第16話 ビームガトリング改とか


 謎のメールが来た翌日。俺たちは立花の所有している機体整備用ドックの中にいた。


 ドックは個人所有なのにかなり広くて、25M級の機体を十体は並べられそうなほどだ。バロネットも機体ハンガーで固定されているし、他にも二体ほど別の機体がいる。


「……これ私有してるのか? すごいな」

「ダンジョン内の土地代はすごく安いのよ。土地が余ってるから。今の日本が超好景気なのも国土の広さという弱点が消えたからよ。でも最近は手狭に感じて来たから、いずれは買い換えたいけど」

『ダンジョンの土地代は地上の十分の一以下ですよ』


 立花の言葉にマクスウェルが補足を入れてくる。


 日本は島国だから使える土地に限界があった。でもダンジョンが生まれたことでその限界が消えたと。


 そう考えると日本はダンジョンが生まれて最も得してる国なのかもな。


「そういえば俺は結局のところ、迷宮魔導機ダンジョンモビルには乗れないのか?」

「少なくとも既製品では難しいわね。貴方の魔力量に耐えられずに駆動系が焼かれてしまうの。強力な魔物の素材を集めて、専用機を製造すればいけるかもしれないけど……」

「けど?」

「貴方は半端な機体に乗るより生身の方が強い。専用機を作るにはすごくお金もかかるからしばらくは諦めなさい」


 残念だが俺は迷宮魔導機ダンジョンモビルには乗れないようだ。


「それで貴方の武器を作ろうと思うのだけれど、なにか欲しい武器の要望はあるかしら?」


 あるにはある。でも実現不可能そうだから言わないでおこう。


 すると立花は俺の考えを察したのか、少し不機嫌そうな顔になる。


「貴方はこの世界の常識を知らないのよ? 出来るかどうかを判断するのは貴方の役目じゃないわ。言ってみなさい」

「じゃあ衛星砲撃

「ダンジョンに宇宙があるかを判明させるところからね。端的に言うと無理よ」


 知ってた。だから言わなかったのに。


「他にはあるかしら?」

「こんな無理な要望を言ったのにまだ聞くのか?」

「言ったでしょう。無理かどうかを判断するのは貴方じゃないと。要望がないならこちらで勝手に製造するけど」

「じゃあ改めてビームガトリング砲と大きな剣が欲しいかな」


 残念ながらオーガ以上には効き目のなかったビームガトリングだが、武装としては気に入っている。元々ガトリングが好きなのもあるし、なにより雑に撃ちまくれて当たるからな。


 下手な鉄砲も数うちゃ当たるのだ。マシンガンでもいいかもしれないが、なんか大きい方が強そうだし。


 大きな剣についてはヒートサーベルが短すぎて、あまり肉を切ることができなかった。もうちょっと長い剣が欲しい。

 

「ヒートサーベルでいいのかしら。叩くのが趣味の貴方ならハンマータイプの方がいいと思うの」

「剣の腹で叩いたのは斬ってもムダだったからで、好んで叩き殺してたわけじゃないんだが?」

『でも巨大な敵を相手にするなら、ハンマータイプの方がよさそうですね』

「確かにそうかもだが剣の方が武器っぽいというか」

「なら今回は長めの剣でいきましょう。まだまだ武器のスペックが貴方の魔力に追いつかないから、またそのうち作り直すでしょうし」


 そうして立花は箱型の物質製造機マテリアルプリンターの側に近づいた。


 箱の側にはさっき討伐したゴーレムの瓦礫が山のように積まれている。それとローパーの触手の一部が少し混ざっていた。


「今回のゴーレムは物質製造機マテリアルプリンターの素材に使うから、死体回収御者に買い取りさせずに持ってきてもらったの。ローパーも同様ね。予定外だったけどせっかくだから利用するわ」

「……ゴーレムは分かるけどローパーも? あの状況でよく素材を回収できたな」


 回収御者がどんな風に仕事してるか不明だが、ローパーが集まってくる場所で作業なんてできるのだろうか。


「貴方の魔力爆弾で周辺のローパーが逃げたのよ。その間に泥の薬品も中和したみたいね。もうあの辺りは安全よ」

「そりゃよかった。と言っても俺はまだランク的に入れないけどな」

「すぐに入れるようになるわよ」


 他の操縦者が有馬さんみたいになったら悲惨だから、無事に問題が解決したようでよかったよかった。


 立花が物質製造機マテリアルプリンターのコンソールを叩くと、ゴーレムの瓦礫やローパーの触手が消滅していく。


 そして入れ替わるように光が集まって、ガトリング砲や大剣が構成され始める。


物質製造機マテリアルプリンターは物質を原子レベルで分解し、新たに組み立てる機械です。なので素材次第で作るものの質も大きく変わります』

「すごいなあ。これも魔力とやらでやってるのか?」

『その通りです。ダンジョン内は魔力によって、物理法則などにも影響が出ています。なので質量保存の原則なども無視されます』

「まさに魔法だな」


 そんなことをマクスウェルと話している間に、ガトリング砲と大剣が完成してしまった。なんてすごいんだろうな、物質製造機マテリアルプリンター


 どちらも岩で作られていて少し原始的っぽい。特に岩で作られたガトリングはカッコイイが違和感がある。


「じゃあ武器の説明をするわね。この二つの武器はそれぞれビームガトリング砲・ゴーレムカスタムとヒートサーベル・ゴーレムカスタムよ」

「ゴーレムで作ってるからゴーレムカスタムか。嫌いじゃないが名前が長いのはちょっと気になるな」

「分かりやすさ重視よ。正式名称はともかく、銘に関しては好きに決めてちょうだい。とりあえず装備してみて」

「了解」


 俺は右手にビームガトリング砲を、左手に太刀みたいなヒートサーベルを装備する。どちらも軽いので問題なく片手で持てそうだ。


「うん、いい感じだ。ありがとう」

「私が設計したのだから当たり前よ。前のガトリング砲よりもスペックは上昇してるわよ。いまスペック表を送るわね」


 俺の目の前に空中ディスプレイが表示される。



-----------------


【ヒートサーベル・ゴーレムカスタム】

攻撃力    40

耐久力    80

魔力許容量  40 

属性     実体剣


【ビームガトリング砲・ゴーレムカスタム】

攻撃力    30

耐久力    60

魔力許容量  40 

属性     ビーム弾

-----------------



 うーむ。これだけ見てもあまり分からない。


「以前の武装の性能も教えてくれないか?」

「前の武器に比べると、全てのスペックが倍になってるわよ」


 倍はすごいな。ゴーレムの素材は質がいいようだ。


 ……前の武器のスペックがダメだった可能性もあるが、口には出さないでおく。貰い物だし悪く言うのもな。


「そりゃすごい。それならガトリング砲でオーガも倒せそうだな」

「ここで試し撃たないでね。危険だから」

「わかってるよ。またダンジョンに潜った時に試すさ。今日の素材は全部武器の素材に使ったから儲けもないんだろ?」


 お金は稼がないとな。なんだかんだで俺の貯金はまだ五十万程度なのだ。


 五十万の貯金は決して多いとは言えない、というか明らかに少ない。出来れば三千万円くらいは貯金したい。


 ……よし、三千万円稼ぐのを今後の目標にするか。一日で五十万円稼げたことを考えれば現実的な目標のはずだ。


 そうなるとダンジョンに潜って稼がないとな。


「よし。じゃあ明日もダンジョンに潜ろうかな。立花はどうする? ずっと付き合わせて申し訳ないし、マクスウェルもいるから俺一人で潜ってもいいけど」


 立花はずっと俺についてくれていて、流石に申し訳ないのが本音だ。マクスウェルもいるし、あまり迷惑かけるのもな。


「なにを言ってるの? 私は貴方のデータを取りたいのよ。だから当然ついていく。貴方が申し訳なさを感じる必要はないわ。私は自分のメリットのために行動しているだけだから」

「そうか。ありがとう」


 ……それでもここまで面倒を見てもらえるとは、本当に足を向けて寝られない。


 ありがたいお言葉も頂いたので、明日も立花とダンジョンに潜ることにした。


『そういえばマスター。先日、有馬様を助けましたよね? その時に彼女が配信していたみたいで、マスターの姿が多少写ってしまってます。せっかくなので配信の録画を見てみては?』

「そうなのか? うーむ、無断でランク外のエリアに入ったから叩かれてそうだな……見るのはやめておくよ」

『視聴しないのですか?』

「わざわざ悪口を言われてるのを確認する趣味はないからな」


 臭い物にはふたをする主義だ。わざわざ嫌な思いをする趣味はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る