第13話 ゴーレム狩り


 スサノオの面倒ごとの翌日。


 俺たちは朝から東京ダンジョン第一都市を出て、北に位置する岩山地帯に進んでいた。いつものように立花の迷宮魔導機ダンジョンモビルであるバロネットの操縦席内にいる。


「なあ立花。今日はゴーレムを狩るんだよな? 調べたけど岩石で構成された人型で合ってるか?」


 今から狩りに行くのはゴーレムという魔物だ。昨日の時点で立花から名前だけは知らされていたが、魔物については自分で調べろと言われていた。


 しかもマクスウェルの補佐なしでだ。慣れない空中ディスプレイで頑張ってネットサーフィンした。


 たぶんだが立花は周囲に頼りっぱなしの俺を、多少は自立させようと宿題を課したのだろう。空中ディスプレイは使いこなせないと不便だろうし。


 マクスウェルを用意してくれたり、なんだかんだでしっかり面倒を見てくれてありがたい限りである。いずれ恩は返そう。


「大抵は人型だけどたまに獣型などもいるわ。それとゴーレムを倒すなら心臓部の魔核を壊すのが定石だけど、今回はそれをしたらダメよ」

「ゴーレムの魔核で俺の武器を作るからだろ?」

「そうよ。今の武器だと魔力許容量が小さいから、ゴーレムの魔核で増やすのよ。そろそろEエリアの境界線になるわね。前を見なさい」


 言われたとおりに前に目を向けると、なにやら天まで伸びる光の壁のようなものがあった。


 立花はコントローラーを操作しながら会話を続ける。いやすごいな、ゲームしながら喋るの難しいと思うのだけど。


「あれはエリア境界線よ。と言っても迷宮魔導機ダンジョンモビルのカメラに映像が合成されてるだけで、実際は光の壁なんてないけどね」

「じゃあ俺が外に出たら見えないってことか」

「そうなるわね。ランク外に足を踏み入れないように気をつけなさい」

『私が指示しますので問題ありません』


 マクスウェルの声が周囲に響いてくる。


 それなら大丈夫そうだな。マクスウェルがいなかったら分からずに他エリアに入る危険もあった。


 ダンジョンのルールは迷宮魔導機ダンジョンモビル前提で作られてるようだから、気を付けないと知らない間にマズいことになりそうだ。


 バロネットはさらに前進していき、光の壁をくぐりぬけた。


 すると空中ディスプレイで《警告 ここからはEランクエリアです》と表示がされる。周囲を見渡すと岩山がいくつも連なっている。


 ただし岩山はものすごく大きい。迷宮魔導機ダンジョンモビルは二十メートルあるはずなのに、人間サイズに思えるほどに。


「……岩山でかくない?」

「この地帯の山は最低でも富士山より大きいわよ。というかダンジョン内のモノはだいたいが怪獣サイズよ」

「遭難したら絶対死ぬな……」

「分かり切ってることじゃない。さてちょうどお目当てのゴーレムが出て来たわね」


 コクピット内にアラートが鳴り響き、少し遠くから岩の巨人がこちらに走ってきていた。


「あれがゴーレムよ。オーガやゴブリンよりは強いから気をつけなさい。危険だと判断したらこちらに逃げてきていいわ」

「わかったよ」


 コクピットハッチが開かれたので飛び降りて外に出る。なお今回はヒートサーベルを持ってきた。


 ゴーレムは硬い魔物なので、オーガにすら通用しないマシンガンは役に立たない。なので肉弾戦でまず剣でぶっ叩いて、それでもダメなら蹴飛ばす予定だ。


 本当はもっと強い武器が欲しいのだが、それを手に入れるためにゴーレムを討伐するわけで。


「……ゴーレムを倒すために強い武装が欲しいのに、ゴーレムを倒して得る素材で強い武装を作ることになるのか」

『人生とはままならぬものですね』


 AIが人生について嘆息するのは本当にままならない。


「そうだな。でも思い通りにはならないけど、だからこそ想像以上になることもある。今みたいにな」


 いまはすごく大変でせわしないけど、半年前に比べればすごく楽しい。ままなる人生であったなら味わえなかったことだろう。


 いやまさか十六歳に若返って、現代にダンジョンなんてモノが生まれて、巨大ロボットが誕生するなんて信じられないじゃん。まだ夢の世界にいるようだよ。


『マスター、考え事は終わりにしましょう。ゴーレムとの距離、一キロ程度です』


 ゴーレムは岩の巨体をドシンドシンと揺らしながら、俺に突進してきている。顔などがないのでオーガよりも遥かに不気味に思える。


 これは強敵だな……だが負けないぞ! 俺は腰につけた鞘からヒートサーベルを引き抜いて、魔力を流して刀身を輝かせたのだが。


「…………え?」

『ゴーレム、方向転換して逃げていきます。追いかけましょう』

 

 ゴーレム君、なんとオーガと同じように背を向けて逃げ始めた。


 いやお前も同じかよ!? 巨大な人形みたいで不気味だったのに!


『早く追いかけなさい。なるべくエリアの外側で倒したほうが、回収費用が安く済むわよ。買取価格に数万円の違いが出るわよ?』

「逃がすかこの野郎!」

 

 俺は必死に走ってゴーレムを追いかける。幸いにもオーガよりも遅いようで距離をアッサリ詰めることができた。このまま飛び移って攻撃を……っ!?


 即座に地面を蹴ってジャンプすると、今まで俺がいた地点にゴーレムの足が振り下ろされた。


 ゴーレムは急に反転して襲い掛かってきたのだ。オーガたちと違って吠えたりなどの予備動作がないので、反応が少し遅れてしまった。


 頭の中にマクスウェルの声が響いてくる。


『感情が見えないのはゴーレムの厄介なところのひとつです。以後お気をつけを』

「……戦う前に言ってくれない?」

『何事も経験よ。知らない魔物と戦う時はそんなの分からないし』


 立花も通信をしてきたのだが、この二人けっこう性格似てないか? 


 ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。目の前にゴーレムがいるのだから。


「おりゃあ!」


 俺はゴーレムの肩に飛び乗って、ヒートサーベルの腹を叩きつける。するとゴーレムの肩が粉砕されて、支えを失った右腕が地面にゴトリと落ちた。


『手足を両断してしまえば、動けなくなるので勝ちです』

「わかってるよ! 次は左腕だ!」


 俺はゴーレムの反対側に回り込んで、次は左肩を同じようにヒートサーベルで叩きつける。今度は左腕が地面に落ちて、ゴーレムは両腕を失った。


 だがこちら側も無傷とはいかなかった。


「ああ!? ヒートサーベルが!?」


 ヒートサーベルの刀身が砕けてしまった。どうやら無理をさせてしまったらしい。


『構わないわよ。どうせゴーレムの魔核を手に入れたら、新しい武器を作る予定だったもの。じゃあ後は素手で倒しなさい』

「……岩を蹴ったら痛そうなんだけど」


 オーガを蹴り飛ばすのも怖かったけど、岩の塊となると余計に嫌に思えてしまう。


『ご安心ください。マスターの身体は魔力で包まれているので問題ありません』

『モタモタしてたら売却値が下がるわよ。五万円以上は』

「死に晒せえええぇぇぇぇぇ!」


 俺は回し蹴りでゴーレムの左足を粉砕、するとゴーレムは頑張って片足でプルプル立ち続けている。


 両腕片足を失って哀れな姿なので、トドメをさしてあげることにしよう。


 俺は最後の足を粉砕するとゴーレムは地面へと崩れ落ちる。


『なんというか酷い光景ですね』

『ゴーレムをイジメてるように見えるわ。ゴーレム愛護団体がいたらクレームがつくでしょうね』

「いや討伐しろって言ったのお前らだよな!?」

『冗談よ。さっそく魔物死体回収御者に連絡したから、あと何体か狩りましょう』

「あ、やっぱり一体じゃすまないのね……」


 こうして俺はゴーレムを三体ほど狩った。残りの二体も最初は俺に突撃してきて、魔力を使ったら脱兎し始める奴だった。


「三体も狩れば足りるか?」

「大丈夫よ。じゃあ帰りましょうか。コクピットに乗りなさい」

「あいよ」


 バロネットのコクピットハッチが開いたので中に乗り込んだ。


 そしてバロネットが東京ダンジョン第一都市に向けて、走り始めようとした瞬間だった。

 

 空中ディスプレイに《救難信号》と表示されたのだ。


「救難信号?」

「どうやら近くの探索者が危機に陥って、助けを求めているようね。じゃあ帰りましょうか」

「え? 助ける流れじゃないのか?」


 見捨てるなんてと思ったが、立花は首を横に振った。


「救難信号は隣のDランクエリア入り口付近から出てるの。貴方はEランクだから入ったら違法になるわよ。他人を助けるために法を犯すつもり?」

『探索者が危険に陥っても自己責任です。安全マージンを確保できないのは己のミスですから。助ける義務はありません』


 そう言われるとそうなのかもしれない。


 でも助けて欲しい時に助けが来ないのは辛いんだよな。


「ランクより上のエリアに入るって、どれくらいの罪の重さなんだ?」

「状況にもよるけど、罰金五十万円くらいと厳重注意かしら」

「それなら助けに行こう。流石にこれで死なれたりしたら夢見が悪い」


 ダンジョンに潜れなくなるとかなら迷ったけど、それくらいなら許容範囲だろ。怒られたら素直に謝ろう。


 立花は考え込んだ後にため息をついた。


「はあ……分かったわ。私の機体ならDランクエリアにも入れるから、救難信号を受諾して救出に向かうわ」

「ありがとう」

「その言葉は貴方からじゃなくて、助けた相手からもらうことにするわよ。予定外で計算が狂ったけど仕方ないわね」 


 そうして俺たちは救難信号の発信源に向けて進み始めた。


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