第10話 蹴った方が強かった件


 俺と立花はキャタピラに上半身が人型の迷宮魔導機ダンジョンモビルバロネットに乗って、東京ダンジョン第一都市の近くにある平野に出ていた。


 相変わらず一人乗りのコクピットのため、俺はずっと立ちっぱなしだ。今後も続くなら小さいキャンプ椅子でも持ってこようかな。


 今日は朝から来ているので、昨日よりも時間を多く取れるはずだ。コクピット内でキャンプ椅子はどうなんだって? 実用性優先だ。


「そういえば立花はパイロットスーツとか着ないのか?」


 立花はいつも研究用の白衣だ。それは迷宮魔導機ダンジョンモビルに乗っている時も変わらない。コクピットに普通の服で乗るのって強キャラ感あるよな。


「どうせダンジョン内で機体が撃破されたら死ぬもの。魔物が溢れる中、生身で外に出るようなバカなことは想定してないからこれでいいのよ」

「……暗に俺をバカと言ってないか?」

「貴方以外がやったらただのバカね」


 確かに巨大怪獣相手に機体なしで逃げ切るのは無理だし、それならパイロットスーツを着なくてもいいのかな?


 そもそもああいうスーツって宇宙空間に出るのも考慮してな気もするし。


「今日もゴブリンを倒せばいいんだよな? ちょうどあそこに一匹いるし」

「そうね。ただ今回はヒートサーベルも使ってみてもらえるかしら」

「了解」


 俺はさっそくコクピットから飛び出して、ゴブリンに向かって走っていく。ちなみに装備は右手にガトリング、腰にヒートサーベルの入った鞘をつけている。


「ぐぎゃあああ!」


 ゴブリンは俺を手で捕まえようとしてくるが、サッと地面を飛んで回避。そして左手で腰につけていた鞘からヒートサーベルを抜く。


 なにかが吸われる感覚と共に、ヒートサーベルの刀身が溶けた鉄のように赤く輝きだす。


「ぐぎゃああああ!?」


 するとゴブリンは俺に背を向けて逃げ始める。


『やはり貴方の魔力が見えたら、弱い魔物は逃げてしまうようね』


 バロネットから立花の声が響いた。


「ならこれからは攻撃する直前まで武器は使わないようにしようかな」

「微妙なところね。それで攻撃が遅れて、反撃されたら割に合わないし」


 確かになと思いながら、走ってゴブリンに追いつく。そして奴の首に飛び移って、ヒートサーベルを一閃する。


 まるで豆腐のようにスパッと肉が切断できた。できたが……、


「ぐぎゃあああああ!?!?」


 ゴブリンが暴れ始めて、振り落とされないように首にしがみつく。


 刀身が小さすぎるのだ。ゴブリンに比べて小さいから、切れ味がよくても殺しきれない……。


『長さが足りないわね。いくら切れ味が鋭くても、針で鬼を殺すことは出来ないか。じゃあヒートサーベルで殴り殺しちゃいなさい』

「それヒートサーベルの意味あるのか?」

『殺せればなんでもいいのよ』


 そんなわけで俺はヒートサーベルの腹を、ゴブリンの首筋に思いっきり叩きつける。


 するとゴブリンはバタリと倒れて動かなくなった。よしまた五万円稼げたぞ。


『頸椎が破壊されたみたいね。迷宮魔導機ダンジョンモビルならヒートサーベルは優秀な武装だけど、生身となると話が違うと。いいデータが取れたわ』

「なあ。試さなくても結果が見えてた気がするんだけど」

『見えてる結果が出ると試すのは重要よ。私たちが正しいと思っていることが、間違っていることはあるもの』


 確かにそうか。何事もやってみなければ分からないこともあると。


『あら。さっきの貴方の魔力を感知して、周囲のゴブリンが逃げていくわね』


「なにっ!? 逃がすかよ五万円ゴブリン!」

『待ちなさい。それよりもいい獲物を見つけたわ。あっちを見て』


 バロネットが指さした先にいたのは巨大な鬼だ。ただしゴブリンではない。


 ゴブリンが子供だとするならば、いま見えているのは大人の鬼だ。人と変わらぬ投身で筋肉質、見るからにゴブリンよりも強そうな巨大な赤鬼。


 そして俺はあいつを見たことがあった。


『あの魔物はオーガ。貴方が蹴り殺したやつね』

「……よくあんなの蹴ろうと思ったなあ」


 我ながらあの時はおかしかった。ビルみたいな大きさの鬼をなんで蹴り飛ばそうと考えたのか。


『じゃあ次はあのオーガを討伐しましょうか』

「えっ。ちょっと大きいし強そうだし、まだゴブリン相手でもよくないか?」

『オーガなら一匹で二十万円くらいするわよ』

「さあ狩りの時間だ」


 俺はガトリング砲に魔力を注ぎながら、オーガに向けて突撃していく。


 するとオーガはこちらに気づいて、俺を踏みつぶそうと動き始めて……。


「ぐおおおおおお!?」


 ゴブリンと同じように背中を向けて逃げ出した。いや逃げるんかい!?


『攻撃する直前まで武器は使わないのではなかったかしら?』

「いやオーガも逃げるとは思わなかったから……とにかく逃がすかよ、二十万円オーガ!」


 俺は必死に走ってオーガとの距離を詰めていく。奴はゴブリンよりは速いが、これなら追いつけるな。


 そして距離が詰まって来たので、ビームガトリングをオーガに向けて発射する。


 光弾の雨がオーガの後頭部に向かって行き、


 ――パシッと弾かれるように消えて、オーガはなにごともなく逃げ続けている。


「……は?」

『どうやらそのビームガトリングの火力では、オーガにダメージを与えられないようだね』

「はあ!? あのオーガは蹴り殺せるんだぞ!? おかしいだろ!」

『簡単な話よ。そのガトリング砲よりも貴方の蹴りの方が強いだけ。やはり物質製造機マテリアルプリンターで作る武器では限界があるわね』

「くっ! 二十万円を逃してたまるか! こうなりゃ蹴り殺してやる!」

『もう貴方にはオーガは札束にしか見えてないのかしら』


 俺はジャンプしてオーガに躍りかかり、首元に回し蹴りを放つ。するとオーガの首がスパッと切断されて、首無し死体が完成した。


 後は倒れるオーガに巻き添えにならないように、距離を放して華麗に着地する。うん、倒したけど。


「なあ。なんで蹴りだとオーガの首が両断されるんだ?」

『どうやら貴方の蹴りは魔力の衝撃波を出しているようね。それでスパッとやってると』

「そんなの出来るんだな、魔力って。ただビームガトリングが弱い……」


 貰い物なのであまり悪くは言いたくないのだが、俺の蹴りより弱いガトリング砲って……。


『今の武装では取り込める魔力量が少なすぎるわね。AIを作り終えたら次は武装の強化が必要ね。もう少しゴブリンやオーガを狩りましょう。ゴブリンなら弱いからガトリング砲で、オーガが出てきたら蹴り殺しなさい』

「なにかが間違ってる気がする……」

『安心しなさい。貴方の存在そのものが間違っているから』


 俺はゴブリンを何体か蹴った、いや狩ったのであった。



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