第24話 スサノオの復讐


「チッ。あいつらのせいでまた俺の配信の視聴者が減った」


 スサノオは機体コクピットの中で叫んでいた。


 彼が見ているのは綾人がアルニを助けるシーンの映像だ。彼は二人を激しく恨んでいる。


「俺の視聴者を奪いやがってよお」


 実際のところ、綾人たちがスサノオの視聴者を奪ったわけではない。


 ただ彼の配信が飽きられていただけなのだが、スサノオは全て綾人たちのせいだと考えている。


「チッ。あの時に襲ってやろうかと思ったが、振り切られちまったからなあ……忌々しい」


 先日、綾人を付けていたのもスサノオだ。


 綾人の自宅住所などを把握することで、ネットに拡散して嫌がらせをしようとしていた。だが振り切られてしまい、それがより彼の逆鱗に触れていた。


 ちなみに振り切った方法だが、綾人が二十メートルほどジャンプしてビルを飛び越えた。


 「くくっ。だがヒポグリフ狙いとはちょうどいい。これなら合法的にお前らを処分できるよなあ!」


 執念深いスサノオは知り合いたちに頼み込んで、都市周辺を見回らせた。そして立花の機体が都市から出たら分かるようにしている。


 立花のバロネットはキャタピラ、肩キャノンと目立つ。なのでバロネットが都市から出て行ったのを把握して、彼も自分の機体で追跡していた。


「ヒポグリフは小さな肉団子で一頭を呼び寄せて狩るよなあ。大量に寄ってこられたら困るよなあ?」


 スサノオの乗機である漆黒の人型機【タナトス・ヘル】は、電子迷彩を使用して姿を隠しながら、バロネットたちの遥か離れた場所で立っていた。


 そしてアルニのDMディムがヒポグリフを遠距離狙撃で撃ち落とすのを、馬鹿にするように嘲笑している。


「おーおーやるねえ。でもそれじゃあ一体ずつしか倒せないよなあ? 超大量のヒポグリフに襲われたらどうするんでちゅかねー? ……ん? いまどうやってヒポグリフをもう一体落とした? まあいいか」


 スサノオは操縦桿を動かして、乗機のタナトス・ヘルにバズーカを構えさせる。


 狙いはバロネットたちのいる方角だ。だが当然ながらバズーカでろくに狙えるわけもない、いや狙う必要はなかった。


「ほら俺様からのプレゼントだ! 遠慮なく受け取れよ!」


 バズーカが発射されて弾頭がバロネットの方向に飛来し、空中で分解してしまう。それと同時に大量の肉片がまき散らされた。


 その肉片の強烈な匂いはヒポグリフたちを集めていく。


「おっとしまったなあ。ヒポグリフを狩ろうとしたんだけど、肉の量を間違えちまった。いやー失敗失敗。あんな大量のヒポグリフに狙われたら、そうそう生き残れないだろうなあ。事故は辛いなあ」


 タナトス・ヘルはバロネットから離れるように移動し始めた。


 その場にいて巻き込まれたらスサノオも危険だからだ。そうしてタナトス・ヘルがかなり距離を取ってしばらくした後、安全地帯に戻ったことで足を止めて振り向いた。


「これなら間違いなく無傷じゃ済まねえよ。なにせ大量の肉で我を忘れたヒポグリフは特攻してくるからな。あの突撃を受ければ頑強な機体でも大破だ。遠すぎてあいつらの様子が見えないのと、女二人を犯せなかったのは残念だが」

  

 勝利を確信したスサノオは煙草に火をつけて、勝利の煙を吸おうとする。


 その瞬間、大爆発で空気で揺れた。


「な、なんだっ!? なにが起きやが……は?」


 スサノオは慌てて操縦桿を握り直して、持っていたバズーカを構える。魔物の不意打ちを受けたと思ったからだ。


 不意打ちに対する反応は素早く、腐ってもCランク探索者としての実力はあった。


 だがスサノオは目の前のキノコ雲を見て、しばし唖然とした後に。


「……は? なんだありゃ? まさかあいつらがやったのか? いやそんなわけはねえ! あんなの迷宮魔導機ダンジョンモビルが出せる火力じゃねえぞ!?」


 ひたすらに困惑し続けるスサノオ。だが彼はしばらくすると新しい煙草に火をつける。


「……落ち着け。あいつらのひとりは【現代の妖精】と呼ばれるマッド野郎だ。もしや秘密兵器のひとつを搭載していてもおかしくねえ。仕損じたか?」


 Cランク探索者は機体の操縦技術だけでは到達できない。危険地帯での素早い情報判断や鋭い勘など、優れた才を持つ者にのみ与えられるランクだ。


 スサノオは腐ってもなお優秀な探索者であり、卑劣な手管を考える頭も有している。


「へえ……やるじゃねえか。自分の手を汚したくはないと思ってたけどよお。こうなりゃ仕方ねえか。俺をここまで馬鹿にしやがって! 絶対に殺してやるぞ、てめえら!」


 スサノオは空中ディスプレイで誰かと通話をし始める。


「俺だ。少し派手にやりたいからその後はかくまってくれ。お代替わりにあんたらにも得なことをしてやるからよ」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る