第42話 スカウトしたらスカウトされた
喫茶店でしばらく飲み食いした後、アルニちゃんと別れて俺たちは帰路についている。
「ねえ綾人。この後どうするのかしら?」
すると立花が話しかけてきた。身長の差で上目遣いをしてくるのが可愛らしい。
「別に用事もないし家に帰ろうかなと。そういえば立花も自分の家に戻るんだろ? もうスサノオの危険はないし」
立花が俺の部屋に泊まっていたのは、スサノオに対して警戒するためだった。
だがもう奴は死んだので、立花は自宅に帰れるはずだ。
「まだスサノオの残党がいるかもしれないわ。危ないからもうしばらく泊まることにするわね」
「ふーん」
確かにスサノオの仲間が潜伏していて、恨みを晴らしてくる可能性はゼロじゃないか。かなり低い確率だろうけども。
俺としては美少女が一緒に住んでいるのは嬉しいが……。
「いいのか? 周囲からは同棲しているように見られるかもしれないぞ? 立花も有名人なんだろ?」
「勝手に言わせておけばいいのよ。別に私はアイドルでもないし、知らない他人に悪く言われても気にしないわ」
「知人に言われても気にしないだろ」
「貴方に悪く言われたら少しは気にするわよ。逃げられたら困るもの」
立花は淡々と告げて来る。
俺のデータを取り終えるまでは逃がさないということか。別に構わないけど。
『マスター。氷室様から通信が来ています。表示しますか?』
などと考えているとマクスウェルが告げてきた。氷室さんから? なんだろうか。
頷くと俺の目の前に空中ディスプレイが表示されて、氷室さんの顔が映る。
『神崎さん、こんにちは。実は貴方と面会したいという方がいらしてまして、国際ダンジョン支部の建物に来ていただけませんか?』
「面会したいという人はどなたでしょうか?」
『申し訳ありませんが通信では伝えられません。ですが悪い人ではないのは保証します』
ディスプレイに映る氷室さんの顔は普段よりも真剣だった。
この人にはなんだかんだでお世話になってるし、顔を立てる意味でも行った方がいいかもな。
「分かりました。なら今から向かいますね」
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
俺たちがダンジョン支部に着くと、すぐに個室へと通された。
そこにいたのは氷室さんと、知らない女の人だった。金髪でかなり胸が大きい外国美人タイプ、しかも胸を開いた服なので目のやりどころに困る。
そんな女性は俺を見ると頭を下げてきた。
「こんにちは。私は鈴木レイラと申します。国際ダンジョン機構アメリカ支部の担当です」
おそらくだが鈴木さんはハーフっぽいな。見た目は外国の人っぽくて鈴木だし、日本語はペラペラだしで。
「そちらの椅子に座ってください」
鈴木さんに言われるがままに、彼女と対面の席に座った。ちなみに氷室さんと鈴木さんが隣り合っていて、立花は俺の横の席に座っている。
しかしアメリカ支部の人が俺に何の用だろうか。
「それでわざわざ綾人を呼んで何の用かしら? 私たちは忙しいのだけど?? ねえ氷室???」
立花は不機嫌そうな様子を隠そうともしない。
帰る予定だったのに呼び止められたから怒っているようだ。
「実は綾人さんに用事があるのは私ではなくて、鈴木の方なんですよね」
え? 氷室さんじゃなくて鈴木さんが俺に用事?
思わず彼女に視線を向けると、ウインクで返された後に。
「実は綾人さんをスカウトしに来ました。アメリカに来てダンジョンを攻略しませんか?」
などと言い出したのだ。
「……えっと? スカウト?」
「はい。アメリカ支部では綾人さんの実力をかなり高く評価しております。どうでしょうか?」
「すみません。ちょっとそれは難しいです……」
いきなりの提案だが即座に断るしかない。
なにせ俺は英語ができないのでアメリカで住めと言われても厳しい。それに日本が好きなのもあるし、アルニちゃんとパーティーを組むのも約束してしまった。
それに立花と別れるのもしんどいしな。まあ彼女の場合はついてきてくれる可能性もあるけど……ってこれだと立花と付き合ってるみたいだな。
「当然よ。綾人は私と一緒に日本に住んでいるのだから」
立花は先ほどとは打って変わって、機嫌よさそうな声を出す。
「お待ちください! 年収は三十億円を約束しますよ。それに当然ながらインセンティブで活躍するほど収入も増えます!」
「さ、三十億円!?」
あまりの金額に声が裏返ってしまった。三十億円って個人が持つような額じゃないぞ!?
メジャーリーガーでもそうそう稼げないような金額とか嘘だろ!?
微妙に心が揺れ動いてしまうが、でも冷静に考えたらやはり無理だな。
「すみません。いくらお金を積まれても厳しいです。日本が住み慣れてるし楽なので」
もし明日の食事にも困る有様ならば、アメリカに行っていたかもしれない。でも日本で十分暮らせているしいいかなと。
すると鈴木さんは小さくため息を吐いた。
「……ですよね。綾人さんの顔を見た時点で、こうなるんじゃないかなと思いました」
「と言いますと?」
「なんというか満たされてるんですよ。お金で動くタイプじゃないなと。隣に可愛い彼女もいますし」
「立花は彼女じゃないですよ」
「あらそうなの? 彼女の方からかなりの圧というか、貴方への想い? いえ重い? なとにかくなにかを感じたのだけど」
たぶん研究者が実験体を見てる感じの圧力だと思う。
とりあえる俺は確かに満たされているというか、困ってないのは間違いない。
なにせお金は稼ごうと思えば稼げるし、立花やアルニちゃんという美少女とも知り合えた。現状に大した不満がないので、わざわざアメリカに行く必要がないというか。
鈴木さんは両手でお手上げのポーズを取ると。
「残念ですが今日は諦めますね。気が変わったらいつでも言ってください」
「わかりました」
俺は鈴木さんに軽く頭を下げると、氷室さんの方へと視線を向ける。
すると氷室さんは真剣な表情で俺を見つめて来る。
「綾人さん、今後はより気を付けてください。貴方は世界各国から興味を持たれていますので」
「と言いますと?」
「我々はちゃんと場を整えて話し合います。ですが酷い国なら騙したり無理やり連れて行こうとするでしょう。こういう風にね」
氷室さんは懐からナニカを取り出した。それは拳銃だった。
彼は立花に拳銃を向けている。
え? 日本って銃刀法……いやここはダンジョンか。
氷室さんはごまかす様に軽く笑うと銃口を下げる。
「綾人さん、貴方は脅されても問題ないでしょう。ですが貴方の知人が利用されることもありますのでお気を付けください」
……確かにそうだな。少しは気を付けた方がいいかもしれない。
俺は拳銃くらいならまったく効かないだろうが、立花が狙われたら危険だ。
「念のため言っておくわね。私はバリア展開装置を装備しているから、拳銃程度ではキズ一つ負わないわよ」
と立花は言ってるがそれでも気を付けるべきだろう。
「わかりました。気を付けます」
そうして俺たちは今度こそ帰路に就いたのだった。
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ロボットでダンジョンを攻略する日本になったけど、俺だけは生身で無双する ~巨大モンスターを生身で倒していたら、世界最強の探索者になっていました~ 純クロン @clon
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