第14話 救難信号


 バロネットが岩山地帯をしばらく進むと、青色の光の壁が見えて来た。壁の先には湿原が広がっている。


「あそこはDランクエリア、悪夢の湿原と呼ばれる場所よ」

「嫌な名前の場所だな」

「地面が泥のせいで迷宮魔導機ダンジョンモビルの足が取られるのよ。バロネットは足回りがキャタピラだから、救難信号の場所まで入れるか微妙ね」


 立花はコントローラーを操作して、バロネットは光の壁をくぐって湿原を進んでいく。


 すると少し先に妙なナニカが群れている。なんか大きな縦長スライムみたいなのに、触手が大量についている妙なナニカだ。


 二十体くらいはいそうで正直言うと気持ち悪い。そしていつものようにデカい、オーガと同じくらいだろうか。


「……なんだあれ?」

『ローパーです。粘体の魔物で物理攻撃に強力な耐性を持ちます。本来なら群れを作らない魔物なのですが』

「いっぱい固まってるけど」

「かなり厄介ね。それと最悪なことに救難信号の位置はあの群れ付近よ」

「救難信号を出した人は、あのローパーの群れに襲われてるってことか」

「でしょうね」


 あの気持ち悪い魔物に囲まれてるとか地獄だろ。なんかネチョネチョしてそうだし。


 ……今から俺はあそこに生身で飛び込むわけなのだが。バロネットはキャタピラ戦車型で近接苦手だから無理らしい。


「じゃあちょっと助けて来るよ。ハッチを開いてくれ」

「待って。ガトリング砲を持って行きなさい」


 立花がコクピットの端に立てていたガトリング砲を指さす。


「あれってオーガにすら通用しなかったじゃん。Dランクエリアってことはローパーはそれより強いんだろ?」

「いいから持って行きなさい。損は多少で済むから」

「損するのかよ……」


 そう言いつつガトリング砲を右手につける。なんだかんだで立花の言うことは信用できるし、言い争ってる時間の方がムダだ。


 するとハッチが開いたので俺は外に飛び出した。着地すると地面がジュクジュクでちょっと気持ち悪い。


「少し走りづらいな」

『本来なら飛行ユニットやホバーユニットが推奨されるエリアです。だから立花様も救援を迷ったのでしょう。ミイラ取りがミイラになりかねません』

「なるほどな。じゃあ行くか」


 俺はローパーの群れに向けて突撃する。徐々に距離が詰まっていくと、ローパーたちに囲まれて倒れている迷宮魔導機ダンジョンモビルが見えた。


 いかん、ローパー共が触手を伸ばしている……。


「やめろこの触手ども!」


 気を逸らそうとガトリング砲を撃つが、ローパーは光弾が当たっても反応すらしない。やはりこの武器弱いな!? 


『ダメージゼロです』

「見りゃ分かるよ! なら蹴り飛ばす!」


 俺はローパーに向けて回し蹴りを放つと、奴のたぶん胴体部分が真っ二つになっる。


 よしこのまま全部倒して……と思った瞬間だった。真っ二つになったローパーの身体が、みるみるうちに再生し始めた。


 そして何事もなかったかのように元の身体に戻ってウネウネし始める。


「……えっ?」

『ローパーに斬撃系攻撃はムダです。切断されても即再生しますので』

「じゃあどうすればいいんだ?」

『私がやるわ。貴方はその隙に迷宮魔導機ダンジョンモビルの操縦者を助けなさい』


 立花の声と共に少し離れたところにいるバロネットが、ローパーの群れに向けて両肩のキャノン砲を向けている。砲の先端には幾何学模様の魔法陣が浮かんでいた。


属性砲エレメントカノン、射角固定。モード・フレイム。火の弾丸を喰らいなさい』


 バロネットのキャノン砲が発射されて、巨大な火球が四体のローパーに直撃して炎上する。


 他のローパーたちも急に火柱が上がって動揺したのか、倒れている迷宮魔導機ダンジョンモビルに触手を伸ばすのをやめて慌てていた。


『マスター、今です。緊急事態なのでコクピットハッチはこじ開けてください』

「分かってる!」


 俺はローパーたちの間を通り抜けて、倒れてる迷宮魔導機ダンジョンモビルの胸部に飛び乗る。そしてコクピットハッチを掴んで、無理やり引きはがした。


「ひっ……!?」


 ――コクピットの中にいたのは魔法少女だった。


 いや魔法少女のドレスを着たコスプレ少女か。ロボットに乗るというのにパイロットスーツを着ない奴ばかりだな!?


「助けに来ました! 早くここから逃げましょう!」


 急いで手を伸ばすと少女は困惑しながらも俺の手を取った。


「あ、あのっ、迷宮魔導機ダンジョンモビルは!?」

「少し離れた場所にありますので大丈夫です!」

「!?!?!?」

『マスター、今の彼女に説明している時間はありません。してください』


 本来ならお姫様抱っこでもすべきところだが、右手にガトリング砲をつけているので無理だもんな。


 俺は米俵を担ぐように少女を肩に乗せる。


「今からあそこの機体まで逃げます。危ないのであまり暴れないでくださいね」

「え? あの逃げるって? え?」

『マスター。ローパーたちが態勢と整えつつあります。急いで』

「分かってる! 飛び降りますよ!」

「え? 飛び降りっ……いやああああぁぁぁぁ!?」


 俺は急いでコクピットから飛び降りる。


 少女が悲鳴をあげているが許して欲しい。ちゃんと華麗に着地したから。


 するとローパーたちの触手が迷宮魔導機ダンジョンモビルにまた襲い掛かっていく。


 柔らかそうな触手なのに機体の装甲がボコボコに凹んでいき、すぐに原型がなくなってしまった。もし助けに来るのが少し遅れてたら危なかった。


 ローパーたちが迷宮魔導機ダンジョンモビルに気を引かれている間に、彼らの間を通り抜けてバロネットへと走っていく。


 ローパーたちも追いかけて来るが俺の方が速いから逃げきれそうだ。


「ひっ!? なんなんですか!? なんなんですか!?」


 お米様抱っこした少女は泣きわめいて叫んでいる。


 まあローパーに襲われてた怖さを考えれば、動揺しているのも無理はない。


『いえ違います。彼女はマスターが生身で助けに来たことに混乱してます』

「それは必要経費だから仕方ない」


 そうしてバロネットの傍まで走り寄ったのだが、なにか様子がおかしい。


 キャタピラをキュルキュルと回しているが、まったく前にも後ろにも進んでいないのだ。どうしたのかと思ってると立花から通信が入って来る。


『さっきのキャノン砲の衝撃でキャタピラが泥にはまったわ。エリアの入り口付近の泥なら大丈夫なはずだったのに失策だ。抜けるまで少し待って』

「どれくらい?」

『数分あれば』

「後ろからローパーが迫ってきてるんだけど」

『よろしく。貴方なら出来るわ』


 後方から迫って来るローパー×20くらいを見つめる。あいつら、真っ二つに蹴ってもすぐ再生するんだけど……どうやって止めろと?


『マスター。ここはガトリング砲を使うべきかと』

「さっき効かなかったが」

『魔力許容限界量を超えて注ぎ込み、オーバーヒートさせて爆発させましょう。簡易的なマジックボムですね。ガトリング砲のリミッターはすでに立花様が解除しています』

「……いつの間に?」

『こんなこともあろうかと、リミッターはいつでも解除できるようにしてあるわ』


 立花が少し誇らしげな声で通信してくる。たぶん少しドヤ顔してそうだ。


『ではリミッターを解除いたします。解除完了。マスター、ガトリング砲に魔力を注いだら、すぐにローパーに投げてください。そしてコクピット内部に逃げ込みを』

「わかった! おらぁ!」


 ガトリング砲に雰囲気で魔力を注ぐと、砲身が真っ赤に染まった。その瞬間にローパーに向けて投げ込む。


 それと同時に開いたコクピットの中へ逃げ込むと、すぐにハッチが閉じていく。


 そしてガトリング砲はローパーの一体に当たって、大爆発を起こした。まるで核爆発のようにキノコ雲を作り出し、煙が晴れた後にローパーも残っていなかった。


「……威力ヤバくないか?」

「そこらの武器では貴方の魔力を扱えない理由が分かったかしら? ゴーレムのコアでも魔力の一割程度扱えれば御の字よ。本当になんでここまで魔力を持ってるの?」

「さあ……」

『マスターの身体検査をしたところ、なにやら体内に謎の核が作られているのは判明しています』


 おおっと、新事実が発覚したぞ。大丈夫なのか俺の身体は。


「????」


 そして俺が助けた少女は固まってしまっている。どうやら現状が把握できていないようだ。


 とりあえずキャタピラは泥から開放されたので、俺たちは東京ダンジョン第一都市に向けて帰るのだった。



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