第1話 現実に夢がない


(はあ……またAI悪用でイラストレーターの絵柄盗作問題かよ)


 俺は自宅の部屋でパソコンを開いてSNSを見てため息をついていた。残業のせいで疲れてるのに、さらにしんどくなる話題ばかりだ。


(十年前はAIに憧れていたのになあ。ロボットアニメでAIと心を通わせる話は感動したけど、今はもう現実がノイズになる……)


 俺は子供のころからロボットアニメが好きだった。


 ロボットアニメにはよくAIが出て、主人公の相棒のように活躍したりしていたものだ。そして人の心を得たりする話には涙したものだ。


 当時、イラストをAIで作成できる話を聞いた時はすごくテンションが上がった。ロボットアニメの世界が現実に近づいてきたと。


 だが現実はそんな夢のある話ではなかった。AIには常に著作権の問題がつきまとっている。


 AIで絵柄を真似したイラストを作りSNSに投稿して、イラストレーター本人を偽る者まで出てきたのだ。


 そしてAIによって絵柄を盗まれた結果、筆を折ったイラストレーターまで出てくる始末。なんというか辛い。


 AIと言えばロボットと切り離せないロマンだった。AIが生まれることに憧れていたのに、いまでは触れると面倒な問題になりつつある。


 俺が十年前に期待していたAIはもっと夢があったのにな……。


 そもそも現実に夢がなさすぎる。日本は落ち目だし税金は増える一方でなんというかもう暗い。高度経済成長期が羨ましい。字面からして希望に満ち溢れて楽しかったのだろう。


 俺個人としても話せる友人がいない。中高の時の友達とも連絡を取れてないし、SNSも知り合いがいないので一方的にタイムラインを眺めてる。


 職場の知り合いと仕事の話をするくらいだ。なんというか人生に失敗した感じが……。


 SNSで誰かと話したいと思うのだが、どうやって知り合いを作ればいいんだ? わからん、最初はみんな知り合いゼロから始めてるんじゃないのか?


 俺がコミュ障なのだろうか……いつまでも暗い気持ちなのはよろしくないな。自分の気持ちをごまかす様に、他の人が楽しそうにチャットしてるSNSを流し見していると。


(おっと、もう十一時か。そろそろ寝ないと明日に響くな)


 夜九時に帰ってきて十一時に寝る生活も、子供の頃だと考えてなかったなあ……だがこれでも仕事があるだけ恵まれているほうか。契約社員だし数年先はわからないけど。


 そう考えながら立ち上がろうとしたら、急に目の前に宙に浮く黒い渦のようなものが見えた。


 ……なんかすごく疲れてるようだ。黒い点が見える飛蚊症の超強化版か? ヤバイ、それなら眼科に行ってレーザー手術してもらわないと。


 そう考えた瞬間、渦が蠢いて俺に襲い掛かってきた!?


「なっ!?」


 渦が俺の周囲にまとわりついて、辺り一面真っ黒になった。だが渦はすぐに消えていったのだが……、


「……は? ここどこ?」


 周囲は自宅の部屋から生い茂った森に早変わりしていた。


 ためしに腕をつねってみると普通に痛い……いやでも夢でしょ。などと考えて後ろを振り向いた瞬間、


「いいっ!? なんだこれ!?」


 森の一部を押しつぶすように、ビルのように巨大な白い蛇が倒れていた。胴回りの太さだけで俺の身長の倍くらいあるほどの。


(……いや蛇じゃない?)


 よく見れば大きさ以外にも蛇ではない特徴が多い。体躯こそ蛇のように長いが顔はトカゲに似ていて、身体に比べれば小さいが両手がある。さらに頭にはツノまで生えていた。


 日本の昔話などで出てくる竜としか思えない。そんな竜は巨大な牙にでも噛まれたように、身体に大きな穴を二つ開けていた。


 顔も体も微動だにしないのでたぶん死体な気はするが……流石に怖くて近づけない。仮に生きてたら俺なんて寝返りで潰されそうだし。


 などと考えていると地面が揺れ始めた。


 超巨大な四足歩行の怪獣みたいなのがこちらに向けて走って来る!?


「ひ、ひいっ!?」


 思わず森の木々の中に身を隠すと、怪獣は俺のことには気づかなかったのか少し遠くを素通りした。怪獣の通った後には、家でも建てられそうな広さの巨大な足跡がついていて……。


「……ははっ。これは夢だろ、うん。そのうち目が覚めるさ」


 だがこの夢はずっと覚めなかった。


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念のためですが私はイラストAI反対派です。

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