第7話 意味不明


 私は水瀬ハルカ。魔物の死体回収の仕事としている、モンスタークリーンカンパニーの大卒新人社員だ。会社名ダサいと思う。


「お、また魔物の死体回収依頼が来たぞ。東京ダンジョン第一都市の東側だそうだ。ほら水瀬、出撃の準備をしろ」

「わかりました」


 戦艦の休憩室で休んでいると上司に話しかけられてしまった。


 我が社は迷宮魔導機ダンジョンモビルと戦艦を使って、探索者が倒した魔物を回収する仕事をしている。


 魔物は巨大なので狩っても持って帰るのが難しい。でも放置していたら腐ってしまうので、私たちみたいな死体を回収する業者にお株が回って来る。


 いまはダンジョンで魔物を狩る時代なので、この仕事はなくならないだろう。個人で戦艦を所有している人でもなければ、魔物を殺しても簡単に回収する手段はないし。


 と言ってもこの会社で終身雇用は狙っていない。私の夢はたったひとつ、ダンジョン探索者として生計を立てて有名人になってお金持ちになってイケメンと結婚すること。


 ただ探索者として活躍するには準備が必要だ。探索者になるだけなら百万円もあればいける。迷宮魔導機ダンジョンモビルを購入して探索者登録するだけなので簡単だ。


 でも活躍して有名になるなら話は別。迷宮魔導機ダンジョンモビルもいいのを用意する必要があるから、百万程度ではまるで足りない。それに操縦技術も鍛えないとダメだし。


 今の仕事なら迷宮魔導機ダンジョンモビルの操縦訓練をしつつ、貯金して優秀な機体を購入することもできる。出来れば三年後、二十一歳くらいには探索者になりたいなあ。


 強い魔物を倒せれば報酬で稼げる。それに強い探索者は人気が出るので、有名人になって配信でのスパチャやPVマネーで不労所得……! 私ならできる!


 そしていきなり現れた新星美少女探索者として有名になってうへへ……。


 そんなことを考えながら私は機体ドックへと到着して、乗機のDMディムの操縦席へと乗り込んだ。


 すると通信音声が入って来る。


「水瀬、問題はないな?」

「はい! 人生プランは完璧です!」

「……機体には問題ないな?」


 しまった。つい頭の雑念が漏れてしまっていたようだ。


「ないです! 今回はなんの魔物の回収ですか?」

「ゴブリンだ。ただし五匹だがな。しかもソロで倒したらしい。いや羨ましいことだぜ、俺も強ければなあ!」


 先輩社員の河原さんの豪快な笑い声が聞こえる。彼は三十二歳で八年目の大ベテランだ。


 この魔物死体回収の仕事が生まれたのが八年前なので、彼よりもベテランの人間はほぼ存在しない。つまり彼は大ベテランのルーキーみたいなものだ。大ベテランのルーキー? まあいいや。


「五匹をソロ討伐ですか。腕のいい探索者ですねー」


 まあ私がデビューした時には十匹くらいは倒してやる予定だけど! 同年代に出遅れた分だけゴブリンに無双する予定だ。


「それが昨日狩り始めた新人らしいんだ。顧客情報にこれまでの魔物討伐記録がない。初めての探索、しかもソロで五匹のゴブリンとは天才っているもんだなあ」


 魔物は強いので狩るのは難しい。 


 ゴブリンは最弱の魔物ではあるのだけれど、だからと舐めて殺される探索者たちが後を絶たないのだ。


 ゴブリンの硬い爪や牙は、迷宮魔導機ダンジョンモビルの装甲くらいなら簡単に貫いてくる。数的不利を取られたら熟練者でも危うい敵だ。


 だけど見た目が迷宮魔導機ダンジョンモビルより小さいから舐めてしまうみたい。なんでみんな舐めちゃうんだろうね、ちゃんと現実を直視すべきだよ。


 まあそれは普通の人の話で、私みたいに才能があれば楽勝だけどね! 


「将来有望で羨ましいねえ。討伐の証拠映像もつけてるみたいだし、討伐確認がてらお手並み拝見しようじゃねえか」


 河原さんから映像が送られてきたので、空中ディスプレイを起動して確認する。


 だがそこに写っているモノを見て、困惑しつつ首をかしげてしまった。


「ん? 間違えてヒーロー映画の映像でも送って来たのか?」


 河原さんがそう言うのも当然だろう。だって流れている映像には生身の少年がゴブリンと相対しているのだから。


 そして彼は十メートルの高さのゴブリンの頭に乗って、手に持っていたガトリング砲で撃ち殺してしまった。


「へー。最近の映画って凝ってるんだなあ。ゴブリンが本物にしか思えねえよ」

「そうですねー。ただ映像のクオリティに比べて題材がダメダメです。生身でゴブリンを倒すのは、いくらなんでもリアリティがなさすぎますよ」


 いくらなんでも盛り過ぎだ。流石の私でも生身でゴブリンを倒すなど、妄想したことは一度しかない。


「馬鹿馬鹿しいよな。現場を知ってる俺らからすれば子供だまし以下だよ。こんな動きが出来る人間がいるはずもなければ、人が扱えるサイズの兵器じゃ魔物は倒せねえ」


 人間が生身で魔物を倒すのは不可能だ。


 巨大ロボットでなんとか倒せる相手に生身で勝てるわけがない。勝てるなら機体いらないじゃん!


「子供ならこんな映画でも盛り上がれるのかねえ? まあ証拠映像がなくてもゴブリン程度なら、死体の奪い合いとかの揉め事も起きないだろ。さっさと戦艦に収納して冷凍保存するぞ」

「わかりました」


 そうして戦艦が目的地についたので、私たちは乗機をハッチから出撃させて地面へ降りる。


 そこにはゴブリンの死体がひとつ転がっている。


 ……あれ? えっと、これって。


「水瀬、さっさと回収するぞ。あと四体あるんだからな」

「あ、あの。この死体の死にざまが綺麗過ぎませんか?」

「相変わらず妙な表現するなあ。死体にキズがないってなら同意だが」


 そう綺麗すぎるのだ。本来なら魔物の死体というのは、頭が潰れていたり腕がちぎれていたり、そもそも上半身が潰れてたりが普通だ。


 迷宮魔導機ダンジョンモビルで手加減をするのは難しいから、どうしても無駄な破壊が多くなってしまう。結果として買取値段が下がってしまうのでもったいない。


 だがこの死体はキズ一つないかのように死んでいた。


「たしかにそうだな。これなら回収費用など取っ払って、五万円くらいで買い取りになりそうだな」

「いったいどうやって殺したんでしょうか。殺し方教えて欲しいですね、殺し方」

「若い女の子が殺す殺す言うな。おいおい俺らは検死役じゃないんだぞ? さっさと死体を回収して終わりだ」


 ……そういえば映像だとゴブリンの後頭部を貫いていた気がする。


 試しにカメラの倍率をあげて死体を確認してみると、映像と同じ箇所に打ち抜かれた穴がある。すごく小さいから気づかなかったけど。


「河原さん! ゴブリンの後頭部に小さな穴があります。その、先ほどの証拠映像どおりに!」

「まじじゃん……こんな小さな穴が魔物に空いてるの見たことねえよ」

「あの。もしかしてさっきの証拠映像が、本物だったりする可能性って……!」


 あり得ないことがあり得てしまう。


 もし本当ならこの証拠動画をSNSにでも流せば、途端にバズって有名人になることも夢じゃない。


 くっ! 守秘義務さえなければ今すぐ流すのに! なんで私は仕事の時に巡り合ってしまったんだ!


「い、いや流石にあり得ねえよ。俺はダンジョンで探索者が活動し始めた時から、死体の回収をしているんだ。魔物の強さは一番よく知ってる。魔物は迷宮魔導機ダンジョンモビルに乗らないと殺せるわけがない」

「でも」

「いいから作業を進めるぞ。ゆっくりしてたら綺麗な死体が痛んでしまう」


 そうして私たちは依頼された五体のゴブリンの死体を回収しに回った。でもそのすべての死体が、すごく綺麗な死にざまで、


「証拠映像が本物だった可能性あったりします?」

「あり得ないことを言うんじゃない! ゴブリンは十メートルもあるんだぞ! 迷宮魔導機ダンジョンモビルもなしに殺せるわけないだろ!」

「じゃあこの死体たちはどうやって殺されたんですか?」

「なんか電気ショックとかが開発されたんだろ! 心臓麻痺を引き起こす感じの!」


 十メートルの巨体に対して、外側を一切焦がさずに殺す電撃もかなりヤバイと思うんだけどなあ。


 まあ生身で魔物を殺すのはあり得ないし、なにか新兵器でも開発されたのかなー?



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