第41話 悩み


 昼どき。俺と立花は喫茶店の席についてアルニちゃんを待っていた。


 ちなみにこの喫茶店だがメニューは空中立体装置のため、サンプル料理も全部立体的に見ることができる。


 例えばかつ丼なら三つ葉が入ってるかとか、カレーライスの具もある程度確認できるのだ。これなら料理注文事故がなさそうでいい。


 そしてウェイターは人間ではなくロボットだ。しかも食器を運ぶワゴンに手がついてる感じの。


 そんなワゴンロボットたちが食事を運んだり、食べ終わった食器を回収していく。なんとも近未来的でけっこう好きだ。


 するとアルニちゃんが店に入ってきて、俺たちの方へと歩いてくる。


「お待たせしました、立花さん。それとそちらは綾人さんですか……?」


 アルニちゃんは俺を見て困惑している。


 当然だろう。今の俺はサングラスをつけていて、しかも髪の毛を金髪に染めている。一見しても誰か分からないだろう。


「こんにちはアルニちゃん。この姿にはちょっと事情があってね。ほらネットですごく話題になった結果、下手に外に出ると注目されてしまって」


 先日に大勢の野次馬が集まってきてから、俺は変装しないと外に出られないようになった。


 まさか俺が芸能人ムーブをすることになるとは。


「そ、それは大変ですね……有名人っぽいです」

「ははは。そんな大層な者じゃないけどね」

『そうです。マスターは有名人というよりネットのオモチャですよ。未だに【え”っ?】動画が再生数ナンバーワンで、あの動画でマスターの顔がアップされてるせいで覚えられてるだけですし』

「やや悪い意味よりでの有名人よね」


 マクスウェルと立花が俺を強く責め立てて来る。


 でもこいつらの言うことは間違ってないんだよな……俺が知られている理由は、生身で機体を倒してるのと【え”っ?】動画のせいなのは事実という。


「そんなことありませんよ。綾人さんがカッコイイのも原因の一つだと思います」


 アルニちゃんは誉めてくれるが、たぶんネット百人に聞いたら誰もそうは言ってくれなさそう。


「ははは……ともかく座って座って。なにか食べながら話そうよ」


 ちなみにここは四人席で、何故か立花が俺の横に座っている。


 最初に立花が俺の横に座った時に「正面に座ったら?」と告げた。

 

 そうしたら「アルニさんが貴方の隣に座ることになるわよ」と言われたので、それは申し訳ないなとこの席になった。


 さっきは納得したけど冷静に考えたらさ。立花とアルニちゃんが隣の席に座ればいいだけじゃね?


「なあ立花。アルニちゃんの隣に移動しないのか?」

「もう面倒だからいいわ」

「ああ、そう……」


 ここで相手が普通の女の子なら、【俺に気があるのでは?】と思ってしまう。


 だが立花ならたぶん本当に面倒なだけだろう。こいつはそういう合理的な奴だ。


「さてなにを頼もうかな。ステーキにしようかな」

「貴方はいつも肉ね。たまには魚も食べたら? 刺身とか」

「……喫茶店に刺身はないだろ。仕入れだけで赤字になりそうだし」

『ありますよ。鮮度保存装置によって長い期間でも保存できますので。いつでもどこでも抜群の鮮度の魚が食べられます』

「うわよく見たら本当にメニューに載ってる……」


 喫茶店に刺身があるの違和感すごい。


 でもやはり俺は肉だ。肉こそが正義なんだ。ということでミノタウロスのステーキを注文した。

 

 あとなんか刺身食べたくない。決して生身生身と呼ばれたからではないが、生の食材をあまり食べたくない気分だ。


 ちなみにミノタウロスはDランクの牛の魔物らしい。もう一ランク上げれば討伐できるようになるな。


「わ、私はオムライスを」

「ミノタウロスのクリームパフェひとつ」


 アルニちゃんはオムライスだが、何故か立花はクリームパフェを頼みだす。


 ミノタウロスはダンジョンに出てくる魔物らしい。それはいいが。


「おい立花。お前も昼飯食べてないだろ?」

「パフェでも必要カロリーは取れるわ。不足した栄養はサプリメントで補えばいいし」

「ええ……」


 なんというかすごい現代的な考え方なのだろうか?


 ただ『現代の妖精』っぽい気はする。なんか妖精って甘いモノ食べて生きてるイメージあるし。


『マスター。私はプラズマドリンクで』

「マクスウェル!? お前も注文するの!?」

『はい。日々働いてるので当然の権利と主張します』

「いや別に注文自体はいいんだけど……」


 そして料理(?)が全部やってきたので、俺たちは食事をし始めた。


「このステーキ美味いな! それでアルニちゃん、今日はなにか用があるのかな?」


 ステーキを食べながらアルニちゃんに聞いてみる。


 女の子が食事に誘ってくるなんて、何か用事があると思うんだよな。


「は、はい。実は以前に助けて頂いたのに、結局まだ大したお礼を出来てないなと思いまして」


 小さく笑うアルニちゃん。


 どうやら以前に俺に助けられたことをまだ気にしてるようだ。


「別に気にしなくていいよ? たまたま通りがかって、助けられそうだったから助けただけだし」


 俺は別に命を賭けてでも、みんなを救うヒーローではない。


 アルニちゃんを助けたのだって、たぶん安全に助けられそうだと思ったからやっただけだ。


 言うならば電車で老人に席を譲ったのと、感覚的にはそこまで違いはない。


「い、いえ! あのままだと死んでいたので……! なにかお礼が出来ればと思うのですが」


 まあアルニちゃんからすれば命を助けられたので、俺に感謝する気持ちは分からなくもない。


 ただ俺からすればあの程度で恩に着せるのも、それはそれで罪悪感が出てくるという。


 どうしようかと悩んでいると、


「ならアルニさん。貴女はしばらく私たちと一緒にダンジョンに潜らない? ようはパーティーを組まないかしら?」


 などと立花が言い出したのだ。


「え? 私が綾人さんたちとパーティーに? で、でもお邪魔なんじゃ……」


 アルニちゃんは急に提案されたからか困惑している。だが立花は首を横に振った。


「別に邪魔じゃないわ。私もマトモな探索者の仲間が欲しいし」

「おい立花。それだと俺がマトモじゃないみたいだぞ」

「生身で魔物を撃破する人間がマトモなら、人類でマトモなのはあなた一人になるわね。それにDランク以上のエリアとなると、三人以上じゃないと入れないなどのルールもあるのよ」

「え、そうなの?」


 まじかよ。そんなルールがあるなら仲間を増やすの必須じゃん。


『人数が少ないほど戦力が減るのが普通ですからね。一定ランク以上となると、基本的には最低人数制限があります』


 人数が多いほど生存確率も上がりそうだしな。


 足手まといがいたら話は別だろうけども、普通は同じくらいの力量の面子でパーティーを組むだろうし。


「まじか……それならアルニちゃんが来てくれた方がありがたいな」

「アルニさん、どうかしら?」


 立花の提案に対して、アルニちゃんは俺のことをチラリと見た後に。


「お、お二人がいいなら……パーティーに入れてください」


_______________________________

先日宣伝した新作ですが、書き直すことにしました(゚-゚)


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