ロボットでダンジョンを攻略する日本になったけど、俺だけは生身で無双する ~巨大モンスターを生身で倒していたら、世界最強の探索者になっていました~
純クロン
プロローグ
『撃て! もっと撃て! このままじゃ全滅だぞ!』
『もう弾がない! それに魔力残量も5%を切ってブースターが使えない!』
『くそお! なんで第三階層にハイオーガがいるんだよ!』
太陽が照らす草原で、人の声と機体の駆動音が響いている。
三機の巨大な人型ロボットたちが必死に走って逃げていた。この人型ロボットたちは量産型の
そんな
巨大であるはずの
この赤い鬼はハイオーガと呼ばれる二十五メートル級の魔物だ。そんなハイオーガは十メートル級の緑の小鬼であるゴブリンを引き連れて、ダンジョンマシンたちを追っていた。
『くそお! これでも喰らいやがれえええええ!』
弾丸に直撃したゴブリンが何体か血しぶきをあげて倒れるが、ハイオーガにはなんと筋肉で弾かれてしまった。
『やっぱりダメだぁ!?』
『馬鹿! ハイオーガに
三機の
そしてとうとう一機の腕がハイオーガに捕まれてしまった。
『はな、放せっ!?』
『ハイオーガに掴まれたら抜けるのは無理だっ! 腕をパージしろっ!』
『くそぉ! 高かったんだぞこの機体っ!?』
オーガに掴まれていた腕がパージされて、
そして拳を振り上げた。オーガの視線の先にあるのは
『ちょっ!? それはヤバイ!』
『やらせるかよぉ!?』
他の二機体はハイオーガから仲間を開放しようと、剣を振り下ろすがまた筋肉の鎧に弾かれる。
さらにハイオーガに軽く手で払われて、二機は吹き飛ばされてしまう。ダメージが大きいのか関節部から火花が散って、うまく起き上がれていない。
『ダメだっ!? やっぱりハイオーガには通じねえ!?』
『パワーが違い過ぎる……! ちょっ、本当にヤバイって!? やめろっ!?』
そして障害のなくなったハイオーガの拳が、捕まっている
その一撃はコクピットごと機体を粉々に砕き、当然ながら中のパイロットも即死。
――のはずだった。
「ルオオ?」
だが拳はコクピットに当たる直前で、不自然に止まっていた。
ハイオーガが止めたわけではない。彼は全力で機体を打ち貫くつもりで、勢いをつけて殴りかかった。本人、いや本鬼ですら反動を殺しきることは不可能だろう。
だが拳はピタリと止まっている。よく見れば手の先にナニカがいた。
巨大な赤鬼に比べればあまりにちっぽけな、拳よりも遥かに小さい少年がいた。彼は背負っているバックパックのブースターを吹かせて、宙に浮いている。
『え? は? ……ひ、人?』
『え? なんで生身の人間がダンジョンにいるんだ!? それに、えっと。ハイオーガの拳を受け止めてる?』
少年は生身の人間である腕に出現させている長方形のビームシールドで、巨大なオーガの全力拳を軽く受け止めている。
彼は町にいそうな服でありながら、全身に様々な装備をつけていた。背中にはブースターのバックパックを背負い、右腕に取り付けるように長いガトリング砲を、そして左手からはビームシールドを発生させている。
だがビームシールドの大きさはせいぜい50センチ程度の人の装備サイズ。対してハイオーガの拳は二メートルを超える。
そんな盾で巨鬼の拳を受け止めるなど、サイズ差を考えればあり得ない状況だった。
「じゃあ反撃させてもらおうか。ビームガトリング改のブレードモードを使うぞ」
『承知しました、マスター』
小さな人間がそう告げると、応答するように電子的な声が響いた。
そして彼が右腕に取り付けたガトリング砲が回転し始めて、銃口に光が集まって巨大な剣のように伸びていく。
光の剣は信じられないほどに伸びていき、気が付けば二十五メートルを有するオーガよりも長くなっていた。
「る、ルオオオオオォォォォォォ!?」
それを見たオーガは命の危険を察したのか、捕まえていた
「逃がすかっ!」
ビームソードが横なぎに振るわれて、ハイオーガの胴を切断した。
ハイオーガは上半身と下半身に分かれて、周囲に血と肉片をまき散らしながら倒れる。間違いなく即死だ。
だがその強すぎる出力の代償のせいか、ガトリング砲は火花を散らして動かなくなっていた。
「あっ……ガトリングが壊れてる……」
『魔力を注ぎ込み過ぎです。リミッターの調整不備ですね』
そのあり得ないことをした少年は小さくため息をついた後、二機のダンジョンマシンのほうを見て困ったように愛想笑いをする。
「すみません、私は神崎綾人と申します。皆さんの獲物を奪おうとしてるわけではなくてですね。えっと、ほらちょっとハイオーガを殺したくなりまして」
『『!?!?!?』』
神崎綾人と名乗った高校生くらいの少年の言葉に、あっけにとられる二機。
すると少年の声に追随するように、無機質な声が流れて来る。
『マスター、それは狂人一歩手前の言動ですよ。すみません、皆さんが危険と判断して介入させて頂きました。ちゃんとハイオーガの素材はお譲りしますので。真っ二つですけど』
『は、はあ……』
唖然とする二機を後目に、神崎は難しそうな顔で悩み始めた。
「……俺の言い方、そんなに悪かったか? 善意の介入者だと伝えたつもりなんだけど」
『あれで伝わるのは狂気ですね』
「う、うーむ。半年ほど人と話さなかったからコミュ力がなまったか」
『なまった程度で出てくる発言じゃないと思います』
「そんなことは……っていかんいかん。早く戻らないと装備がほったらかしだ。盗られたらマズイ」
『人型装備はマスターしか扱えません。盗む物好きはいません』
「いるかもしれないだろ! そういうわけなんで失礼します!」
そう言い残して綾人と名乗った少年は、ブースターを噴射させて空を飛び去っていく。
『……なにあれ?』
『俺に聞くなよ』
『……人型サイズのロボットが開発されたのか? ハイオーガでも倒せるレベルの性能の……?』
『それこそあり得ねえだろ! ダンジョンマシンに乗ってもパワー不足なのに、人サイズのマシンで足りるわけねえよ!』
『そもそもそんな話があるならどこかで聞いてるよなあ。じゃあさっきのはなんだよ』
『知らねーよ……』
この世界において魔物は巨大な怪獣サイズだ。スライム、ゴブリン、オーガですら十メートルを超えて、ドラゴンに至っては百メートル級すら当たり前。
そんな怪獣みたいな魔物を倒すのは、人では不可能でロボットが必須だ。生身の人間が魔物を倒すなどあり得ない。だがあり得てしまった。
残された三機は唖然としながら、綾人が飛び去って行った方向を眺めるのだった。
そして嵐のように通り過ぎて行った彼は、空中で周囲を見回しながら話をしていた。
「半年前にはこんなこと想像もしてなかったなあ」
『またその話ですか。聞き飽きました』
「そう言うなよ。俺からすれば夢のような話なんだから。なにせ半年前には日本にダンジョン自体がなかったんだぞ? お前みたいなAIも巨大ロボットも夢のまた夢だったんだから」
『半年前ではなくて十年前ですけどね』
「俺にとっては半年前なんだよ」
そうして綾人は思い出すようにこれまでのことを話し始めた。
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