第5話 生身ユニット


 俺は目の前の少女の言葉が理解できなかった。


「あの。ダンジョンの魔物って巨大な怪獣みたいなのですよね?」

「そうね。最も小さい魔物のゴブリンが全高十メートルほどよ」

「そんな相手に生身で戦うのは流石にあり得ないと思いませんか?」

「普通ならあり得ないわね。でも」


 白衣の少女が手を振るうと、周囲を覆うように空中ディスプレイが多数出現する。


 そこにはグラフなどが表示されていた。


「さっき貴方のパーソナルデータを確認したわ。身体能力や魔力は並外れていて、計算上は魔物相手にも引けはとらない」

「その計算の方程式を教えて頂けますか?」

「速さ×重さ×魔力よ」

「それ破壊力の計算ですよね? 最後に変なのまざってますけど」 

「敵を殺せる手段があるなら通用するということよ。貴方の場合は魔力量だけで、他をかけなくても勝てる計算になるわ」


 確かに敵を殺せるなら勝てる可能性はあるから、通用すると言っても間違ってはないけどさ。


「それと氷室からも貴方の話を聞いてるわ。半年ほどダンジョンでさ迷って、生身でオーガを蹴り殺したと」


 この娘は氷室さんの代わりに来たと言ってたからな。なら俺の状況についても説明されてるか。


 まあいい。それよりも生身は無理だと伝えなければ。


「いやあの、あの巨大鬼を倒した時は無我夢中でしたので」

「無我夢中だろうが薬物中毒だろうがオーガを蹴り殺せる人間はいないわ。なにも武装をつけずにそれなら、貴方がちゃんと装備を整えたら凄まじい力になる」

「そ、それはそうかもしれませんが」

「想像してみなさい。全身にフル装備を身に着けて、生身で怪獣を殺していく姿を。夢やロマンがあるでしょ?」

「……ッ」


 夢がある、という言葉につい反応してしまった。


 俺には夢や希望がない。現状では友人も貯金もない上に、仕事もなくて職歴もブランク十年の終わっている人間だ。


 だからこそ夢が手に入るなら欲しいと思ってしまう。たとえ他人にとってはバカな考えだとしても。


 ロボットに乗れないなら次の選択肢を掴みたい、とは思う。思うけど。


「……ちょっと考えさせてください」

「まだ迷ってるの? なら用意してた二つ目の殺し文句を使おうかしら」


 殺し文句を武器みたいなノリで用意しないで欲しい。だがなにを言われたところで俺は即答などしない。夢は欲しいが命は惜しい。


 そんな俺にたいして彼女はニコリと微笑んだ。


「貴方がさっき倒したオーガだけどね。死体が二十万円で買い取りされてるわよ」

「本気を出す時が来たようですね」


 今の俺は無職で十年のブランクがある人間だからな。


 急いで活動しないとどんどん人生が不利になっていく。なんにしても金は必要だろう。金があればなんでも出来るとは言わないが、大抵のことは金で解決できる。


 ……いやだって二十万円だぞ? 俺の月収と変わらないんだぞ? 


 俺の返答がお気に召したのか、少女はものすごく嬉しそうに笑った。


「無事に殺せたわね。じゃあさっそく貴方の装備を整えるわよ。ここの店員に試乗機爆発の口止め料と称すれば、それなりの装備を無料で揃えられるはず」

「あ、あのちょっと待ってください。その前に名前を教えて頂けますか?」


 いまだに話し相手の名前を知らないと言うのは気になる。


「ああ、そうだったわね。私は立花理香たちばなりかよ」


 白衣の少女改め立花さんは淡々と告げてくる。はてどこかで聞いたような名前だ。


「……あ、【現代の妖精】と呼ばれてる人ですか?」


 さっき、氷室さんの見せてくれたニュース番組で名前を聞いたんだ。


 すると立花さんは明らかに不機嫌そうな表情になる。


「そのあだ名はやめてもらえる? 私にとって最悪の悪口なの。次に言ったら多少痛い目に合ってもらうわ」


 ……どうやら地雷だったようだ。【現代の妖精】が悪口とは思えないが、本人が嫌がってるなら言うべきじゃない。


「すみません。今後は言わないようにします」

「言ってもいいわよ。痛い目に合わすだけだから。じゃあさっそく店に不備を指摘して、貴方の装備を無償で揃えましょうか」

「……それはダメじゃないですか? 完全に悪質クレーマーですし」


 人間、誰しもミスはするものだ。


 そもそもさっきの試乗機爆発が俺のせいなら、むしろ賠償を払うのは俺の方では……払える金ないけど。


「なにを言ってるの? 裁判で訴えれば最低でも億以上取れる上に、会社の評判や株も大暴落するところよ。それをたった数百万程度の装備で勘弁するのだから、むしろ良質のお客様よ」

「良質なら笑って許すのでは……それに俺の魔力が多すぎるのが事故の原因なら」


 すると立花さんはすごく不機嫌そうな顔で俺を睨んできた。


「バカを言わないで。本来なら爆発する前に停止機能があるのが当たり前よ。それがなかったのは完全に店側が悪いの。むしろそれで乗り手の責任なんてするなら、技術者への冒涜よ」

「は、はあ……」

「だから貴方は当然の権利として店から装備をねだりなさい。代わりに訴えないと告げれば泣いて喜ばれるわ。交渉は私がやるけどね」


 しばらく部屋で待っていると、店のお偉いさんっぽい人が入って来た。


「こ、この度は誠に申し訳ありませんでした! 弊社の不手際で大変なご迷惑を……」


 お偉いさんっぽい人は平身低頭で俺に謝罪してくるが、それを立花さんが手で制すると。


「訴えるつもりはないわ。代わりに装備パーツを無償にして欲しいの。怪我もなかったしそれでなかったことにしたい、と彼の希望よ。物質製造機マテリアルプリンターで完全オーダーメイドにするけど」

「そ、装備パーツを? もちろんですとも!」


 お偉いさんっぽい人は少しホッとしていたので、悪い条件ではないのだろう。


 ともかく装備の費用を完全負担してもらえることになった。


 さっそく俺たちは先ほどの工場みたいな部屋に戻って、高さ2メートルほどの機械の箱の前にいる。


「これが物質製造機マテリアルプリンターよ。細かい説明は省くけどダンジョンの魔素を使って様々なモノを造り出す装置。本来なら機体の武器の試作として、ミニチュアモデル作成用だけどね」


 立花さんは機械の箱のコンソールを叩き始める。すると箱から光が照射されて、まるで絵でも描かれるかのように物体が生まれていく。


 最終的に物体は円柱状のバズーカ砲になってしまった。


「これはビームバズーカよ。お試しで作ったけどなにか欲しい装備はあるかしら?」

「えっと。ガトリングとかも作れるのですか?」

「もちろんよ」


 そうして俺は希望の武器を告げて作ってもらい、さっそく身に着けている。


 なおパワードスーツなどはなく私服のままだ。


「……私服にガトリング砲って合わなくないですか? パワードスーツとか……」

「人が着れる程度の装甲服より、貴方の生身の方が硬いから不要よ。むしろ動きを阻害するだけ邪魔」


 いや俺、どんな化け物になってるんだ……? なんで?


「それに物質製造機マテリアルプリンターだと、どうせ大した装備は作れないわ。もっと資金があればブースターパックも用意できるのだけれど」

「これも十分ヤバイと思いますけどね」


 俺は右手には身の丈ほどのビームガトリング砲をつけている。普通なら片手で持てる重量とは思えないのだが、ものすごく軽々とできていた。


 ……本当に俺は力が増しているようだなあ。


 それと腰には鞘付きの剣をつけている。刀身にビームを纏うヒートサーベルというらしい。


 実刀身があるのでビームサーベルではない。


「じゃあこの装備で魔物のいる場所まで向かいましょう。最初は弱いゴブリンなどがいる比較的安全な場所よ」

「比較的というのが気になりますが」

「魔物が出る場所で安全神話は存在しないわ。安心なさい、私も迷宮魔導機ダンジョンモビルに乗ってついていくから」

「もうすぐ夜になるのでは?」


 たしかダンジョンに入る時点で、三時とかだった気がするんだが。


「まだ午前十時だから問題ないわ。ダンジョンの外と中では時間の流れも違うし、時差もあるのよ」


 そうして俺たちは魔物のいる場所に向かうことになった。



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好きな武器作れるロマン。

生身じゃないけどカスタ〇ロボってありましたよね。


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