第37話 自宅でパーティー
俺と立花は決闘が終わった後、東京ダンジョン第一都市に戻っていた。
そして焼肉を食べに行く通り道の道路を歩いていた。
生身生身と言われていたら焼肉が食いたくなったのだ。やはり焼肉こそ正義だ。
だが俺はそこで数の暴力に屈することになる。
「スサノオを倒した生身君がいるんだって!」
「まじかよ! 本当に生身で機体を撃破できるのか!?」
「転売するからサインください!」
などと周囲の人が集まってきて、俺たちは自宅への撤退をよぎなくされた。
……どうやら俺の顔が知れ渡ってしまったみたいで、まるで有名芸能人みたいな扱いをされてしまったのだ。
これではとても道は歩けなかったので、俺は立花をお姫様抱っこして建物の屋上をジャンプで乗り継いで帰った。
「弱ったな。まさかこんなことになるとは」
俺がベッドに座り込むと、なぜか立花も隣に座って来た。
「しばらくは素顔で外に出るのは難しそうね」
「でも配信で有名になったからって、ここまで有名人になるか? 街のほとんど全員が俺のことを知ってたように見えたぞ」
マジで怖かった。大勢の人間が津波のようになだれ込んでくるのは、正直危険を感じたくらいだ。
以前に人の波にのまれて死人が出たニュースを見たのを思い出して、ヤバイと思って急いで逃げたからな。
俺は大丈夫かもしれないが、もし知らない誰かが死んだりしたらあまりに辛い。
「この東京ダンジョン第一都市の住民は、多くが迷宮の探索者よ。関係のない人も探索者相手の商売をしているから、ダンジョン関係の話題は常にアンテナを張ってるわ」
「つまりこの都市の住人で、俺とスサノオの決闘配信を見た人は多いと?」
「見てない方が少数派でしょうね」
「しばらくは変装しないと出歩けそうにないな……」
なんてことだ。毎日サングラスをつけて出歩かないといけないとは。
『マスター、警戒すべきはファンだけではありませんよ』
「と言うと?」
『先ほどの人ごみの中に、明らかに特殊な訓練を受けた人間が混ざっていました。おそらくですが諜報員の類かと』
「ちょ、諜報員? そんな奴が俺に何の用事があるんだ?」
俺は別に国家の機密を知っているわけでもないし、重要な役職についているわけでもない。
よくわからず困惑していると、立花が俺の髪の毛を撫でてきた。すごく距離が近くて思わずドキッとしてしまう。
「貴方の遺伝子かしら。生身で
「そ、そうか……」
立花の笑っている顔がすごく近くて、自分の顔が赤くなってないか心配になる。
……【現代の妖精】と言われてるだけあって、立花は本当に可愛い容姿をしている。言動は少し過激ではあるけども。
立花がそんなあだ名をつけられているのも、彼女の見た目が妖精のように可愛らしいからだろう。
本人は嫌いなあだ名らしいからあだ名の由来は聞いてないけど。
「ふふっ。焼肉を食べに行けなかった代わりに、自宅で軽く食事でも取りましょうか。なんでも好きなモノを作ってあげるわ」
「え、立花って料理できるのか?」
研究一筋人間と思っていたのだが違ったのだろうか。
まさか料理できるタイプの女の子なのか? 研究系家庭肌の万能少女だったのか!? 頭脳の代わりに他を捨てたマッドサイエンティストの類ではなくて!?
そんな天才少女の立花は胸を張って、
「こんなこともあろうかと、携帯型の
訂正。まごうことなき研究系マッドサイエンティストだった。
「
「市販のでは無理ね。手料理が作れるように改造しておいたの」
「それは手料理とは言わないだろ……ありがたいけどさ」
どちらかというとレンチン料理に近い気がする。
いや正直手料理を作れるよりも凄いとは思うのだが、家庭的ではなくて理系的な実験の類だろうな。
「それでなにが食べたいのかしら? なんでも作れるわよ」
「じゃあ焼肉」
焼肉を食べに行くつもりだったので、もう焼肉舌になってしまっていた。タン塩食べたい。
「塩タンとロースとカルビでいいかしら?」
「ホルモンもできる? あ、でも焼肉用の道具とかないな」
「問題ないわ。焼いた状態で作るから」
一家に一台、
いやどうだろうか。なんだかんだで電子レンジが生まれても、みんな料理してるしな。
というか電子レンジだって、百年前の人からすれば奇跡の機械みたいなものな気がする。文明の進歩というのは恐ろしい。
そういうわけで部屋の真ん中に小さな机を置いて、立花が携帯型(スマホっぽいやつ)の
そして俺はそれを頂いたわけだが。
「うっま!? めちゃくちゃ柔らかくて口の中で脂が溶けるんだが!?」
「当然よ、人間が好むように作ってるのだからね。それとお酒もどうぞ」
立花は冷蔵庫からチューハイの缶を取り出して俺に渡してきた。
「ふぅ。ちょっと暑いわね。私はシャワーを浴びて来るから食べておいてね」
そしていつものように立花はシャワールームへ向かってしまった。
立花は先日から俺の部屋に泊まってるが、なにも気にしないかのようにシャワーを浴びるのだ。ちょっとは気にするべきじゃないか?
もし俺に襲われたらとか考えないのだろうか。考えてたらこんなことしないか。
受け取ったチューハイを飲むと少し眠くなってきた。色々とあって疲れがたまっているみたいだから、今日は早めに寝るべきかもな。
というかこのチューハイ、なんか美味しいな。飲んだことあるやつなのに味が変わってる気がする。
しばらくするとパジャマ姿の立花が戻って来た。濡れている髪が少し色っぽい。
「あ、立花。このチューハイ、普段より美味しいがするんだけど。なんか特別仕様だったりする?」
立花にチューハイの缶を差し出すと、彼女は目を細めて俺を見た後に。
「……美味しくなるように人工甘味料を混ぜたわ」
「そうなのか。それ今度教えてくれよ」
「……気が向いたらね」
立花は僅かに眉をひそめていて、少し不機嫌になってるような雰囲気だ。
そうして俺たちの焼肉パーティー(焼いてない)は無事に終わったのだった。
一言だけコメントがあるとすれば、
ただ少しだけ物足りない気がした。おそらく肉を焼いてないからだろうな。
『知らぬが花ですね』
「マクスウェル、どうかしたのか?」
『いえなんでも』
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