第8話 ゴブリンのお値段


 俺たちはゴブリンを五体倒した後、東京ダンジョン第一都市に戻った。


 ちなみに立花の機体だがなんと自前のドックにしまっていた。すごいよなドック持ちって。


 そして俺たちはいま、マンションの一室にいる。俺が一年ほど貸してもらえるマンションはダンジョン都市のものであった。


「ワンルームで家具は揃ってるのか。すごく助かるなあ」

「なにを言ってるの? 本来ならもっと広い部屋が与えられてるはずよ。氷室め、家賃費用を明らかに削ってるわね」

「いやいや。ワンルームのマンションを借りてもらえたら、すごくありがたいよ。東京で借りようと思ったら月にいくらかかるか……」

「この部屋なら月に二万円以下よ」

「はあ!? 地下とは言えども東京だろ!?」

「いまの日本はダンジョンのおかげで土地が余ってるから、土地代がかなり安くなってるわよ?」


 なんてことだ。国土が広い外国なら土地代が安いと聞いたことがあるが、まさか日本の東京で土地が暴落するなんて。


 ダンジョンが日本に与えた影響すごそうだな……。


「ともかく俺としては住む場所があるだけでありがたいよ。それより今日はありがとう。本当に助かったよ」


 立花に対して頭を下げる。


 感謝の気持ちは大事だ。相手に助けてもらったならしっかりと礼は言わないと。


「……本当ならお礼に食事のひとつもおごりたいのだけれど、あいにくお金がなくてね。むしろ食事を安く食べられる場所を教えて欲しいのだけれど。半額弁当が売ってるスーパーとか」


 なんと恰好がつかないことか。自分より一回り以上も小さい少女相手に、安い食事を取れる場所を尋ねるとは。


 ただどう考えても節約しないとダメなので、スーパーの半額弁当様などのお力を借りなければ。半額総菜もいいぞ。


「あら。お金ならあるわよ? ゴブリン五体の討伐代が振り込まれてるから、貴方の口座に送ったはずだけど」

「え、本当?」

「本当よ。これで空中ディスプレイを使えるようになるから、ついでに確認してみなさい。出ろと念じれば出てくるわ」


 立花が渡してきたカードキーみたいなのを受け取って、出ろと念じてみると本当に空中ディスプレイが出現した。 


 試しに手で触ってみるとフヨンとした感触がある。


「すごいな。このカードを持っただけで空中ディスプレイが出るなんて」


 空中ディスプレイに銀行口座らしきアイコンがあったので押してみると、残金などが表示されていく。


 ――神崎綾人様 250000円


「……は? 二十五万円?」


 ゼロを数え直すがやはり五つある。一、十、百、千、万、十万……。


「ゴブリン一体は本来なら二万円なのだけど、状態がよかったから五万の値がついたいみたいね」

「五万円……? あれで一体五万円……?」

「なにを呆けた顔をしているのよ。ひとりでゴブリンを五頭倒したのだから、多少のお金が手に入るのは当たり前でしょ」

「あ、あの。この金額って税金とかは……」

「全部引かれてるわよ。探索者に余計な手間をかけさせないためにね」


 二十五万円。それは俺の月の手取りよりも多い、いやなんなら月収よりちょっと多い。


 つまり俺の月収は五ゴブリン。年収は六十ゴブリンということになる。


「え? 待って? 一日で月収分を稼いだってこと?」

「言ったじゃない。ダンジョン探索者は儲かるって。これで半額弁当じゃなくて全額弁当を食べられるわね」

「……いや待て。これだと立花の分け前がないんじゃないか?」


 ゴブリン一頭五万円ならば、二十五万円は今回の討伐報酬全額になるはずだ。


 立花も手伝ってくれたのに俺が全部もらうのはおかしい気がする。


「いらないわ。今回の私は氷室の代わりに貴方の面倒を見ていたのだし」

「でもそれは悪いような。迷宮魔導機ダンジョンモビルを動かすのにもお金かかるんじゃないの?」

「問題ないわ。貴方のおかげで素晴らしいデータが取れたから、むしろ私が謝礼を支払ってもいいくらいよ。なので相殺としましょう」


 立花は淡々と告げてくる。なんとなく彼女は嘘はつかないタイプに思えるので、俺に気を使っての発言ではないように思える。


「ありがとう。助かるよ」


 でも助かったのでこの借りはいずれ返そう。お金以外のもので。


「それでそろそろ晩飯の時間だけど、なにか食べたいものはあるのかしら? いまの貴方には二十五万円があることを前提にね」


 立花は挑戦的な笑みを浮かべてくる。まるで俺の度量を試すかのように。


「なら焼肉が食べたい」

「いいわよ。予算は十万円くらいでいいかしら?」

「いやあの一万円くらいで……」


 十万円なんて一食で使う金じゃないだろ!? そんなお高いお肉様を食べたら、緊張で味が分からない自信がある!


「貴方、セコイって言われない?」

「いやあの二人で一万円はやや高めの店ではないかと……」

「はあ……これだと先が思いやられるわね。いいわ、今日は私がご馳走してあげる」

「ただでさえお世話になってるのにそれは流石に……」


 と告げた瞬間に立花がニヤリと笑った気がした。


「それなら私のお願いを聞いてもらえるかしら? 明日もダンジョンに潜りましょう」

「え、二日連続でダンジョンに行くのか?」


 二十五万円も儲けたのだから、数日は休んでもいいかなと思ってたのだけど。


「なにを言ってるの? 魔物を討伐してお金を稼いで、強い迷宮魔導機ダンジョンモビルを購入して、さらにお金を稼ぐのがダンジョンの鉄則よ! 今の貴方じゃたったの年収三百万円じゃない」

「年収三百万円って悪くないと思うのですが」


 すると立花は『こいつ正気か?』と言わんばかりに俺を見て来た。


「今の日本の平均年収は七百万円よ? また今年になったら上がるだろうけど」

「な、七百万円? そんなの上流階級の給与では……」

「ダンジョンによって経済が跳ねあがってるのよ。ちなみにダンジョン探索者のトップクラスは年収五十億を楽に超えるわよ。私ですら三億くらいはあるのに」


 もはや大人気スポーツ選手のトップクラスの年収じゃん。


 天文学的数字過ぎてまったく実感が湧かない。そして目の前の少女が凄まじい金持ちだった件について。


「ほら行くわよ。このダンジョン都市で一番高い食事店で、豚や牛の魔物の肉を食べまくるのよ!」

「一番高い食事店ってお値段おいくらですか……?」

「二人で十万円くらいじゃない? これ以上高い店はこの都市にないみたいだし」

「いや高すぎませんか……? ちょっと胃の調子が悪く……」

「なにを言ってるのよ。これからも私とダンジョンに潜るのだから、これくらいで臆されたら困るの。さあ行くわよ」


 そうして俺は魔物肉の焼肉屋で奢ってもらった。


 語彙力が低くてアレなのだが死ぬほど美味かったのだが……、


「あ、チューハイください」

「お客様の戸籍年齢は未成年のためダメです」


 酒が飲めなかった。お酒ェ……。



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こんな夢のある日本になりませんかね('_')


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