第35話 賞賛


 俺の勝利が確定した後、周囲の迷宮魔導機ダンジョンモビルたちから声が聞こえてくる。


『すげぇ! マジで生身で迷宮魔導機ダンジョンモビルを倒しやがった!』

『俺は最初からあの映像は本当で、あいつは生身で強いと思ってたぜ! 本当だぞ!』


 どうやら俺が褒められているようだ。ちょっと気恥ずかしいが嬉しさもある。


『あいつは化け物だ!』

『なんて恐ろしい怪物なんだ!』

『生身の怪物だ!』


 ……いや褒められてるというより悪口な気がするな。


 すると氷室さんの乗った銀色の迷宮魔導機ダンジョンモビルが俺に近づいてきた。


『綾人さん、お見事でした。無事に勝ててなによりです。審判をしたかいがあったというものです』


 審判……? ……あ、そういえば氷室さんって審判だったな!?


 いっさい口を挟んでこないから忘れてた。そもそも審判としての仕事なんて、最初の試合開始宣言しかしてなかったよな?


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、氷室さんはさらに話し続ける。


『綾人さんのおかげで面倒ごとが色々片付きます。これから忙しくなりそうです。まあそろそろ定時なので今日は勤務終了ですが』

「これだけ色々あったのに定時で帰るんですか!?」


 流石に驚きだ。スサノオも死んでるわけだし、流石に今日は残業確定じゃないのか?


 すると氷室さんは軽く笑いながら告げて来る。


『スサノオの死体はもう見つかりました。死因も迷宮決闘ダンジョンデュエルですから特に問題もありません。魔物が大勢集まった時は流石に覚悟を決めましたが、綾人さんが追い払ってくださいましたからね』

「事件にはならないのですか?」

『これくらいはダンジョンなら日常茶飯事ですよ。この程度で残業していたら私は自宅に帰れません。というかあんな奴のせいで残業などゴメンです』


 まあ確かにスサノオは決闘で死んだようなものだし、魔物も俺の魔力に怯えて逃げ散っていった。


 そう考えると氷室さんが特急で対応すべき案件はない……のか? いやこの人のことだから、本当は今日対応すべきだけど明日に回してるだけかも。


 ……まあいいか。氷室さんのことで俺には関係ないし。


『ところで綾人さん。立花さんとはあれからどうですか? 彼女は大人しくしてるでしょうか?』

「立花ですか? 特に変わりなく、過激に動いてますね」


 今回のスサノオの件も、立花が挑発して起こしたみたいなものだ。


 立花はいつも積極的に動くし、自分の利益のために行動している。むしろ初対面から大人しかったことがない気がする。


『そうですか。変わりがないならよかったです』

「過激に動いてるのはいいのですか?」

『いつものことなので』


 どうやら氷室さんの中でも立花は過激派のようだ。


 事実だから仕方のないことではあるし、俺は立花の積極性には助けられてるけどな。


 それに容姿が綺麗なのもあってたまに見とれてしまう。あんな美少女が俺を手伝ってくれるなんてありがたすぎる。


「立花にはすごく感謝してますよ。彼女に頼まれたら大抵のことはやろうと思ってます」

『なるほど。本人には言わないことをおススメしますね』

「実験体にされそうですからね」


 立花なら嬉々として人体実験とかしそうだもんな。


 彼女には恩義があるとは言えども、流石にそれはちょっと勘弁して欲しいところだ。


『そういうことにしておきましょう。それでこの後の流れですが、明日は国際ダンジョン支部に来ていただけますか? いちおうは死人が出ましたので、名目上は任意の事情聴取をする必要もありますので』

「名目上なんですか」

迷宮決闘ダンジョンデュエルの結果であり、しかもスサノオはダンジョン内を生身で走るというバカをやったので。あんなの自殺と同義です』

「それだと俺も自殺してることになるんですが」

『綾人さんは例外ですね』


 そっかー。ダンジョンを生身で走り回るのって自殺と同義だったのかー。


 じゃあ俺は自殺者として広まってたってことか? なんて不本意な。


『ではそろそろ定時なので帰ります。綾人さんもお気をつけて』


 そう言い残して銀色の迷宮魔導機ダンジョンモビルは去っていく。相変わらず氷室さんはブレないなあ。


 ブレなさに少し感心していると、マクスウェルの声が聞こえて来た。


『マスター。ネットで今回の決闘の件が拡散されています』

「そうなのか。まあ今となってはどうでもいいな」


 元々はスサノオを激高させて追い詰めるために、ネットで話題になるように仕向けたのだ。


 でも肝心のスサノオがアッサリと事故死(?)してしまったので、追い詰める必要もなくなってしまっていた。


「しかしあいつはなんでダンジョン内を走るなんてしたんだろうな。自殺と呼ばれてるくらいなのだから、冷静に考えれば危ないと分かるはずなのに」

『マスターが恐ろしかったからですよ。自分の乗機をジャイアントスイングされたらそうもなります。ちなみにコクピットハッチを引きはがしたところは、完全にホラーの映像でしたよ』


 言われてみれば確かにそうか。


 魔物を追い払うのに必死で考えが及ばなかったが、スサノオ視点からすれば怖かったのだろう。


 以前にアルニちゃんを助ける時も同じようなことしたけど、ものすごく怯えられていたもんなあ。


 そんなことを考えていると、空中ディスプレイが表示されて立花の顔が映った。


『綾人、そろそろ帰りましょう。ここにいても仕方ないし、夕食でも食べに行きましょうか』

「あー、そうだな」

 

 確かにこれ以上ここにいても、周囲の迷宮魔導機ダンジョンモビルたちから注目を浴び続けるだけだ。


『おい! 生身の悪魔が帰るみたいだぞ! 道を開けろ!』

『生体生身! よくやってくれた! スサノオを倒したお前は英雄だ!』

『な、ま、み! な、ま、み!』

「……ええい! 生身生身うるさい! 俺はユッケや刺身の類じゃねぇよ!?」


 俺は立花のバロネットのコクピットに乗り込んで、この場から離れていくのだった。


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