第27話 煽りの天才?


 立花所有の機体ドックに、俺と立花と有馬さんは集まっていた。


 なお有馬さんは魔法少女姿なので、今はアルニ・ミウムらしい。相変わらずややこしいが仕方ない。


「えっと。じゃあ今からボクのチャンネルで配信すればいいんだね?」


 アルニちゃんが空中に浮かぶ球体型のカメラを触りながら、俺にそう問いかけて来た。


 今から俺たちはスサノオに向けて、迷宮決闘ダンジョンデュエルを申し込む動画を撮るのだ。


 なぜ直絶申し込まないのかというと、奴が逃げたりするのを避けるためだ。そしてその動画をネット上で拡散させて、スサノオが決闘を受けざるを得ないように追い込む。


 後は立花の希望が大きいのだが、スサノオのネット上の面目を殺しきりたいらしい。そのためには決闘を大々的に広めたいと。


 そんな立花はアルニさんに軽く謝っている。


「変な動画を投稿させて悪いわね」

「いえ。先日も迷宮魔導機ダンジョンモビルを貸していただきましたし。それに皆さんがあの人に目をつけられたのも、ボクのせいだし……」


 アルニちゃんは申し訳なさそうに視線を落とす。彼女からすれば自分を助けたせいで、俺がネットで拡散されてスサノオが来たと思っているのだろう。


 だがそれは違う。少なくともアルニちゃんは悪くない。


「いやそんなことはないよ。悪いのは全部スサノオだ。それに仮にアルニちゃんの一件がなくても、いずれ目をつけられてたよ」


 俺は世界で唯一、生身で魔物と戦っている男だ。


 ならいずれなにかの拍子に目立っていた可能性は高く、そうなったらスサノオがどうせ嫌がらせをしてきただろう。


「……ありがとう。じゃあ出来る限りのことはさせてもらうね。配信準備OKだよ」


 アルニちゃんは軽くウインクしてきたので、俺は喉を鳴らした。


 配信ってちょっと緊張するなー。今までやったことないし。


 そんな中で空中に浮かぶカメラが俺の方を向いてくる。最近の技術はすごいなー。


 さて配信が始まったら第一声は何て言おうか。どうも、噂の生身男ですとか?


 いやそれだとインパクトが小さい気がするな。どうせなら多少はかっこいいようなセリフとかで……。


 するとアルニちゃんが困ったように俺に笑いかけて来た。


「ねえ綾人さん。もう配信始まってるけど」

「え”っ」


 第一声は予想外に驚いた妙な声になってしまった。


 すると球体カメラから、配信のコメントが読み上げられ始める。


『なんだ今の潰れた声』

『明らかに配信慣れしてないなー』

『いきなり失敗して草』


 なんてことだ。記念すべき初配信の第一声がこんなのなんて。


 畜生。このタイミングで配信することにならなければ、こんなことにはならなかったのに!


「くっ、おのれスサノオ! 奴こそ諸悪の元凶……!」

「なんとなくだけど、わりと理不尽な怒りな気がするわね。まあスサノオが諸悪なことに異論はないけれど」

「二人とも! もう配信始まってるからね!?」


 俺と立花がわりと普段通りのノリで話していると、アルニちゃんからお叱りを受けてしまった。


 彼女のチャンネルを使わせてもらってる身なのでちゃんとやろう。


「コホン。俺は以前にアルニちゃんを助けた生身の男です」

『当たり前のこと言うんじゃないよ』

『まるで生身じゃない人間がいるかのような言い方』

『お前の頭、サイボーグか?』


 ……ネット上で生身野郎とか言われてるからそう告げたのに!


「えー。今日配信しているのは、とあることを宣言するためです。俺はベギラゴンのスサノオに対して、迷宮決闘ダンジョンデュエルを申し込む!」


 ビシッと球体カメラに向けて指をさす。すると大量のコメントが読まれ始める。


『生身君、機体に乗れるのか!?』

『迷惑千万のスサノオと、生身君のコラボってマジかよ!』

『でもスサノオって性格とか終わってるけど、パイロットとしての技量だけは高いぞ。勝てるんか?』

『あいつは人格ステータスを最低値にして、その分を技量に振ってるような奴だからな……』

『スサノオをぶちのめして、二度とダンジョンに潜れないようにしてくれー! あいつのせいで俺の友人が怪我したんだ!』


 どうやら配信が盛り上がってくれているようで何よりだ。


 そしてスサノオの評価が予想通り終わっているので、これなら思う存分やっても罪悪感もわかない。 


 さて後は立花と決めていたセリフでしめよう。


「それと皆に宣言しておくことがある。俺は迷宮決闘ダンジョンデュエルで機体に乗るつもりはない!」

『は?』

『は?』

『は?』


 一斉に連呼される『は?』コメントの嵐である。なんとなくこれは予想がついていた。


「俺は宣言する! スサノオの迷宮魔導機ダンジョンモビルに対して、生身で戦って圧勝すると! あんな雑魚は迷宮魔導機ダンジョンモビルに乗るまでもないってことを証明してやる!」

『こいつ正気か!?』

『狂ってやがる。遅すぎたんだ』

『最悪人のスサノオと狂人の生身男のドリームマッチだな。会ってはいけない奴らが会ってしまった感ある』

『勝った方が東京ダンジョン第一都市で一番ヤバイ奴だろこれ』


 コメントが読まれていくが、俺が負ける前提で話されているな。


 だが彼らがそう思うのは当然だ。普通に考えて生身で迷宮魔導機ダンジョンモビルに勝てるわけがない。


 そしてネットに流れている俺の映像は、ローパーからアルニちゃんを救出して逃げるところのみだ。つまり俺は魔物の間を走って逃げるバカ者とは思われてるが、魔物を生身で倒せるとは知られていない。


『悪いこと言わないからやめておけよ。スサノオは手加減とかしないし、嬉々として殺しに来るぞ?』

『スサノオの悪辣さはヤバいぞ。まじで』

 

 コメントが徐々に俺を真剣に心配し始めているが、俺としてはこの配信を撤回するつもりはない。


 スサノオをのさばらせておくのも問題だし、さっさとケリをつけてまたダンジョンに潜りたいのだから。


「明後日、初心者殺しの岩山で待つ。もし戦える勇気があるなら来い。ああ、負けるのが怖いなら逃げても構わないぞ? 弱者が逃げるのは当然だから怒る気も起きない」


 なお煽り文句は立花が考えたものだ。


 スサノオが聞いたら激怒しそうだが、怒らせるのが目的なので問題はない。


「そういうわけだからよろしくな! ぜひこの配信を拡散してくれ!」

 

 よしこれで終わりだ。少し緊張したがなんとかなったな。


「ふー。お疲れー。いや配信って思ったより緊張するなあ」

「あ、すみません。まだ配信切ってませんよ?」

「えっ」

「最後までグダグダね」


 そして無事(?)に配信は終わった。アルニちゃん曰く数万人は視聴者がいたそうなので、かなり拡散されるだろうとのこと。


 これならスサノオの耳にも確実に入るだろう。


 そして翌日の朝。俺と立花は自宅でゆっくりしていると、有馬さんから通信が入って来た。


「神崎さん! 昨日の配信の切り抜きが動画サイトのランキングに載ってるのですが……」

「おお、そりゃすごい。煽りがランキングに載ったら、もうスサノオは絶対に逃げられないな」


 無事に目的を果たせてよかったよかった。あとは明日、俺がスサノオを倒すだけだ。


「いえあの……ランキングに載ってる動画なんですが、スサノオへの煽りは入ってないんです。神崎さんが配信冒頭で言った『え”っ?』っていう一言が、何故かランキングトップに躍り出ていて……」

「なんで?」

「ネットはなにが流行るか分からないわね」

 

 試しに動画サイトを教えてもらってランキングを見てみると、俺が『え”っ?』って連呼してる動画がトップにいて、派生動画もいくつかあった……まるで意味が分からんぞ!?


「ちなみにMAD動画も作られ始めてますよ……スサノオへの煽り言葉はほぼ動画にされてませんね」

「まさにネットのオモチャね」

「なんでだよ……」


 なんで『え”っ?』って言っただけのシーンが流行るんだよ!? マジで意味が分からんぞ!?


 これ大丈夫か? スサノオへの挑発が、バカみたいな話で流されてしまうのでは……!?



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ネットは謎のミームが流行る(笑顔動画を見ながら


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