第22話 ヒポグリフ退治


~バロネットのコクピット内~


 俺たちは機体ドックから出撃して、都市の南側を移動していた。


 周囲の景色は見晴らしのいい平野で、木などはあまり生えてない。


 俺はいつものごとく立花のバロネットのコクピットにお邪魔して、彼女の操縦を横で見ている。ちなみに今日はキャンプ用の椅子を置いて座ってる。


 いつも立ちっぱなしはちょっと疲れるからな。


「なあ立花。このエリアの名前ってなんだっけ」

「Eランクエリア【空の門番所】ね」

『Eランク以下の飛行魔物はヒポグリフだけです。なので初心者にとっての空の門番なのでその名前に』


 立花とマクスウェルが俺の問いに答えてくれる。


 ダンジョンのエリア名って魔物基準で付けられてるよな。居住区以外は。もしヒポグリフがいなくなったらどうなるんだろうな。


 するとコクピット内に有馬さん、いやアルニちゃんの通信が届いた。


『綾人さん! 立花さん! 調子はどうですか! ボクは絶好調です!』


 魔法少女姿のアルニちゃんが空中ディスプレイに表示された。


 本当にあの姿で迷宮魔導機ダンジョンモビルを動かしてるよ。しかもゲームコントローラー操作だからなおシュールである。


「有馬さん、機体の調子はどうかしら?」

「立花さん! 機体を貸していただきありがとうございます! すごくいいですよ! それと出来ればボクのことはアルニと呼んでもらえると嬉しいです!」

「……そう。分かったわ、アルニさん」


 立花はそう答えるとニヤリと笑い始めて、俺の耳元に口を近づけてくる。


「前に言った気がするけど、魔力で性格が変わる人っているのよ。ちょうどサンプルデータが欲しかったからありがたいわ」

「サンプルデータってなあ……」

「私はデータが取れて助かる。アルニさんは機体を無料で借りれて助かる。両者、損のない取引だと思うけど?」


 そんなアルニの動かしている機体が見えるのだが、人型の迷宮魔導機ダンジョンモビルだ。特徴は銃口がかなり長い狙撃銃を持っていることだろうか。


 俺の視線の先に気づいたのか立花が淡々と告げてくる。


「あの機体はDMディムという量産機を私が狙撃用に少し改造したのよ。正式名称はDMディム・スナイプよ」

『いいえマスター、立花様の言葉は適切ではありません。あれは少しの改造ではなくて、ガワ以外はほぼ全部変わってます』

「外側が同じなら少しよ。本気で改造するなら見た目も全然変わるもの」


 それもう改造じゃなくて最初からつくった方が早いのでは?


 相変わらずマッドっぽい発言だなあ。


「目的地についたわよ。ヒポグリフは発見してから動いても遅いから、最初から外に出ておきなさい」


 バロネットのコクピットハッチが開いたので、俺はガトリング砲を右手につけて外に飛び出す。


 そしてバロネットの肩の上に立って、周囲を見回すと遠くの空に何体か四足動物のシルエットが見えた。あれはヒポグリフの影だろう。


『あれらは遠すぎますね。流石に攻撃が当たりません』

「じゃあどうするんだ? 向こうが近づいてくれないと狩れないじゃないか」

『ヒポグリフを狩る方法は三つよ。まずひとつは飛行ユニットで戦うことだけどこれは今回はなしね。じゃあ次は遠距離狙撃を行うこと。アルニさん、任せていいかしら?』

『うん! 任せて!』


 アルニちゃんの乗機であるDMディム・スナイプが、長い狙撃銃を空に向けて構える。そして照準を覗き込んで、


『マジカルバスター! 発射!』


 狙撃銃から高出力のビームが発射されて、アッと言う間に遠くのヒポグリフの影に直撃。そして影は墜落していった。


 DMディム・スナイプは銃口を地面に降ろすと、


『おおー! この機体もスナイパーライフルも、すごい性能ですね! エイムアシストも強いし! 市販の量産型スナイパータイプとは比べ物にならないです!』

『私が作ったのだから当たり前よ。これが倒し方の二つ目ね。でも今の貴方のガトリング砲だとあそこまで遠くには届かないわ。なので三つ目、撒き餌を行うわ』

「……撒き餌?」


 魔物狩りをしてたと思ったら、いきなり釣りの用語が出て来たぞ。


 じゃっかん困惑していると、バロネットのキャノンからなにかが撃たれた。どうやらミサイルのようで、爆発せずに地面に激突する。


 それと同時にミサイルが分解するように開かれて、中から人の頭ほどの大きさの肉団子が現れる。


「……肉団子?」

『ヒポグリフが好む匂いを混ぜた合成エサよ。これでおびき寄せて近づいてきたところを倒すの』

「巨大な怪獣のエサにしては小さくないか?」

『大きくしてヒポグリフが多く集まってきたら面倒よ』

『ほらさっそく来たわよ』


 立花のバロネットが手を向けた先には、こちらに飛来してくるヒポグリフが見えた。


 かなり速いようでどんどん姿が巨大化していく。やはり怪獣みたいな大きさだ。


 試しにガトリングを撃ったのだが、ヒポグリフは身体をひるがえしてあっさりと避けてしまった。


 だが下手な鉄砲も数うちゃ当たるのだ。俺はさっそくビームガトリングの引き金を引いて、さらに光弾の雨を発射する。


 なお当たらん模様。ヒポグリフは空高く舞い上がってしまい、ガトリングの光弾が途中で消えてしまう。


 いやこれ無理だろ。さっきのスナイパーライフルに比べて、ガトリングは射程も狭いし弾速も遅い。


「なあ。距離取られたら当たらないんだが」

『近づいてきた時に当てられなかったマスターの射撃の腕にも問題があります。ですが足元に石がありますね』

「……投げろと?」

『はい』

「俺、ろくに野球とかやったことないんだが……まあいいか」


 まあ物は試しか。ガトリングを地面に置いて、足元に落ちていた拳ほどの大きさの石を拾う。そしてヒポグリフに狙いをつけてみる。


 それで振りかぶって石を投げてみた。すると石は轟音とともに、遥か上空に飛んでいるヒポグリフに迫っていく。


 しかし残念ながらコントロールが悪く、石は空高く飛んでいるヒポグリフの近くを通り過ぎて。


「ギュエアアェェェェェ!?!?」

 

 なんかヒポグリフが悲鳴と共に破裂して、肉片をまき散らしながら地面に墜落した。


「……当たってなかったよな?」

『石があまりに強く投げられたので、衝撃波でヒポグリフがミンチになりました。先ほどの石の威力を計測したところ、スナイパーライフルの数倍はありますね』

『あ、綾人さん。めちゃくちゃですね!? えっと……プロ野球選手になれるんじゃないですか!? 誰もボールに触れられませんよ!?』

 

 まずキャッチャーが死にそう。


『とりあえずマスター、やりましたね。おめでとうございます』


 マクスウェルが通信で褒めてくれる。


 俺としてもゴーレムやローパーを倒した時よりも嬉しい。なんか自分の力で倒せた感があるし。


『じゃあヒポグリフは回収御者に任せて帰りましょうか』

「ん? もう帰るのか?」

『ええ。ヒポグリフは空を飛べるし力も強いから、下手に数を集めると厄介よ。それに討伐が難しい魔物だから一体で買い取り価格もその期待できるわ』

「墜落してミンチになったけど」

『大丈夫よ。ヒポグリフを五体満足で捕らえるのはほぼ無理だから、元からミンチになるの前提で高値よ』

 

 こうして俺たちは帰路につこうとした、その瞬間だった。


『マスター、遠くからこちらの方角に向けて砲撃が発射されました。ただし照準が少しズレてるので当たることはありません』

「は? 砲撃?」


 よく見ると巨大な銃の弾丸みたいなものが、俺たちの方へとゆっくり飛んできている。だがマクスウェルの言う通り、俺たちへの直撃コースではなさそうだ。


 そう思っていると弾丸が空中で爆発して、なにかが俺たちから少し離れた地面に飛び散った。


 あれは……大量の生の肉? 風に流されてきたのか、バロネットやDMディムにも少し肉が当たってしまっている。彼女らの機体の装甲熱で肉が焼かれて少し美味しそうな匂いがしてきた。


『……綾人、アルニさん。急いでこの場から離れるわよ。いやもう遅いか』


 不思議に思っていると立花の声が響いた。


「立花? 遅いってどういう……」


 俺は途中で喋るのをやめた。何故なら、遠くの空にヒポグリフの編隊が見えたからだ。数えきれないほどの数の群れが、真っすぐにこっちに向かってきている。

 

『マスター、あのヒポグリフたちは肉を狙っています。ついでに肉の一部や匂いが染みついた我々も』

「まじか……」

『ど、どうしますか! あんな大勢のヒポグリフだと苦戦は必死ですよ! 群れヒポグリフの討伐ランクは、Cランクまで跳ね上がるって言われてます!』


 アルニちゃんの焦った声が聞こえてくる。たしかに空を飛べる魔物の群れに襲われるのは、ちょっと面倒そうな気がするなあ。


 それに立花やアルニちゃんを危険に晒すわけにもいかないし仕方ない。


「なあ立花、すごく悪いんだけどさ。また新しくガトリング作ってもらってもいいか?」

『待ちなさい。それならヒートサーベルの方が作りやすいわ』

「了解。じゃあそうする」


 俺はバロネットのコクピット内に戻って、ヒートサーベルを取ってまた外に出た。


『あ、あの? なにを話してるんですか? なんでヒポグリフ相手に剣なんて意味ないと思うな……?』


 アルニちゃんが困惑しているが、意味があるから取りに行ったのだ。


『マスター。ヒートブレードをガトリングで撃てば、爆発がさらに強くなるかと』

「わかった。じゃあそうするよ」


 俺はガトリング砲を左手に持ち替えて、右手に持ったヒートサーベルに魔力を注ぎ込む。途端に刀身がマグマのように真っ赤に染まっていく。


「よし! 飛んでけ!」


 そのままやり投げの要領で、ヒポグリフの編隊に向けて投げ込んだ。


 そして飛んで行った剣に向けてガトリング砲を撃つと、見事なまでに直撃して。


 ――周囲の空気を震わせるほどの大爆発を起こして、キノコ雲が発生した。


『なっ、なっ、なにっ!? なにが起きてるのっ!?』


 アルニちゃんの悲鳴が聞こえてくる中、俺はヒポグリフがもう残っていないことを確認すると。


「じゃあ帰るか」

『そうね。また明日はゴーレムを狩る必要が出て来たかしら』

『やれやれですね』

『!?!?!? ボク以外なんでみんな冷静なの!?』


 そうして俺たちは帰路についた。


 ところでさっきの肉のミサイルみたいなのはなんだったんだろう。

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