おっさん、王様に全部ばれる


 なぜ手柄を立てたわたしが殺されなければならない。

 それも尊敬しているナナシに。


 混乱しながらわたしは聞き耳を立てる。


 そういえば、ナナシにはレコード妖精がついていなかった。

 まぁ、いたらこんな話できないか。


「隣に座っていた令嬢然としていた女がテルメアだ。聞けばお互い、並々ならぬ関係だそうではないか」


 ?

 どういう意味だろう。


 ナナシがかすかに眉をひそめる。


 わたしとナナシの仲は……。ナナシにとっては仲というほどのものでもないだろう。わたしが一方的に後輩を名乗る異常者なだけだ。


「お前の命を狙う女を仕留めるのだ。何も不思議なことはあるまい」

「初耳です。俺は命を狙われていたのですか?」


 今度はグランツ王が「えっ ちがうの?」という顔をした。

 なにこれ。ぐだぐだやないかーい!


「まったく身に覚えがないのですが、グランツ王はテルメアが邪魔だから消して欲しいとおっしゃられていますか?」


 どうやら何か誤解があったらしい。

 雰囲気が台無しだ。


「まぁ、そういうことに。なる。いや、すこし考えさせてくれ」


 おそらく、グランツ王は自分の事情をできるだけ話さずにうまいことナナシをわたしにぶつけようとしていたのだろう。


 わたしを殺したい理由はよくわからないけど。用済みだから消すくらいの話なんだろうか。ひどいなぁ。


 でも、そういうのはバレたらおしまいだよね。


「すみませんが殺人はお引き受けできません。今日は帰らせていただきます」

「あ、明日の配信を楽しみにしていてください」


「ちょ。ま、待て!!」


 暗に暴露すると言われて王が焦る。

 そうか、レコード妖精がいなくても録音している可能性はあるのか。


 なんだろう。

 力関係が変だ。


 ナナシはわざと話の腰を折り続けているように見える。


 王に逆らえば雑に不敬罪とかでっちあげられて、処される可能性もあるのに。

 ていうか、それが怖かった食事会にきたんじゃないの?


「いや、待て。王家の庇護は欲しくないか。国が身元を保証すればもう二度とダンジョンなんぞで生活せずに済むぞ。安寧が欲しくはないのか?」


「不要です」


 取り付く島もない。

 すでに興味もなさそうだった。


「ライオット、お前の秘密を知っているという事は。私はお前を破滅させることもできるのだぞ! その態度は何だ! それが王に対する態度か!」

 

 激高する王を前にして、ナナシはいつもの死んだような目のままだ。

 

「グランツ王は変わられてしまった。かつては胸襟を開いて、二人で酒を酌み交わしたというのに。このざまはなんです」


 普通、王様と二人きりになったらプレッシャーを感じると思うんだけど。ナナシはいつも通り「無」のままだった。


 先ほど貴族の前でお世辞を言っていたのはなんだったのか。

 忖度もなく続ける。


「自分が知りえる情報こそが正しいと思い込み、誤解したまま強引に話を進めて。うまくいかなかったら脅しつける? 二人きりで話したいと言うから来てみれば」


 ナナシが無造作に空間を蹴とばすと、フードをかぶった男が倒れた。

 透過マントか、あれ高いんだよね。


「護衛を5人も忍ばせている」


 ナナシが視線を向けるとフード男たちが透過魔法を解除した。ナイフを構え、臨戦態勢になる。透過解除は同士討ち対策だろう。


「断れば生かして返す気がないと言っているようなものだ」


 王が玉座に深く座りなおした。


「わからんな。そこまでわかっていてなぜ断る。あ。今、こちらにつけば先ほどの侮辱は水に流……」


 言葉に符丁が含まれていたのだろう。


 王の言葉が終わる前にフード男たちが風のように走り、ナナシに襲い掛かる。

 ナナシは死んだような目のまま男たちの間をすり抜ける。


 一瞬で奪ったナイフを手に一直線に玉座へと走り、王の首筋に当てた。


 とんでもない早業だった。

 

「や、やめろ。ライオット。何が望みだ……何を考えている……」


 光のない瞳が答える。


「グランツ王、あなたがテルメアを殺したいのは魔王暗殺に成功した女が怖いからだ。いつその刃が自分の首に当てられるか怖くてしかたないからだ」


 王が胸元にアミュレットに触れる。


「対妖精アミュレットで思考の流出を防いでも、人の口に戸は立てられない。おっと、この刃には毒が塗られているんだったか?」


 情報が盗まれていることに王は息をのんだ。


「秘密は暴かれる、嘘はばれる、破滅は必ずやってくる」

「あなたが俺を庇護しようと、それは変わらない。だから無意味だ」

 

 呪詛のような言葉に抗うように、グランツ王は言った。


「こ、殺されるかもしれないのだ。先手を打って何が悪い……! あの目を、あの目を見てまともだと言えるのか! 誰が信じられる!!」


 うへぇ、傷つくなぁ。

 わたしがこんな目になったのは王様の任務をこなしたからなのに。


「殺されるかもしれないから殺す?」


 ナナシは心底不思議そうにそう言った。


「それで言えば。俺などいつ誰が俺の過去を思い出すかわからん。いじわるな王が特に理由もなく破滅させようとするかもしれないし、俺の心を読んだ妖精の気が変わるかもしれん。いつ終わってもおかしくないが、人生とはそういうものだ」


 王の瞳が迷う。

 ナナシのことがよくわからなくなったのだろう。


 わたしもよくわからない。

 でも、そこがカッコイイと思う。


「いいか、王よ」


 あきれた大人が、小さな子供に教えて聞かすように続ける。


「たとえばだ。俺が秘密がバレそうになる度に殺人に手を染めてみろ。そうなればまずお前、グランツ王から殺さなければならないし。この話を聞いたフードの男たちも殺さなければならない。秘密を知っているかもしれない妖精も殺さなければならないし。過去に会ったギルドメンバーなど皆殺しだ。だが、そんなことをしてうまくいくと思うか?」


 閉口する王に続ける。


「俺がいまだ無事でいるのは、心優しい仲間が俺の身を案じて黙っていてくれているからだ。暴露すれば殺せるとわかっていても、そうしないでいてくれているからだ。俺はただ人々に生かされているに過ぎない」


 一見、熱を帯びそうな言葉なのに、その声は妙に冷めていた。


 なんでこんな当たり前のことを説明してやらなきゃならないのだとでも言うような声だ。


「王の仕事も同じだろ。しっかりしろ」


 ナナシはグランツ王の肩をポンと叩くと、ナイフを適当に放り投げる。

 完全に立場が反転していた。

 

「俺がやらなくても護衛のこいつらが殺しにかかればお前は死ぬ。なぜそうなっていないかと言えば、お前にはまだ人徳があるからだ。それを失えば王は死ぬ。すごく雑な理由で、なんか偉そうだからとかで十分に殺される。だから、これ以上失うな。わかったな?」


 ナナシが丸腰のまま武装したフード男たちの前に進む。

 フード男たちが貴人に対してするような所作で左右に分かれる。


 ナナシは平然と扉の鍵を開けて何事もなかったかのように出ていった。

 王は最後まで何も言えなかった。


 

称号:称号:追放されしもの(アハト)EX【装備中】

インフルエンサーA、魔力逸脱者(測定不能)

スキル:生存自活(チュラル・ビースト・ワン)EX、チャーム(魅了魔法)

現在確認できている盗品

オーク語(低)、怪力B、見切りB+、掘削魔法C、解毒(古式)、ファイアアロー(槍)、意思伝達魔法(妖精)思考盗聴魔法(改造)



NEW!!


光のカリスマB++


人の上に立ち従える力。

光のカリスマは主に正しさによって他者を従わせる。


その性質上、相手が正しくあろうとしているとよく効く他、相手の間違いを正した瞬間においてはAランクのカリスマを超える効果を発揮する。


グランツ王はああ見えて根が真面目なのですごく効いた。


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