痛みは増しており、

いよいよ立っているのがやっとだった。話が頭に入ってはこなかった。


なおサブ・ジェクトの話は続いている。

そんな時に主語の民が取り乱してどうする。そういうことだった。


「さぁ、思い出したはずだ、お前たちの使命を! 今こそ立ち向かえ!」


静寂。

風の音が、塔の音が、そして陽射しの照り付ける音がする。


いよいよ耐え切れなくなったのはYouだった。

一歩、そして一歩を踏み出し、サブ・ジェクトへ歩み寄った。


「あの、サブ・ジェク……、あっ!」


その時、Iが力尽きたようにその場に倒れ込んだ。

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