第6話 十メートルの小鬼とかいう矛盾


「私の【バロネット】の乗り心地はどうかしら?」


 俺は巨大ロボットのコクピットの中にいた。


 隣では操縦席に座った立花が、両手で持つタイプのゲームコントローラーを使って機体の操縦をしている。


 ちなみにこの機体はバロネットという名前の、上半身が人型で下半身がキャタピラで両肩にキャノンをつけたタンク系ロボだ。乗り込む前に姿を見たけどものすごく大きくて、サイズを聞いたら全高二十五メートルだそうだ。デカすぎるだろ。


「キャタピラって揺れないんだな」


 立花に敬語は不要と言われたのでタメ語で返す。


 まあそもそも一回りくらい歳の違う相手に、俺だけ敬語を使うのもおかしな話だ。


 あ、いまの俺は十六歳か……。


「振動は制御装置で消してるのよ。さて狩りやすい小鬼ゴブリンでも狙おうと思ったけど、いざ探すとなかなか見つからないわね」


 立花はキョロキョロと首を動かす。コクピットの壁は全天性モニターで、まるで外にいるかのように周囲の景色が見えている。


 特に遮る物もない平野なのだが魔物は見当たらない。


「小鬼と書いてゴブリンなのに、十メートルもあるなんてなにか間違ってる気がする……どこが小さいんだよ」

「小さいはあくまで平均と比べての単語でしょう。例えば一般人で身長が百八十センチもあればかなり高いけど、バスケ選手なら低いに入るでしょ?」

「理屈は分かるけどさ」

「ここを探しても時間のムダね。次の場所へ行くわよ」


 立花はコントローラーを操作してバロネットを加速させた。コクピットから見える景色がすごい勢いで変わっていく。


「ところでなんでゲームのコントローラーで操作してるんだ?」

「操縦しやすいからよ。迷宮魔導機ダンジョンモビルは操縦者の意思を読み込むから、操縦イメージがつけばなんでもいいの。本人の好み次第で機体によって操縦方法もバラバラよ」

「操縦桿タイプもあるってことか」

「他にはコンソールタイプとか、すごいのだと自分の身体の動きを追随させるのまであるわね」


 なんという夢みたいな話だろうか。


 ロボットの操縦方法と言えば色々とあって、ロボット物では個性が分かれるところだ。それを好きに決められるとは。


「……魔力って万能すぎないか?」

「同感ね。私もそう思うわ。だからこそ魔法の力で魔力名付けられたのだけどね」


 などと話しているとピピピと電子音が鳴り響いた。


「ゴブリンを発見したわ。一体だけなのは残念だけど」


 少し遠くに見えるのは緑色で腹が膨らんだ、四頭身ほどの鬼だった。


 なるほど確かにあれはゴブリンだ。よく聞くファンタジー系の魔物イメージそのままだ。


「……なんか物語に出てくるゴブリンと姿が似すぎじゃないか?」

「ダンジョンに出てくる魔物は、だいたいがどこかの神話や昔話に出てくるやつよ。そもそもこのダンジョン自体が、人の願望が地下に溜まっていって生まれたと言われているわ。なので出てくる魔物も人のイメージする怪物になってると」

「そうなのか。勉強になる」

「というのが私の持論よ」


 微妙に信じてしまったじゃないか畜生。


「ほら綾人。外に出てゴブリンを殺してきなさい。あいつらでも多少のお金にはなるわ」


 立花がコントローラーのボタンを押すと、コクピットのハッチが開いて外から風が吹いてきた。


 ふー、いざとなると緊張するけど……。


「わかったよ。じゃあ行ってくる」


 俺はコクピットから飛び降りて地面へと降りる。十メートル以上は落下したはずだけど特に恐怖は感じなかった。


 俺は軽く走ってゴブリンたちの側へと近づいた。


 奴は小鬼とも呼ばれていて、このダンジョンで一番小さな魔物だそうだが。


「……やっぱり大きいよなあ。こいつらが鬼だなんて詐欺だろ」


 俺より遥かに大きいゴブリンたちを見上げながらついぼやいていた。


 ゴブリンの全長は十メートルほどで、俺よりも五倍以上大きいからなあ。


「ぐぎゃあっ! ぐぎゃあっ!」


 ゴブリンは俺を見て、甲高い声を出して笑い始めた。


 図体がデカいので暴走族のバイクのようにうるさいが、どうやら俺はバカにされているように思える。


 サイズ差を考えればそりゃそうか。ネズミが人間に立ち向かうなんぞおかしな話だし。


「前のオーガよりは小さいし今回は武器もあるからな」


 俺は右腕のガトリング砲をゴブリンに向ける。


 やはりというか奴らがまったく怖くない。まるで負ける気がしないのだ。


 我ながらおかしいよなと考えていると、バロネットから立花の声が響いてくる。


『綾人、さっさとやりなさい。そのビームガトリングは貴方の魔力を弾丸にする武器よ』

「……さっきの試乗機みたいに爆発しない?」

『自爆がお好みなら機能をつけておけばよかったわね。吸収する魔力量に上限リミッターをつけてるわよ。リミッターを外したら、オーバーロードして爆発するでしょうけど』

「つまり外さなければ大丈夫ってことだな。了解だ」


 そうと決まればさっそく試し打ちをしよう。


 俺はガトリング砲がかなり好きだ。無数の弾丸で敵を蹂躙して、空の薬きょうを大量に打ち出すのはまさにロマン。


 まさか撃つ機会に恵まれるとは思わなかったけどな。


 撃ちたいと思うと、ガトリング砲になにかが吸い込まれる感覚がした。さっきの試乗機と似た感覚だが、魔力が吸われているということだろう。


『ふふふ、やはり貴方の魔力量は異常ね……! どうやったらそれだけの魔力が……! ふふふっ……あはは……! この力があればっ!』


 バロネットから少し興奮した声が聞こえてくる。なんか悪の科学者みたいな発言になってないか?


 というか俺もなんでそんなに魔力があるのか気になる。そんな変なことした覚えがないのだが。まあいいか。


 ガトリング砲が回転していき、銃口に紅の光が満ちていく。引き金を引けばいつでも撃てそうだ。


「ぐ、ぐぎゃああああああ!?!?」


 するとゴブリンはしっぽを巻いたように、俺に背中を見せて逃げ始めた。


『あら、貴方の魔力に驚いて逃げるみたいよ?』

「なんか微妙に可哀そうになってきたんだけど」

『ゴブリンは末端価格で一万円を超えるわよ』

「是非もなし」


 俺は躊躇なくガトリング砲を発射すると、大量の光の粒子が雨のようにゴブリンに向けて放たれる。


 光の雨はゴブリンの後頭部に当たり、そのまま貫通してしまった。


 地響きを立てて倒れるゴブリン。しばらく待つが起き上がる気配もない。


「よかったわね。前代未聞の生身による初殺しおめでとう」

「……初討伐とかにしてくれないか? 言葉のチョイスが悪いだろ」

「ニュアンスは一緒でしょう。それよりゴブリンに近づいて足蹴にしなさい。人類が初めて生身で魔物を殺した記念写真を撮ってあげるわ」

「いらない……」


 そう言いつつ倒れているゴブリンに近づいていく。でかい図体で地面に倒れているのを見ると、こんなのを倒した自分を賞賛したくなる。

 

「じゃあこの死体は回収屋に依頼していくから、他にも何体か狩りましょうか」

「えっ? ここはお疲れ様で帰る流れでは?」

「ここまで来て一体だけなんて時間のムダよ。五体は狩らないと割に合わないわ」

「ええ……」


 そうして近くにいたゴブリンを四頭ほど同じように狩っていく。ビームガトリング砲で離れたゴブリンを倒すだけの簡単なお仕事だ。


「よし五体目っと。これで今日は終わりだよな?」


 五体目のゴブリンの頭をビームガトリングの弾で打ち抜いた。ドシンと倒れるゴブリン。


『よしよし。じゃあ五体倒したし帰りましょうか。それと今回の貴方の戦闘映像も提出していいかしら? 魔物を討伐した証明に証拠映像が必要なのよ』

「そうなの?」

『映像がないとたまに揉めるのよ。魔物の死体を盗まれた! とかでね。倒した映像を出さないと盗死体扱いされる恐れがあるの』


 魔物の死体を盗む奴なんているのか……いやでも魔物の死体によっては二十万円とかするんだもんな。


 二十万円のモノが転がっていたら、運ぶ手段があれば盗る奴はいるかもしれない。


「わかった。別に損はないし大丈夫だ」

『了解よ。死体回収業者に依頼しておくわね』


 そうして俺たちは帰路についた。




------------------------------

バロネットはガンタ〇クです。


週間現代ファンタジー119位でした。ありがとうございます!

順位上がってるので今日中にもう一話投稿予定です。


続きが気になりましたら★やフォローを頂けると幸いです!

執筆モチベが上がります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る