第20話 お金を稼がないとね
~昼 初心捨ての岩山~
俺は今日も立花のバロネットに乗せてもらって、ゴーレムの出てくる岩山に潜っていた。
「オラオラオラァ! 逃がすかよ
前と同じようにビームガトリング改でゴーレムの右足を破壊して、片足立ちになったゴーレム君の両肩を砕き、最後に左足を壊して倒す。
なんというかゴーレムの行動ってワンパターンというか、個体差がない気がする。これまでの奴は全部、倒し方が全部同じだし。
「そういえばゴーレムって生きてるのか?」
『不明です。学者によって生命体か機械のような存在で説が分かれています。論文がありますが読みませんよね?』
「もちろん」
学者の論文は長くて難しいので素人の俺にはしんどい。あれは専門知識のある人間が読まないと無理だろ。
『論文もちゃんと読めば面白いけれどね。あ、そうそう。私もいずれ貴方の論文を書いていいかしら?』
少し離れた場所にいるバロネットから、そんな謎の言葉が放たれた。
「……なんじゃそりゃ」
『言った通りの意味よ。貴方の謎の力について、私が研究したことを発表したいの。どうしてもダメと言うならやめるけど』
「まあ面倒見てもらってるし、それくらいならいいけどさ」
自分が論文の題材にされるのは気恥ずかしいが、お世話になっている立花ならそれくらいはいいかな。
というかこういったところで恩を返していかないと、どんどん負債が溜まっていく気がする。
『ありがとう。貴方は話が早くて助かるわ』
「俺も立花は分かりやすくて助かるよ」
立花の言葉は基本的に直球的だ。歯に衣着せぬ言動は人によっては嫌がられるが、俺としては話が早いので嫌いじゃない。
まあ彼女が俺を親身に面倒見てくれているのも大きいけど。
『……そう。嫌われてないなら何よりね。それより向こうにゴーレムがいるわよ』
「逃がすかっ!」
そうして俺は今日もゴーレムを七体狩った後、バロネットの肩に乗った。
「今日はそろそろ終わりかな? もうゴーレムが見つからないし。というか今さらなんだけどこんなに短期間でゴーレムを狩ってていいのか? 乱獲とかで怒られない?」
漁業とかで獲りすぎて問題になってたのを思い出す。
一日で七体のゴーレムを狩ってたら、一年で二千体以上が消える計算になる。流石に生態系とか大丈夫かと思ってしまうわけで。
『そうね。他の探索者から文句を言われても面白くないし、明日はゴーレム以外の魔物を狩りましょうか。』
「他の魔物というとオーガか?」
『オーガでいいのかしら。一体につき二十万円にしかならないわよ。ゴーレムという金づるを知った後で、半額以下のオーガ目当てでいいの?』
「そ、それは……」
オーガは一体につき二十万円ほど儲かる。本来なら破格どころの騒ぎじゃないのに、その倍以上のゴーレムを知ってしまったら安く思えてしまうのだ。
人間とはなんて業の深い生物なのだろうか。
汗水流して働いた一か月の給料がオーガ一体で稼げて、ゴーレムならさらにその倍だからなあ。なんてすごいんだろうか。
『マスターはオーガでは満足できない身体になってしまいましたね』
『それと念のために言っておくけど、普通の探索者は貴方ほど儲からないわよ。本来なら機体の整備や修理費、燃料費、機体ドックレンタルなどの経費が必要だもの』
「色々とかかるなあ」
生身でダンジョンに潜るのは実はだいぶ気楽かもしれない。
少なくとも金銭面的な意味においては、生身の方が百倍くらいは楽なのだろう。
そんなことを考えていると、ここから少し遠く、ダンジョン都市付近で
だが様子がおかしい。向かい合って銃を打ち合っている気がする。
「ん? なんか遠くで
『あれは
『戦闘訓練として行われることもあれば、報酬の分け前の争いで文字通りの決闘になることもありますね。どちらも模擬弾の使用が義務づけられていますが』
立花の言葉にマクスウェルが付け加えてくれる。
なるほど戦闘訓練か。確かに魔物と戦えば命を落とす危険もあるので、訓練は必須だろう。
「ん? 俺は戦闘訓練とかなかったような」
『不要と判断したわ』
ズバッと言い切る立花。
「どういう理屈で不要と判断したんだよ……」
『貴方の身体スペックを
バロネットの丈夫さが分からないと思っていると、立花はさらに話を続ける。
『私のバロネットは硬さ重視の機体よ。なので装甲値は
『マスターの装甲値や機動性は、ロクな装備もつけてないのに機体基準で高水準です。なのにサイズは小さいと反則級です』
「なんとなくすごいのは分かったけど……」
『マスターはそもそも普通の機体サイズでも、高機動のため攻撃がなかなか当たりません。なのに人間サイズなので攻撃を当てるのが困難です。その上で当たっても重装甲機体くらい硬いので』
『蚊に例えるなら、刺されたら終わりの毒を持っていて超高速で飛び回り、かつ叩いても死なないみたいなものね』
「チートじゃん」
思ったより俺が強かった件について。
『そういうわけだからあの時点でオーガ程度なら危険はないと判断したわ。じゃあ次に倒したい魔物だけれど……』
『おや? マスター。氷室様からメールが届いております』
立花が言い終える前にマクスウェルの声が横入りして、空中ディスプレイに文面が表示される。
――明日ですが、よろしければ有馬さんを連れてダンジョンに潜ってもらえませんか?
『氷室は何の用事かしら。どうせ面倒ごとでしょうけど』
「有馬さんを連れてダンジョンに潜らないかって」
有馬さん、死にそうな目に合ったのにすぐに潜るのか。
『念のため、有馬さんに直接確認したほうがいいわね。連絡してみたら?』
「そうだな。マクスウェル、頼めるか?」
『了解です』
さっそく目の前に通話用の空中ディスプレイが表示されて、すぐに有馬さんの顔が写った。
『有馬です。神崎さん、こんにちは!』
「こんにちは。ちょっと氷室さんから連絡が来たんだけど、もうダンジョンに潜って大丈夫?」
これは確認しておかないとな。なにせダンジョンは危険もあるのだから、いざ出撃して怖くて動けなかったら命の危険もある。
だが有馬さんは首を横に振った。
『大丈夫です。私が潜るわけじゃ……』
「……はい?」
『あ、い、いえなんでもありません! 大丈夫です! 明日、楽しみにしていますね!』
すごく元気そうに返事してくる有馬さん。さっきの言葉が気になるが言い間違いとかだろうか?
そうして少し話した後に有馬さんとの通話は終わった。
すると立花が小さくため息をつく。
『あいつの口車に乗るは嫌だけど、ちょうどいいわね。次の魔物は厄介だから人手がある方がいいわ。なにせ……』
バロネットが空へと手を伸ばした。すると遠くの空に鳥が見える。
いや違う。よく見れば四足歩行のシルエットに翼が生えている。
『次に倒したいのはヒポグリフ。空を飛べる魔物だもの。そろそろ貴方も対空の練習をしないとね』
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