第39話 事後処理報告
決闘から三日後、俺たちは国際ダンジョン支部の建物にやってきた。
そして個室に案内されて、氷室さんと面会している。
「どうもこんにちは。では早速ですが今回の事件について報告させて頂きますね」
氷室さんは『事件』と強調して報告を始める。
「まず最初に綾人さんへのお咎めは一切ありません。綾人さんは
「当然ね。マスオが死んだのは魔物に踏みつぶされただけだもの」
立花は腕を組んで当たり前と言わんばかりに告げる。
スサノオが死んだのにちょっと思うところはあるが、俺が直接手を下したわけではない。
俺はちゃんとスサノオを機体の外に放り投げて、後で捕まえるつもりだった。なのに生身でダンジョン内を逃走するとは思わなかったのだ。
氷室さんはそんな立花に頷いた。
「スサノオを機体から投げ出した件に関しましても、あの状況では致し方なかったでしょう。魔物の集合は防がないとダメでしたし、彼の機体に魔物を集める発信装置がつけられていた可能性もある」
……俺はそこまで考えてなかったけどな。
もちろんスサノオの機体を放り投げる以外にも、いい方法があったかもしれない。だが魔物が集まって来た状況で、周囲の人に被害が出る前に対処するのは必須だった。
「そういう事情も鑑みまして綾人さんは無罪になります。ただ今回のみの特別措置というのはご理解ください」
笑顔で俺の方を見て来る氷室さん。
彼がこういうのは当然だろう。今回は相手がスサノオだったからともかく、他の人にも同じことをするのは容認しないと言っているのだ。
「もちろんです。自分も相手がスサノオでなければ、そもそもダンジョンの外に放り投げたりしませんよ。立花の機体のコクピットに乗せてました」
正直、スサノオだから放り投げてもいいかなと思ったところはある。それは否定できない。
もしこれがアルニちゃんの機体を放り投げることになったら、間違いなく彼女を優しく安全地帯に運んでからにしていただろう。
「それはそれで嫌ね。私と知らない男と、密室で二人きりにするつもりなの?」
「え? いや別にそういうわけでは……」
「冗談よ」
立花はクスリと笑った。
確かに知らない男とコクピットで二人きりは、嫌がる女性は多いかもしれないな。もう少し気を付けて言葉を選ぼう。
氷室さんはそんな俺たちのやり取りを見て、微妙に引きつった笑みを浮かべている。どうしたんだろうか。
「ははは……話を続けますね。実はスサノオには他の仲間もいたようで、この都市に爆弾を仕掛けようとしていました」
「…………爆弾を都市に? そんなのテロじゃないですか!? 大丈夫だったんですか!?」
「大丈夫じゃなかったら、私は昨日も残業してましたよ」
なんて説得力のある言葉だろうか。確かにそんな状況になっていたら、氷室さんとて定時では帰れなかっただろう。
「テロは警戒していましたので未然に防げました。どうやらスサノオは他国に逃げるつもりで、その陽動にテロを起こすつもりだったみたいです。綾人さんがスサノオを挑発して、事態を起こす日を限定してくれたで助かりました」
「……私が挑発したせいで、テロを起こしたとも言えませんか?」
俺がスサノオを挑発しなければ、奴もそこまで過激なことはしなかったのではないだろうか。
だが氷室さんは首を大きく横に振った。
「言えません。スサノオは元から他国とつながっていたようですので、遅かれ早かれ起こしていたでしょう」
「私も言ったはずよ。スサノオはクズだってね。それに結果的にテロは防げたのだから気にすることはないわ」
立花もそう付け加えてくれる。
いや本当によかったよ。俺の行動がキーとなってテロが起きて、それで誰か死んだりしたら辛かった。
「今回のテロ未遂はいずれ報道されるでしょう。それと共に綾人さんの決闘についても関連して話題になると思います。これまでは国内での話題でしたが、今度はテロ関係なので世界中に広まる恐れも」
「世界中にですか。なんとも規模が大きすぎて実感わきませんね」
いや本当に実感がわかない。俺がテロを防いだというのにも、世界で話題になるというのにもだ。
「ですので気を付けてください。今後は綾人さんはより注目されますし、他国から引き抜きなどの話も入って来ると思います」
「引き抜きですか? わざわざ俺を?」
「わざわざじゃないわよ。生身で魔物や機体を倒せる人間なんて、各国垂涎の的に決まってるでしょう。戦力としても研究材料としてもね」
「研究材料とはゾッとしないな」
映画とかでよく新人類を研究対象にとかあるけど、まさか自分がそれにカテゴライズされるとはなあ。
そう考えるとここが日本でよかったな。もし過激な国ならすでに捕縛されて実験体にされてるかもしれない。
「お気を付けください。日本人の私が言うのもなんですが、他国の勧誘は受けない方がいいと思います。やはり日本に比べてだいぶ過激なこともしてきますし」
「そうします。私も日本人ですし、下手に他国に出ても大変ですから」
別に日本で困ってるわけでもないし、他国に行く必要もないよな。
もし日本政府からお尋ね者にされて、ここで生きていけないとかなら考えるけどさ。
「ちなみにアメリカが引き抜いてくるとしたら、年収十億円は固いでしょうね」
「えっ? 高い……」
「さっそく揺れ動いてますが大丈夫ですか? もっと出す国もあると思いますよ。ただどう扱われるかの保証は出来ませんがね」
いかんいかん。十億円と聞いて微妙に揺らいでしまった。
やはり日本がいい、日本こそオンリーワンだ。
「それと最後に。綾人さんの探索者ランクをDに昇格させますね」
「いいのですか? 昇格試験とかが必要なのでは」
「スサノオ相手に無双して、さらに大量の魔物を追い返しましたからね。流石にEランクのままだと、色々なところから突っ込まれそうで」
そうして打ち合わせは終了するのだった。Dランクということは新たなエリアに入れるな。
それに壊れた武器も作り直さないとだし、色々とやることはいっぱいだ。よしこれからも頑張ろう!
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彼女は空中ディスプレイを表示して、綾人たちの映像を見ている。
「すごいなあ……綾人さん、Dランクになって大人気で」
有馬は羨ましそうに映像の綾人と再生数を眺めていた。
(どんどん有名になってるし強くて羨ましい。それに比べて私は……)
アルニ・ミウムのチャンネルはかつて十万人の登録者がいた。だが今のチャンネルには五万人しか残っていない。
彼女も綾人の件で少し話題になったが、目立つこともなくフェードアウトしていった。なにせただ助けられただけで、特になにもしていないのだから。
スサノオは注目されなかったことを気にしていたが、それは有馬もまったく同じ気持ちではある。無論、テロを起こすなんてことはしないが。
(負けてられないなあ、頑張らないと。それはそうとして綾人さんとまた会えないかな。結局、大したお礼もできてないし)
有馬は綾人に少し好意を抱いていた。
有馬は命の危機を救ってもらった時のことを思い出して、少し胸が高鳴らせている。
(綾人さんと立花さんって付き合ってるのかな? 今度聞いてみようかな。もし付き合ってないなら……)
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ちょっと過激な三角関係になるかもですね('ω')
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