第12話 探索者ランク
俺たちはビルの待合室で受付の人と話していた。
ここは東京ダンジョン第一都市の探索者組合本部だ。俺の探索者ランクとやらを上げるためにやってきていた。
周囲には老若男女問わず、大勢の人が椅子に座って自分の番を待っている。
「神崎綾人様の探索者ランクの格上げですね? 少々お待ちください」
受付の人はそう言うと空中コンソールをカタカタと打ち始める。パソコンがないこと以外は完全にお役所仕事にしか見えない。
「なあ立花。なんでみんなコスプレしてるんだ?」
今の立花は白衣ではなく黒いドレスを着ていた。こんな場所でドレスを着たら普通なら目立ちそうなものだが、他の人たちも全体的に派手な格好の人が多いから大丈夫そうだ。
なにせパイロットスーツに西洋貴族が着てそうな服、皮ジャンを着た暴走族、スポーツのユニフォームとバラバラなのだ。コスプレ会場かなと思うくらいには。
「
「ほう」
「
なんとも不思議なことだが、そういうこともあるのか。
「それで探索者ランクについて説明するわね。探索者の階級を示すモノよ。ダンジョン内ではランクごとに立ち入り許可のエリアが違っていて、ランクが低いと行ける場所がかなり限られるの」
「ランクが高いエリアほど強い魔物が出ると?」
「そうね。貴方は魔物をすでに狩ってるからランクの昇格条件を満たしているのよ」
そんな制度があったのか。そういえば俺が魔物を狩りに行ったのは、どちらも街の近くだったな。
最初だから遠出しないのかと考えていたが、ランクが低くてそもそも行けるエリアが街の周辺だけだったのかも。
「ちなみに許可されてないエリアに入るとどうなるんだ?」
「そもそも入れないわよ。
「あれ? それだと俺は……」
立花が自分の口元に手を伸ばして、指を一本立てて来た。余計なことは言うなということだろう。
『マスターは常識外れのため、違反しようと思えば可能です。でも法律を破る必要もありませんので、合法になるようにランクを上げに来たのですよ』
AIであるマクスウェルの声が頭に響く。彼と俺は脳内会話ができるようになっている。
どうやら俺は禁止エリアに入ること自体は可能らしい。違法なのでやらないけどな。
そんなことを考えていたら受付の人が困惑しながら話しかけてきた。
「ご確認させていただきますね。探索者登録が二日前で、ソロでゴブリン十体とオーガ一体を討伐しましたか?」
「しました」
「……すごいですね! 初心者なら数機がかりでゴブリン一体相手に負ける時もあるのに!」
「そうなんですか?」
「初めのうちは機体をうまく動かせませんからねー……。神崎様は
「ははは……」
「二日でEランクに上がるなんて最速記録ですよ! これからも期待していますね!」
本当は操縦なんてしてないけど、立花から睨まれてるので言わないでおく。
(なあマクスウェル。生身で魔物を討伐するのはルール的に大丈夫なのか? 違法とかなら嫌だぞ)
『ご安心ください。生身で魔物に立ち向かってはいけない、という法律はありません。そもそも生身で挑むなんてあり得ないので想定していないのです』
どうやら違法ではないようだ。それならいいか。
「では神崎さんの探索者ランクはGからEに格上げとなります。すでにデータをランクアップさせておきましたので、すでにEランクエリアまで入れますよ。こちらがカードキーになります」
受付さんからEと書かれたカードキーを受け取る。てっきりデータで送って来るのかと思ったけどアナログのようだ。
「ではこれからも頑張ってください」
「ありがとうございます」
受付の人にお礼を言って離れると、立花が話しかけてきた。
「これでEランクに上がれたから、明日は他のエリアに行くわよ。貴方の武器を改造するために欲しい魔物の素材があるの」
「それはいいけどさ。俺が生身で戦ってるのは伝えなくてよかったのか? というか探索者本部なのに把握してないのか?」
探索者本部だから俺の情報も把握してると思ってた。だが立花は首を横に振る。
「探索者の個人情報は守られてるのよ。機体の武装や戦い方なんて最たるものだから、むしろバレてたら違法よ。それに生身で戦ってると受付に伝えても困るだけじゃない」
「そりゃそうだけどさ」
「それに氷室には伝えてるから大丈夫よ。国際ダンジョン機構は探索者本部の上位組織だし」
「あー、なるほど」
氷室さんが知ってるなら大丈夫そうだな。よし。
「じゃあ帰るわよ」
「了解」
用事が終わったので俺たちはビルの外に出て、そのまま路地裏を通って移動する。
「綾人、この後は……」
「おい。ガキが調子に乗ってるんじゃねえぞ」
立花の言葉を遮るように知らない男が近づいてくる。皮ジャンを着たいかにも不良という感じで、お近づきになりたくないタイプだ。
「えっと、どちら様でしょうか」
「期待の天才、ベギラゴンの
ベギラゴン? スサノオ?
『最近結成されたベギラゴンという探索者パーティーで、
マクスウェルが脳内で俺の疑問に答えてくれる。流石は優秀なAIだ。
(流石はマクスウェルだ。それでもう関わってしまったらどうすればいいんだ?)
『頑張ってください』
前言撤回。そこまで優秀なAIではないようだ。
しかし迷惑行為がウリの配信者とか地雷すぎるだろ。俺がダンジョンに入る前でも迷惑系Ztuberが問題になってたなあ。
さてどう返事すればこの男は帰ってくれるだろうか。知らないと言ったら地雷な気がするから、ここは穏便に……。
「貴方のことなんて知らないわ。用事がないなら帰ってくれる?」
穏便に地雷を踏み抜く立花。なんとなくそんな気はしたけどさ。
「おうおう! ちょっと顔がいいからって調子に乗るんじゃねーよ! 俺は探索者ランクCだぞ! お前らとは格が違うんだ!」
スサノオとやらが懐からCと書かれたカードキーを取り出した。
……そりゃランクが違うのだから格が違うに決まってるじゃん。いったいどう反応すればいいんだ。
「金持ちのボンボンガキが! どうせ強い機体に乗って調子に乗ってるだけだろ! 俺がお前と同じ条件ならもっとやれるんだよ!」
いやそもそも機体に乗ってないんだけど。
「貴方、バカなのね。いい
おおっと立花さん、さらに火に油を注いでいく。
でも正直なところ、いいぞ! と言いたくなるところもある。悪く言われるのは気分よくないし。
「なにが腕だ! 金持ちが有利じゃねえか!」
「不満を言う前に解決法を考えなさい。自分で
「ふざけんな! 雑魚狩りが調子に乗ってるんじゃねえよ! ちょっと痛い目見せてやろうか!」
スサノオは立花に手を伸ばしてきたので、俺は彼女をかばうように腕を出す。すると奴は俺の腕をすごく優しく掴んできた。
……態度と言動が合ってなくないか? 今のノリなら力強く掴んできそうなものだが。
とは言え男に触られるのは不快なので、軽く振り払おうと手を動かすと、
「うおっ!?」
スサノオは数メートルほど吹き飛んで地面に転がった。え、見た目の割に超弱い……?
「ぐおお……! て、てめぇ! 覚えてやがれっ!」
そう言い残して逃げていくスサノオ。いったいなんだったんだ?
『おそらく新人潰しでしょう。優秀な探索者が増えると獲物の奪い合いになりますので、軽く脅して活動しづらくする狙いかと』
「……なんというかセコイな」
「いるのよ。自分の腕を磨こうとせず、他人の足を引っ張ることで権益を保持しようとする愚か者はね。気をつけなさいよ」
「ああいう面倒なのには関わらないようにするよ」
すると立花は小さくため息をついた。
「違うわよ。貴方が下手に怒って殴ったりしたら、アレは70kgくらいのミンチに早変わりだから気をつけなさい。正当防衛が成り立たないと犯罪者よ」
「あ、そういう……」
『マスターは魔物を素手で殺せますからね。相手を殺そうと思って殴れば、魔力が出て文字通り瞬殺でしょう』
さっきもスサノオを軽く振り払っただけで、吹っ飛んで行ったからなあ。もしあれが立花とかだったらマズイよな。気を付けよう。
「ところで立花、手に持ってるのはなんだ?」
立花は手に卵みたいな形の電子機器を持っている。
「対人用プラズマ発射機よ。あいつに撃つ予定だったの」
やはりこの少女、けっこう過激である。
ただ今回の場合は向こうがひど過ぎるから仕方ないか。確かに立花が怒らせたのもあるが、なにもしなくてもどうせ面倒なことになっていた。
そして翌日、自宅でのことだった。
『マスター。スサノオが動画を投稿しています。タイトルは調子に乗った【初心者雑魚探索者にヤキを入れたったwww】です』
「うわあ……」
『編集でマスターの腕を掴むところだけ映して、自分が勝ったようにしています。最初からこれが狙いでちょっかいをかけてきたようですね。まあコメントで一部しか動画されてないことをツッコまれてますが』
なんて面倒な奴だろうか。厄介勢とはあいつのことを言うのだろう。
『ただマスターが本気で攻撃すれば、あんなのミンチなのでお気をつけを。立花様もそれが分かってたのでヘイトを自分に向けたのでしょう。結果的に変わりませんでしたが』
「え? あれ素で怒らせたんじゃないの?」
『素ではありますが、その狙いもあったということです。それよりもそろそろ出ましょう。今日は強い武器を作るために、ゴーレムを狩って素材を得るのでしょう?』
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