023 ~障壁~
一向が地図上の印の場所に到着した時には、出発からもう丸一日が経っていた。
「おい、いつになったら着くんだよ。話がちげーじゃねぇか。」
「だらしがないわね。それに、いつYouが あと少し なんて言ったのよ。」
Heの気持ちは分かる。しかしそれをとがめるSheも実は参っていた。
あれほど砂ばかりが吹き飛ぶ荒野だったところは、
いつの間にか草や木が深まり、そして上がりかけの月を見る高さには切り立った岩場が現れ、Iたちを見下ろしている。
「これからあれに登るのよ……。おい、もうひと踏ん張りだぞ、ヒー。」
「おいおい、あれに上ろってのかよ……。とんだ旅になちまったな。」
しかしYouは平気そうだった。それもそのはずだ。行く先は山の上ではなかったからだ。
「ご安心を。むしろ、逆ですから。」
「えっ?」
とはI だ。Youは木々が生い茂る方に向き直り、そして目を閉じた。
「こちらです。」
わずかな気を感じ取ったというYouが導く先は、
空が緑にふさがれ岩に苔のはびこる陰鬱な場所だった。
「ここっつったって、洞窟じゃねぇか。」
「ええ、そうです。洞窟です。間違いございません。」
Iは自身の鼓動を抑えられなかった。
今にもその洞窟は動き出し、自分たちを飲み込んでしまいそうだった。
そしてその恐怖は勘違いなどではない。
「しかしお気を付けください。私より前にでないようにお願いいたします。」
皆の喉にごくりと温かいものがつたう。
私より前に出ない? もし出たらどうなると言うんだろう。
その間にもYouが一つ、また一つと岩を渡り、そして洞窟の目前に降り立った。
その背景は途端に真黒に染まり上がった。Youはその中に何かを見ている。
誰しもが身動きできない緊迫した空気の中、
その空気感がわからないの者がいた。
「なんだか他の場所より涼しくて気持ちがいいんだにゃ、っと。」
どうやら話を聞いていなかったらしい。
Itは一同の間を縫うように飛行し、そしていよいよYouの前に出た。
「あ! だ、だめ!!」
「はにゃ?っと。……っ!」
ItはYouの方へ振り返ったと同時に、力なく地面に落下した。
「Itさんっ!!!」
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