【コミック化決定!】ダンジョンに住んでたおっさん配信者になる~職業適性『盗賊SSS』のせいで社会から追放されてたけど、いつの間にか最強になっていたので周囲が放ってくれない件
間野 ハルヒコ
おっさん、追放される
「あなたの職業適性は『盗賊SSS』です」
「は? ギルド長の俺が、盗賊?」
25歳の俺がかすれ声で困惑する。
盗賊というのは職業なのか?
ただの犯罪者では。
教会中に困惑が広がっていく。
適性を告げた司祭も動揺していた。
「で、では次の方」
「は、はい」
ガキの頃から冒険者として働いて、功績を認められ、遂にはギルド長まで上り詰めた俺が、盗賊?
何かの間違いだろ。
「あなたの職業適性は剣聖です」
「やった! 俺、剣の道に進むよ!」
背後で楽し気な声が響く。
国民一斉職業適性診断なんてグランツ王国と聖教会が勝手に始めたことだ。
どれだけ信憑性があるかもわからん。
俺は俺の仕事をするだけだ。
そう思っていた。
「ギルド長、あなたに盗みの嫌疑がかかっています」
数日後、王都の冒険者ギルドにて。
副ギルド長のランピックが几帳面に眼鏡をくいっとして言った。
「ばかな、俺が盗みなどするわけが」
「最近、ギルドの金庫から金が盗まれておりまして。鍵を持っているのは私とあなただけ。そして、あなたは盗賊だそうじゃないですか」
ランピックはネチネチと続ける。
「私でないなら、あなたが犯人ですよね」
「言いがかりだ。お前が犯人である可能性も残されているだろうが」
おおこわっと。
わざとらしく身体を抱き寄せる。
こういうところがいちいちムカつくんだよな。
「職業適性・聖者である私が! そのようなことをするわけがないじゃないですか!」
「それとも、ギルド長は国王と枢機卿の意向が間違っていると。はは、反逆をされるおつもりですか? 王国と教会に? それは名案だ!」
王も枢機卿も神ではない。
だが、権威を神格化しているやつらにはそれがわからない。
ランピックがやっているのはただ話のすり替えなのだが……。
「言われてみればそうかもしれねえ」
「俺も確かに剣術より槍の方が得意だってわかったしな」
「適性自体はほんとだし、ギルド長ももしかして」
問題なのはこの程度の言葉に感銘を受けてしまうアホ冒険者が多いということだ。
そうでなければこいつは副ギルド長になれていない。
「ギルド長! いえ、卑しい盗賊よ! あなたを冒険者ギルドから追放します!!」
なん、だと。
俺なしでギルドがうまくやっていけると本気で思っているのか。
後継者を育てねばと思っていたところだったのに。
「口うるせえギルド長がやっといなくなったぜ!」
酔ってひゃっはーしている銀等級の冒険者が叫ぶ。
「もちろん、きつすぎる規制は緩和させていただきます!」
「報奨金の額も増やしてくれるのか!?」
「もっちろん! これまでの悪政はすべてギルド長のせいですので、これを期にこの不詳ランピックが改革をば!」
「やったー!!」
「ランピック様最高!!」
人の気も知らねえで……!
俺を慕ってくれた冒険者もいたが、そういうやつらはみな出世するのでここにはいない。
やられた。
ちょうど味方がいない時期を狙われたのだ。
ランピックがここまでアホとは思わなかった。
「もう、いいか」
やるだけのことはしてきた。
その上で裏切られるならこちらから願い下げだ。
別の仕事をしてやるさ。
それから十年後、俺はダンジョン『動乱の洞』に籠っていた。
拾ってきた樽の中で酒をあおり、だらっとしている。
「もう、ねえのか……」
地獄だった。
職業適性『盗賊SSS』のせいで就職はおろか家すら借りられなくなったのだ。
仕事に就く際や宿に止まる際、適性確認魔法で審査をするのが慣例になったせいで、どこにいっても盗賊扱いされる。
誰が好き好んで犯罪者と働いたり、家に泊めたいと思うだろうか。
危険人物を事前に察知できると人々は喜んだが、困るのは俺だ。
何もしていないのに迫害される。
教会に訴えても「あくまで適性を開示しているだけで、あなたが罪を犯したかどうかには言及していません」との一点張り。
そりゃ事実そうなんだろうが、人はそうは思わない。
教会に都合のいい方便だ。
教会のシスターが汚らわしいものを見たような顔をする。
お前たちだって事前に犯罪者を封殺できるなら、それでいいと思ってるんだろ?
じゃあこっちだってやってやるよ。
どうしようもない怒りに駆られ、俺は盗賊団の門戸を叩いた。
お前たちが俺を盗賊にするのなら、なってやろうじゃないか。
「いや、あんた冒険者ギルドのギルド長でしょ。なんでずっと敵対してたやつらの長を雇わないとならないわけ? 潜入捜査か?」
門前払いだった。
善の道も悪の道も閉ざされ、俺に寄る辺はなくなった。
究極の追放。
かつてアハト刑と呼ばれた社会からの追放である。
称号獲得:追放されしもの(アハト)EX
社会性動物である人間が常に受容している他者からの守り。
それが失われる称号。
およそあらゆる人間社会からの迫害を受け、仕事はおろか寝床すらままならない。
物の売り買いにも制限がかかり、出店でちょっとしたものを売買することはできるが一定以上の額の取引は拒絶される。
この称号を得た者は死ぬと噂される負の称号。
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