第11話 専用AI作成


「今日の魔物買取の総額は五十万円よ」

「ご、五十万円……!」


 俺たちは東京ダンジョン第一都市の自宅に戻っていた。


 ベッドに腰を下ろした立花が、振込金額の表示された空中ディスプレイをこちらに飛ばしてくる。


「ゴブリン六体で三十万、オーガ一体で二十万よ。ただゴブリンは殺し方がいいから通常より価格が上がってるわ。オーガは首を切断して身体が損傷してるから、通常の買取価格ね」

「ちなみにオーガをうまく殺してたらいくらだった?」

「おそらく三十万円以上になったわね」

「じゅ、十万円も損したのか」


 十万円を逃すだなんて! もっとうまく殺すことができたら十万円得られたのに!? ビームガトリング砲さえ通用してくれたら!


「……そういえばゴブリンやオーガの死体ってなにに使われてるんだ?」


 買い取りをしているなら需要があるということが、あんな鬼の死体が二十万円というのは不思議な気がする。


 すると立花は迷宮魔導機ダンジョンモビルが表示された空中ディスプレイを飛ばしてくる。


 だがこの機体はちょっとオーガニック的というか生物的な雰囲気がある。


「オーガは有機型の迷宮魔導機ダンジョンモビルの素体に使われてるわ。カテゴリ上はロボットというより、巨大人造人間に近くなるのかしら」

「じ、人造人間?」

「昔のロボット作品で言うなら、紫色でバリアフィールドを使うタイプのよくわからない逃げたらダメな神話系機体ね」

「ああ、そういうやつね」


 ようは人造筋肉とかで作ってるタイプのロボットか。ああいうのはロマンあるよな、よくわからないけど。


「じゃあさっそくだけどAIを作っていこうと思うわ。五十万円使うけどいいわよね? 日常生活の補助に必須だろうし」

「ご、五十万円……いやいいけどさ。でも作るとは?」


 立花は空中コンソールを叩きながら淡々と告げてくる。


 五十万円は大金だが魔物を狩れば一日で稼げる額だ。なんか金銭感覚が狂ってきそうだな。


「市販品だと性能が悪いもの。それでAIのタイプに希望は?」

「そもそもAIにタイプがあるのか?」

「あるに決まってるじゃない。無機質な機械応答タイプ、親しい友人タイプ、母親、父親、執事、メイド、妹、弟、彼氏、彼女……他にも色々あるわね」

「本当に色々だな……」

「イロモノだと犬タイプとか不倫中の人妻タイプとかあるわよ」

「それはAIとしてどうなんだ?」

「実用性はないでしょうね」

 

 なんか人間の業を垣間見た気がするなあ。


「それでタイプはどうする? ヴァーチャルモデルも作成するから、タイプが決まらないと作れないのよ。普通のロボットタイプにするわね」

 

 途中まで俺への質問だったのに、回答する前に決められた件について。


 まあいいか。ロボットは嫌いじゃないし。


「AIの性格についてはどうする? 貴方から取ったデータを元に最適なキャラを作成するわね」

「なあ自分で判断するなら最初に聞く意味ある?」

「聞いておけばどうしても嫌なら拒否するでしょう? しないならそのまま進むだけよ」


 つまりどうしても嫌なら言えばやめてくれるということだろう。


 俺は右も左も分かってないから、多少強引に引っ張ってくれた方が助かる。


「ところで俺の好みが分かるようなデータをいつ取ったんだ?」

「SNSに貴方の旧アカウントをあったから、投稿履歴から好みを分析させているわ」

「まだ消えてなかったのか、あれ」

「デジタルタトゥーは言いえて妙よね」


 言われてみればそうだなあ。SNSのアカウントは消さなければ残るから、自分がいなくなっても変わらないわけか。


性格キャラコンストラクション、構成完了。この好み分析機能を使うと、自分の知らない好みまで判明することがあるのよ。この機能はなんて言われてると思う?」

「好み製造機?」

「性癖暴露機よ」


 酷い名称だ。まさに俗称と言わざるを得ない。


「よし完成。これが貴方の好みを実装したヴァーチャルAIよ」


 立花が手を軽くはらうと、空中ディスプレイにいかにもロボットなアバターが表示された。


『はじめまして、マスター。私は高性能AIマクスウェル。これからよろしくお願いいたします』


 マクスウェルの言葉づかいは凄く自然で、とても機械が喋っているとは思えない。なにも知らずに声だけ聴けば、絶対にAIと分からないレベルだ。


 唖然としていると立花が少し得意げにこちらを見てくる。


「このAIでいいかしら? もしキャラに問題があるならデリートして再設計するけど」

『なんという悪辣外道なのでしょうか。作っておいて即廃棄を想定するとは。製造者責任というモノを知らないのでしょう』


 するとマクスウェルは皮肉で返してくる。すごいな、人と完璧に会話できるAIなんて……。


「すごいな。大満足だ」

「それはよかったわ。ところで貴方の性癖はロボットアバターになるけどいいのね?」

「いや性癖じゃなくて好みなだけだろ」


 俺はロボットは大好きだが欲情するような趣味はない。性癖暴露機というのは言い方が悪すぎるだけで、実際は好み暴露機くらいがちょうどいいのだろう。


 立花は空中に展開していたディスプレイを全て消去する。


「じゃあこれでAIは完成ね。ちなみに名前は私がてきとうに決めたから、変更したいならしなさい」

「変更するつもりはないよ。いい名前だし気に入った。マクスウェルもいいよな?」

『想定されるデメリットは名前が長いことで、呼ぶときにわずかに時間のロスが考えられます。マスターが許容するなら問題ありません』

「なら大丈夫だな。これからもよろしくな、マクスウェル」

『よろしくお願いします、マスター』


 マクスウェルのロボットアバターはペコリと頭を下げて来る。


「いや本当にすごいなこれ。立花、ありがとうな」

「褒めてもなにも出ないからお世辞は不要よ」


 そう言いつつも立花は機嫌がよさそうだ。


「じゃあ今日は休んで明日は探索者組合に顔を出そうか。貴方の探索者ランクを上げないとね」

「探索者ランク?」

「後で説明するわ。あ、それとこれがマクスウェルの外部端子だから肌身離さず持っておきなさい」


 立花からスマホっぽいのを受け取って懐にしまう。


「外部端子ってことは本体もあるのか?」

「私の自宅にあるわ。じゃあ行くわよ」



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オーガニックなのはエ〇ァ以外には、ラインバ〇ルとかリー〇の翼とかドラ〇もんとか。

最後もどちらかというとそっち枠でしょう、たぶん。

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