第18話 新しい武器の力


~バロネット コクピット内~


 俺はいつものように立花のバロネットに運んでもらって、Eランクエリアの巨大岩山へやってきていた。ちなみにここの正式名称は【初心捨ての岩山】というらしい。


『この岩山は初心者の登竜門的存在です。ここで通用するかどうかが、探索者として食べていけるかのひとつの壁ですね』


 コクピット内から周囲を見回していると、マクスウェルの声が響く。ゴーレムが壁とはそのまんまだな。


 そしてゴーレム君を発見したので今日も狩らせてもらおう。


「さて今日も稼ぐか。ところでゴーレムってどうやって倒すと高く買い取ってもらえるんだ?」


 立花に視線を向けて聞いてみる。


 以前にゴーレムを倒した時は、魔核が必要だったので身体を粉々に砕いて動けなくした。だが身体の方が高く売れるならば、あまりよろしくない倒し方になってしまう。


 どうせ倒すならば少しでも高く売りたいからな。


「貴方も探索者としての心持ちが生まれて来たようね。ゴーレムで最も高く売れるのは魔核だから、以前と同じように倒していいわよ。身体については多少砕いても値段は変わらないわ」


 立花がコントローラーを操作しながら告げてくる。


「そうなのか? 身体も壊れてない方が高く売れそうだが」

「ゴーレムの身体は一度溶かして固めて使うのよ。なので回収できないくらい細かく砕かなければ、そこまで変わらないわよ」


 なるほど、鉄鉱石みたいなものかな。


『ちなみに魔核が壊れていない場合、ゴーレムの買取価格は一体五十万円です』

「五十万円!? 一体で!?」

『はい。と言っても魔核を傷つけずに討伐するのは、本来なら難しいのですけどね。迷宮魔導機ダンジョンモビルで手足を狙っても、少し狙いがズレたら身体に当たりますし』


 たしかに巨大ロボットを操縦して、魔物の四肢だけ破壊するのは難易度が高そうだ。だが俺からすれば魔物は自分より大きなマトなので、攻撃力さえ足りれば楽勝だ。


「さてと。新武装のお試しもかねてやってみますか」


 コクピットの端に寝かせていた岩のビームガトリングと、ヒートサーベルを拾う。右手にガトリング、左手に太刀のロマン装備だ。


 しかも岩素材の武器だからロマン超えて、ややネタっぽく見えてしまうかも。と言っても今の俺の最高装備なのだが。


 立花はそんな俺の姿を見ると、コクピットハッチを開放してくれた。


「なあ立花。出撃する時になにか叫んだ方がいいのかな? 綾人行きまーす、みたいに」

「コクピットハッチから出る程度で申告しないで」


 ぐうの音も出ない正論である。俺は外に飛び降りてゴーレムの近くまで走った。


 最近は少し魔力を操る感覚が分かって来たので、まだ武器に魔力を流したりしないようにする。したら逃げられちゃうからな。


 顔のないゴーレムは仕草が分かりづらいが、俺に気づいたようでこちらにゆっくり歩いてくる。


 もう奴との距離は十メートルくらいまで近づいたので、ガトリング砲を構えて魔力を流し始めた。前のガトリング砲よりも力が吸われる感覚がするな。


 するとゴーレムは一目散に逃げ始めたので、背中に後ろ足にガトリングの照準を合わせて引き金を引く。


 ガトリング砲から光弾が大量に発射されて、ゴーレムの右脚に当たった。そしてゴーレムの右脚が壊れて、奴は走っていた反動でこけてしまう。


 俺は思わずガトリング砲を見てしまっていた。


「……マジで? 前のはゴーレムどころかオーガにすら通用しなかったのに」

『以前の威力の二倍と言ったでしょう? 強化しても弱いままなら、する意味がないわよ。それで感想は?』

「パーフェクトだよ」


 そんなことを話していると、ゴーレムはカカシのように左足だけで立ち上がった。


 俺はさらにゴーレムの右腕にガトリング砲を打ち込むと、同じように光弾が奴の肩を粉砕する。もうゴーレムは左手と左足しか残っていない。


 さてこのままガトリング砲で倒すのもいいが、それだとヒートサーベルの方が試せないな。


『そのまま倒したらダメよ。ヒートサーベルも試しなさい』

「俺もそう思っていたところだよ」


 左手のヒートサーベルに魔力を流すと刀身部分が赤く光り始める。なんか前に比べて熱気を感じるような気がするので、ヒート的なところが強化されているのだろうか。


 俺は地面を蹴って飛び上がり、ゴーレムの左腕めがけてヒートサーベルを振るった。


 するとまるで豆腐みたいに、ゴーレムの左腕がスパッと切れてしまった。以前なら剣の腹で殴りつけるしかできず、しかも二発でヒートサーベルが壊れてしまったのに。


 それに刀身が長くなったおかげで、より切れる範囲が増えたのもすばらしい。


「……立花! これいいな! 最高だ!」

『当たり前よ。私が作ったのよ? 当然のことを言わないでいいわ』


 立花のクールに言い放った通信が聞こえて来た。


『マスター、バロネットのカメラで確認しました。立花様はいま、少し得意げに笑ってますよ。』

『マクスウェル! 余計なことは言わないでいいのよ!』


 やはりというかクールぶってただけらしい。なんだかんだで立花は冷たい人間じゃないし、わりと感情を出すタイプだよな。


『綾人。武器試験も兼ねてもう少しゴーレムを倒しなさい。詳細なデータが欲しいわ』

「もちろんだ。一体倒すごとに五十万円だからな」

『微妙にマスターと立花様の動機がかみ合ってませんね。ですが同じ方向に進んでいるので問題ないでしょう』


 そうして俺は金のためにゴーレムを五体ほど狩った。もちろん全部、四肢を破壊しての生け捕りだ。


 ふふふ……なんて楽しいんだ魔物狩り! 


『じゃあそろそろ戻りましょうか』

「まだまだ狩れるぞ?」

『まだ武器の調整も終わってないし、壊れたら作り直しよ?』


 俺のガトリング砲とヒートサーベルを作るには、ゴーレム三体分の栄養素が必要だ。もし武器が壊れたら今日の成果が六割消えてしまう。


 お値段で言うと百五十万円だ。なんて恐ろしい……。


「……帰るか」

『マスター、氷室様から呼び出しが来ています。探索者組合本部に来て欲しいと。どう返事されますか? ちなみに16時までにこれなさそうなら明日でいいそうです』

「明日でいいのか。なら今日は疲れたから明日に……」

「やめておきなさい。氷室の明日でいいは、あまり信用しないほうがいいわよ」


 すると立花が少し強い口調で言い放つ。


「氷室は定時帰りのためならば、今日やるべき仕事もぶっちぎる恐れがあるの。あいつの定時帰りへの情熱を舐めてはいけないわ。地獄に落ちようとも定時に帰ろうとする妖怪みたいなやつよ」

「……その定時帰りへの情熱はなんなの」


 以前も定時になったら、俺を立花に押し付けて帰ってたもんなあ。


「知らないわよ。ともかく氷室の応答にはなるべく早めに答えなさい。あいつは自他共によほどのことがないと残業させないのよ。仮に急ぎの用事であってもね」 

「……いまは13時だから行けそうだな。今日中に行くか」

「それがいいわね」


 そうして俺たちは東京ダンジョン第一都市に戻ることにした。この後に待ち受けることも知らないままに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る