第9話 AIを作るために稼ごう


 目が覚めると森ではなくてマンションの一室だった。


「あ、そうか。日本に戻って来たんだった」


 昨日は焼肉を食べた後にここに帰ってきて、そのままベッドで寝てしまったんだ。


 日本に戻ってからまだ一日しか経っていないんだよな。昨日はあれだけ動き回ったけど、地上とダンジョン内の時差の関係で。


 そんなことを考えていると、空中にディスプレイが表示された。見ると『氷室さん 着信中』と表示されているので受信ボタンを押す。


『おはようございます、氷室です。昨日に私が帰った後、立花さんにお任せしましたがいかがでしたか。なにか不満などありましたか?』

「立花さんにはよくして頂いてますよ。不満なんてまったくありません」

『そうですか! それはよかった! 実は今日も立花さんが『これからも私が面倒を見る』と言ってきたのですが、彼女に全てお任せしてもよいですか?』

「大丈夫ですよ」


 立花さんは少し言葉はキツイが悪い娘ではないように思える。


 それに俺としても少し怖めのオジサンよりも、女の子の方が嬉しいところはあるし。


『わかりました! では立花さんにお任せしますね! 本当にありがとうございます!!!! 失礼します!』


 すごく喜んでいる声でお礼が言われて通話が切れた。


 ……ところで俺の面倒を見るのって、本来なら氷室さんの仕事な気がするが大丈夫なのだろうか? まあいいか。


 なんとなく部屋の家具などを確認していると、またもや通話がかかってきた。今度は立花からだ。


『おはよう。入り口の鍵を開けてくれるかしら?』

「ええと。どうやって開けばいいんだ?」


 入口の扉に近づいたが鍵の類が見当たらない。


『空中ディスプレイの中に、部屋のロック解除機能があるわ。ちなみに室内にいなくても自由にロックや解除ができるから』

「えーと。あ、本当だ」


 さっそく操作すると扉がガチャリと鳴って、立花が部屋に入って来る。


「昨日はよく眠れたかしら?」

「すごくグッスリと」

「それはよかったわ。疲れが残った状態だと行動に支障が出るもの」


 立花はそう告げるとベッドに腰かけて、足を組んで俺を見てくる。


「じゃあこれからのことについて話すわね。まず貴方の面倒を直接的に見るのは、氷室じゃなくて私になったわ」

「よろしくお願いします」

「敬語は不要と言ったはずよ。ただ私は国際ダンジョン機構の人間じゃないから、の協力者になるわ。頭の片隅に入れておきなさい」

「そこは善意では?」

「私は善意で人を助けたりしないの。貴方のデータを取ったり、ダンジョンに一緒に潜ることでメリットを大きな得るつもりよ。なので貴方は私に面倒を押し付けていいわ」


 婉曲的な言い方だが、つまり『気がねなく頼ってね』ということかな。


「それで次。じゃあ今日から貴方はどうするかだけど、やはり探索者としてダンジョンに潜って稼ぐべきね。それで氷室に確認したら、探索者についての説明をろくに受けてないと聞いたの」

「たしかに大したことは聞いてないかな」


 立花は小さくため息をついた。


「まったくあのてきとうオヤジは……じゃあ私が説明するわね。探索者というのはダンジョンで魔物を狩ったり、鉱石や薬草などの素材を採取して稼ぐ職業よ」

「鉱物や薬草?」

「ダンジョンのモノには魔力が宿っていて、地上のモノより優れているのよ。例えばダンジョン産の鉄鉱石で作った鉄は、地上産のよりも遥かに頑丈よ。薬に使う植物でも効能が段違いなの」

「魔力ってすごいんだね」

「魔法のような力だから魔力と言われているのよ。最初は迷力とか言われたけど、気が付いたらみんなが魔力と呼ぶようになっていたわね」


 この魔力というのが十年前と今の一番の違いなんだろうな。


 いまさらだけど魔力ってファンタジー感がすごい。まあダンジョンに出てくる魔物とかもそうだけどさ。


「探索者は危険が伴うけど、その分だけ稼げるわ。最初は弱い魔物を狩ってお金や素材をためて、そこから機体や装備の質を上げていくことになる」

「じゃあ俺も同じようにするってことかな」

「そうね。貴方の場合は機体は不要だから、装備の質を上げることになる。今の装備は最低限の品質だからね。後は母艦になる戦艦があってもいいわね」


 この都市に入って来た時に、上空に巨大な船が飛んでいた。あれが戦艦ということなのだろうか。


「戦艦って個人で所有できるのか? というか売ってるのか?」

「売ってるわ。かなり高いけどね」

「売ってるのか……」


 戦艦が売ってる世界とかSF(スペースファンタジー)みたいだ。いや今の世界はファンタジーみたいなものだけど。


「……そういえばダンジョンに宇宙はあるのか?」


 ダンジョンは地下なのに空がある。なら宇宙があってもおかしくはない気がする。


「現状だと不明ね。宇宙まで目を向けなくても、地上すら開拓しきれていないのよ? 誰も試してないわ」

「そりゃそうか」


 人間が宇宙に上がったのだって、地球の大半を掌握してしまったからだろうしな。地上で資源も土地もダダ余りしてるのに、手間暇に金をかけて宇宙に上がろうとはしないか。


「他にやることは探索者の仲間を増やして、パーティーを結成することね。私と貴方の二人だけだと限界があるもの。可能なら五人くらいのパーティーにしたいわ」

「人間関係が不安だなあ……」


 俺は友人を作るのがあまり得意じゃない。


 すると立花がクスッと笑った。


「大丈夫よ。合わなければ即解散すればいいだけだもの」

「そういうものなの?」

「そういうものよ」


 それなら仕事での人間関係よりは楽そうだ。


 職場で合わない人間がいるとしんどいが、探索者ならバイバイすればいいというならば。


「とにかく今後の動きとしては、探索者として強くなりましょう。その上でひとつ提案があるのだけど」

「提案?」

「貴方の補助用のAIを作らないかしら?」


 AI。それは人の夢でありながら、現実になるとかなり面倒なものだ。


 具体的には著作権とかのせいで、現状だと悪いイメージがついてしまっている。


「AIなあ……」

「あまり気が乗らなさそうな顔をしてるわね。でもAIは迷宮魔導機ダンジョンモビルに当たり前に使われてる技術よ。操作補助や後方警戒など、ダンジョンを探索するなら必須のモノ。貴方は生身だから専用のAIが必要と思うのだけど」

「いや著作権とかの問題がね?」


 ちょっとぼかしたように告げたのだが、立花は納得したように頷いた。


「ああ、そういうことね。十年前は色々と問題があったけど、今のAIはそういった問題はすべて解決されてるわ。特に問題だった画像生成AIについても、ね」

「そうなの?」

「ええ。例えばイラストレーターの画像生成AIが使われるたびに、その生成AIの元となった著作者に料金が支払われるの。違法AIは存在するけど、あくまで違法で見つかったら逮捕されるわ。許可のない画像学習も違法よ」

「まじ?」

「嘘をつく意味がないわよ。それでいいAIを作るのにはそれなりのお金がいるから、ダンジョンに魔物を狩りに行きましょうか」



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イラストaiはボカロみたいにできたらと思ってます。

望んだイラストレーターが自分の絵柄の学習データ売るとかで。

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