第2話 現実に帰りたい


(家に帰りたい……)


 俺が着の身着のままで謎の森に飛ばされて一か月が経った。まだ夢は覚めない。


 いやもう夢じゃないのは分かっている。でも夢であって欲しいと思ってしまう。


 いまも森の中に隠れているが、ここの周囲には超巨大な怪獣たちがいっぱいいるのだ。迂闊にここから出たら姿を隠す場所がなくて死ぬ。


 何度かあの怪獣たちに見つかって俺は必死に逃げた。どうやら彼らにとって俺は羽虫程度の扱いらしく、ある程度逃げたら追ってこなくなる。そしたらまたこの場所に戻ってきている。


 人間を前にした虫の気持ちが分かる……そんなことを考えていると腹が鳴った。


(今日も食うか……)


 俺はこの一か月、ろくに森を拠点に生きている。ただこの森には食べられそうなキノコなどもなく、森の恵みなどの恩恵は受けれていない。


 そんな俺がどうやって生きて来たのかというと、


(吐くほどマズいんだよなあ、竜の肉)


 ここに来た時に発見した竜の死体から、肉を頂戴し続けている。何故か分からないが肉が腐らないし、巨大なので肉の量には困っていない。


 さっそく地面に落ちている鱗の一枚を手に取る。俺の身長くらい大きい鱗だがかなり軽いので持ち上げられる。


 鱗を両手で持ち上げて、俺に食べられる程度に竜の肉を切り取っていく。そして生のままで食べる。


 本当は焼きたいけど火種がない。棒で木の板をこすると火がつくとは聞くが、試してもまったくダメだったので諦めた。


 水については森に湖があったのでそこで飲んでいる。


(ここがどこだか分からないけど、誰か助けに来てくれないものか……)


 この肉が腐るか、それまでに助けが来るかの勝負だ。


 そう自分に言い聞かせながら日々を過ごしていき、おそらく半年ほどが経過した。竜の肉も残りが心もとなくなってきたが、誰も助けに来てくれない。


(ははっ。当然か……怪獣がうろついてる場所にどうやって来るんだよ。というかここどこだよ)


 分かっていた。ここで待っていたって誰も来てくれないことは。


 竜の肉はあと一か月ほどでなくなるだろう。そうなったら飢え死にするだけだ。


 諦めで心が一杯になって、なんとなくふと思った。


(……どうせ死ぬならここがどこか知ってからにするか?)


 ここがどこかも知らず、なにもわからないまま死ぬのは嫌だ。


 どうせ死ぬと決まっているならば、怪獣が跋扈する謎の場所について少しでも知りたい。それに飢え死によりは踏みつぶされて即死の方が幾分楽そうだ。


 我ながら自暴自棄だと思うが、なにもしなくてもどうせ死ぬしな。


「よし。なら行くか」


 さっそくドラゴンの肉の一部を切り裂いて、竜の腹部の皮で作った風呂敷に包んだ。五日分くらいの食料にしかならないがまあいいだろう。


「どこに向かおうかな。そうだなあ」


 悩んでいると竜の死体の顔と目が合った。


 こいつに助けられてたわけだし、竜の目に従って進むのも悪くないか。きっといい目が出るさ。


 そうして俺は森の外に出て、向かって走り始めた。


 森から少し離れると平野が続いていた。相変わらずビルより大きい怪獣たちがうろついているが、小さすぎる俺には気づかないようだ。


 ちなみに怪獣にも色々種類がある。恐竜っぽいのとか、鬼みたいなのとか、スライムっぽいのとか多種多様だ。


 ただ誰が相手だろうとある程度は逃げ切れる自信はある。なんでか分からないが俺の足はすごく速くなっていた。


(……まあ逃げられたところでどうにもならないのだけれど)


 他には体力もすごく上がっていて、全然バテなくなっていた。いくらでも走り続けられそうなくらいだ。


 急いで平野を走って抜けると次は峡谷だった。さらに抜けると森、砂漠、雪山、荒れ地と色々な場所に移動する。


 どうなってるんだろうか。砂漠を抜けると雪山なんてあり得るのか?


 いやそんなこと言い出したら怪獣があり得ないし考えてもムダか。


 俺は走り続けた。どれくらい走ったかも分からないし、何度か遺跡みたいな場所に入って階段を登ったりした。


 久々に人の雰囲気のある遺跡は嬉しかったが、誰もいなかったので先に進んだ。


 そうして走り続けている内に気づいたのは、なんとなく怪獣たちの気配が弱くなってきていることだ。大きさは変わらずビル並みなのだが、何故かそこまで脅威に感じなかった。


 なんなら勝てそうだとか頭おかしいことを考え出している。アホかな?


(相手は超巨大怪獣だぞ? 我ながら意味不明過ぎるな……)


 さらに走り続けた。もうこうなったら死ぬまで進んで、人を探し続けようかと思い始めた矢先だ。


 平野を走っている最中に、遠くで巨大な鬼とナニカが戦っているのが見えた。


 怪獣同士が戦っているのはわりと見る光景だ。だが今回は違っている。


「ロボット……?」


 巨大な赤い鬼と戦っているのは、巨大な西洋鎧のような人型たち。手には銃と盾をお持っていて、明らかに金属で造られている装甲。


 関節部は明らかに機械じみた仕掛けになっている。


 ロボットだ。あれはどう見てもロボットにしか見えない。三機のロボットが巨大な鬼と戦っている……!


(え? あ、あんな巨大ロボットが動いてる!? は? い、いや落ち着け! なんにしてもあれは……ってヤバイ!)


 オーガがロボットの一機の首を掴んで持ち上げている。このままではあの三機のロボットがやられてしまう!


 俺は必死に駆けていた。


 もうここで彼らを逃したら死ぬ運命なのだと思うと、いくらでも力がみなぎって来る。あんな弱そうな鬼に、俺の最後の希望をへし折られてたまるものかよ!


 身体が燃えるように熱い。まるでなにかに突き動かされるように足が動いている。


 筋肉がちぎれるような感覚に襲われるが、無視してそのまま赤い鬼に突撃する。まるで今ならなんでも出来そうだ。


 地面を蹴り上げて飛ぶと鬼の顔の高さまで到達した。そのまま鬼の顔面目掛けて回し蹴りを喰らわせると、鬼の首がちぎれて吹っ飛んでいく。


「ざまあみやがれ鬼野郎がっ!」


 思わず叫んでいた。散々苦渋を舐めされられた怪獣どもに、一矢報いたことが死ぬほど嬉しい。


 そして華麗に着地して息を吐く。


 ん? 冷静に考えるとなんで俺は怪獣を蹴り飛ばしてるんだ?


 というか足めちゃくちゃ痛いし、というか頭がフラフラしてヤバ……。


『ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?』

『なんで人間が生身でこんなところに!? 迷宮魔導機ダンジョンモビルが撃破されたのか!?』

『いま、オーガを蹴り殺したわよね!?』


 ロボットたちから人の声が聞こえる。


 すごく久々に聞いた他人の言葉に安心して、俺は満足して目を閉じた。



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少し展開がゆっくりですが、よろしくお願いいたします。

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