第31話 蹴る殴る


 非常に困った事態になった。武器が使えない。


 ヒートサーベルに魔力を流してみるがやはり刀身は光らない。


 弱ったな。俺が機体を蹴ってしまうと、破壊力が強すぎて爆発させてしまう恐れがあるのに。


『俺をバカにしたてめぇは許さねぇ。嬲り殺しにしてやるよ! 銃で撃ち殺すか、踏みつぶすか! 殺し方に悩むねえ!』


 スサノオの乗機であるタナトス・ヘルが、ゆっくりと俺に向けて歩いてくる。


 すでに勝利を確信しているような雰囲気を出してるな。まあ武器を封じたとなればそう思って当然か。


 どうしようか悩んでいると、空中ディスプレイが出現して立花の顔が映った。


『武器に細工されてしまったわね。私たちは殺さないように手加減するはずだったのに、向こうから死にに来たなら仕方ないわね』


 淡々と告げて来る立花。明らかにこの状況を予想していた態度だ。


「おい立花。お前、さっきの機体が細工したの分かってただろ」


 立花は迷宮魔導機ダンジョンモビル関係では天才だ。そんな彼女が武器に細工をされて分からなかったとは思えない。


 すると立花はクスリと笑った。


『当然じゃない。さっきも言ったけど私たちは刃を潰した剣で戦おうとしたの。でも向こうがわざわざ真剣に差し替えて来たなら、ちゃんと心意気に答えるべきと思うわ。少なくともこちらが気兼ねする必要はないわね』

「まあそりゃそうだが」

『マスオは生かしておいていいこともないもの』


 スサノオの悪行については把握している。


 ヒポグリフをおびき寄せて他の探索者を殺そうとする人間だ。他にも色々と悪いことしてるし、そんな奴相手には手加減なんて不要だろう。


『積極的に殺す必要はないけれど、そんな奴のために手加減する意味はないと思わない?』


 立花の言葉に頷く。よしこいつは死ぬほどボコろう。


 結果として死んだら知らん。手加減用の武器に細工したスサノオが悪いのだから。


 俺はタナトス・ヘルに向けて走って一気に距離を詰めた。


『ん? 武器もないのにどうするつもりだぁ? ヤケになったなら潰してやるよ!』


 スサノオの舐めた声が周囲に響く中、俺はジャンプしてタナトス・ヘルの右腕に飛びこむ。


『バカがっ! ハエ叩きの時間だぁ!』

 

 タナトス・ヘルは巨大な右腕で振りかぶって、俺を叩きつけようとしてきた。


 スサノオからすれば後は俺を嬲るだけと考えているのだろう。だがそれは違う。


 タナトス・ヘルの右腕の一撃に対して、俺も右手のパンチで迎撃する。


 あまりにも違う大きさの拳がぶつかり合って、


 ――巨大ロボットであるタナトス・ヘルの右手がぶっ壊れた。


『……は?』


 タナトス・ヘルの頭部は、なくなった右手を見て唖然としている。


 あいつからすれば意味が分からないのだろう。生身の俺と巨大ロボが拳でぶつかり合って、巨大ロボ側がぶっ壊れるのが。


 だが流石に素人ではないようで、また俺に頭部カメラを向けて来た。


『て、てめぇ! なにをしやがった! 俺の機体に爆弾を仕掛けてやがったのか! この卑怯者がっ!』


 お前が言うなの極みのようだセリフだ。そもそもなんで最初に出てくる発想が細工なのか。


 ……ああ、自分が常に細工を仕掛ける側だからか。やっぱりこいつクズだな!


「自分が卑怯者だからって他人まで一緒にするな。俺はただ殴っただけだ」

『ふざけるんじゃねえ! そんなわけがあるか! 生身で機体を破壊できるわけがないだろうがっ! 卑怯者はこれで殺してやるっ!』


 タナトス・ヘルの左手が俺に向けられると、五本の指から銃弾が発射された。


 当たると痛そうなので地面を飛んで回避する。


『避けるんじゃねえよ! クソがっ! ならこれでどうだっ!』


 スサノオの叫び声と同時に、タナトス・ヘルの姿が風景に溶けるように消えていく。そして見えなくなってしまった。


『マスター、あれが電磁迷彩ですね』


 マクスウェルが解説してくれるが、周囲を見回してもタナトス・ヘルは見つからない。すごいな電磁迷彩。


「どうすればいいんだ? これだと面倒なんだが」

『電磁迷彩を対策する方法は二つです。まず一つ目は姿を消している敵のいる場所に飽和攻撃をすることです。マスターの武器をいつものように爆発させれば、周囲一帯全て吹き飛ばせます』

「それしたら周囲のギャラリーも危ないのでは?」


 俺の武器爆発は広範囲攻撃のため、周囲に他の人がいる状況では使えない。


 そもそも武器に細工されているので爆発させられるのかも不明だが。


『でしたら二つ目。この超高性能AIである私が電磁迷彩を感知いたしましょう。それならばギャラリーにも危険はありません』

「いや最初からそっちの方法でいけよ」


 思わずマクスウェルに突っ込んでしまった。


 むしろ一つ目の方法を採用する理由がなさすぎるだろ。採用するのは爆弾魔とシリアルキラーとスサノオくらいだろ。


『私は超高性能AIです。出来ればここぞの強敵相手にその真価を発揮したかったのですが。あんな小物相手ではなくて』


 悲報。スサノオ君、AIにすら小物と言われる。


「なんでもいいから感知してくれ」

『承知しました。では……敵機は北方向にいます』

「……北方向ってどっちだよ」


 このダンジョン内で方角とか分かるわけがない。


『承知しました。ではお箸を持つ手の方の一キロ先にいます』

「右手って言えよ……まあいいや」


 俺は足元の土を拾って右方向に向けて投げつける。


 すると土の散弾のダメージのせいか、タナトス・ヘルの姿が浮かび上がってきた。


『敵機の装甲表面が損傷して、電磁迷彩の維持が不可能になったようです』


 マクスウェルが現状の解説を行ってくれる。


 俺としては電磁迷彩に土がついてくれたら、相手の姿が朧気に分かるようになるかな程度だったがラッキーだ。


 それとタナトス・ヘルはいつの間にかバズーカ砲を持っていた。もしかして最初から持ってたけど、電磁迷彩でバズーカ砲だけ見えなくしていたのか?


『はあっ!? ふ、ふざけんな!? ふざけんなよお前ぇ!?』


 タナトス・ヘルがバズーカを放ってきたので、走って射線上から退避する。俺のかなり後方の地面が爆発した。


『あ、当たらねぇ!? そんな、そんなバカなことがあるかよ!? クソがぁ!』


 スサノオが吠えてきた。なんか弱い者いじめしてる気分になってきたな。


 よしそろそろ勝負をつけるか。



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