第28話 嫉妬の怪物
「ふざけるな! クソがっ!」
スサノオは乗機であるタナトス・ヘルに乗り込んで、ダンジョンへと潜っていた。
そんなタナトス・ヘルに対して、オーガが襲い掛かって来るが。
「死ねよっ、雑魚がっ!」
彼がコクピットの中で叫ぶと同時に、タナトス・ヘルは巨大な鎌でオーガの首を切断した。
「クソッ! クソッ! クソがぁっ!」
スサノオは床を踏みつけながら激怒している。彼がそうなっている理由はたったひとつだ。
全てはあの配信が原因だ。スサノオにとってあれは絶対に許せず、認められないものだった。何故ならば、
「許せねぇ……あの生身野郎、絶対に許せねえ……! あそこまで馬鹿にされちゃあ、黙ってるわけにはいかねえなあ……!」
綾人の『え”っ?』から始まる配信は、スサノオにとって全てが煽りであった。
「しかもだ! 俺を利用してバズりやがった……! 絶対に殺してやるっ!」
スサノオが最も欲しているのは知名度だ。綾人の『え”っ?』がバズったのは、スサノオにとってあまりにも怨めしいことであった。
彼に取って今の状況は、綾人が有名になる出汁に使われたことになる。どんなことがあっても許せないことだった。
だがスサノオは落ち着くように深呼吸をする。
「チッ、まあいい。元からあいつは殺して、ここから去るつもりだったんだ。日本の法律なんぞもう気にしなくていいし、最後にデカい花火をあげてやろうじゃねえか」
スサノオが向かっている先は、綾人が決闘場所に指定したポイントだ。
そしてタナトス・ヘルは目的地に到着すると、両手から小さな平たい円盤のようなものを周囲に散布していく。
円盤は地面に落ちると勝手に潜っていき、地上から見ても埋まっていると分からなくなってしまった。
「よし、魔物誘導装置はOKだ。あの野郎を殺した後、現代の妖精を誘拐して魔物の混乱に乗じて逃げられる」
魔物誘導装置は百を超える魔物を引き寄せる、極めて危険で当然ながら違法の道具だ。
この道具はかつてテロに使われそうになったこともある。その時は未然に防げたが、もし使われていたら間違いなく死者が出ていただろうと言われている。
「この俺を舐めやがったんだ。楽に死なせるわけにはいかねえ。さて生身野郎はこれでいいとして、問題は『現代の妖精』だな。あいつをさらって手土産にすれば俺の今後は安泰だ。俺を認めてくれる場所で好きにやれる」
スサノオはこの後の展望を考えて下卑た笑みを浮かべた。
股間部分が少し盛り上がっていることから、なにを考えているかは一目瞭然だろう。
(『現代の妖精』は見た目がいい。手土産にする前に少しばかり楽しませてもらおうじゃねえか)
妄想を続けるスサノオ。そんな彼に通信が入って『VoiceOnly』と書かれた空中ディスプレイが表示された。
『よおスサノオ、準備は万端だぜ。明日はベギラゴン総出で決闘を見に行って、逃げる時も援護してやる。代わりに約束通り、俺らも連れてけよな。もうここでは生活しづらいしな』
ベギラゴンとはスサノオが属する組織の名前だ。東京第一都市ダンジョンの犯罪組織であり、頻繁に問題を引き起こしている。
スサノオに信用できるパーティー仲間はいない。だが利用し合える知り合いはいた。
「もちろんだ。お前らは決闘の場所あたりで見物客に混ざっておけ。それで俺が生身野郎を殺したら周囲が動揺するから、そこで暴れてさらに混乱させろ。その隙に俺は『現代の妖精』をさらって離脱して、魔物誘導装置を起動する」
『俺らは魔物で起きた混乱で逃げろってことだな』
「ああ」
本当ならスサノオは魔物誘導装置を使いたくはなかった。用意するのも手間だし、事前に設置しているのがバレたら面倒なことになる。
だがそうしないとベギラゴンの他メンバーはスサノオに協力しない。逃げる手がなく捨て駒にされるのが分かり切っているからだ。
(チッ。大人しく俺の捨て駒になってりゃいいものを……)
スサノオは内心で舌打ちをした後に、さらに通信に向けて語り掛けた。
「日本なんて下らねえ国はもっと早く捨てるべきだったな。俺らみたいな天才はあのチンケな島国じゃダメなんだよ」
『その通りだな。あの国は俺らのことを評価してくれてるし、間違いなくこんなクソ日本よりも生きやすい』
「どうせなら都市に爆弾でも仕掛けていくか? 置き土産によ」
『いいなそれ。何人死ぬか賭けようぜ』
「違うだろ? 何人殺せるか勝負しようぜ、だろ?」
『違いねえ。最低でも千人くらいは殺したいな。逃げ切った後にニュースで答え合わせも出来るしよ』
スサノオたちの笑い声がコクピットに響く。
『しかしあの綾人とかいう奴、生身で戦うとか正気かよ』
「そんなわけないだろ。あいつは俺の機体や武器に細工して動けなくすることで、勝利する狙いに決まってる。だからよ、依頼したいことがあるんだ」
スサノオが空中ディスプレイを操作して、通信相手にメッセージを送った。
すると通信相手から愉快そうな声が返って来る。
『メッセージ通りに依頼をこなせばいいんだな? お前のその陰湿な性格は嫌いじゃねえぜ』
「はっ! 陰湿なのは向こう側だろうが。因果応報って言葉を教えてやらねえとなあ!」
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