第6話

「ナナシさんの映像に影響されて、冒険者さんが炭鉱の仕事をするようになったことでドワーフのみなさんから報奨金が出ています。みなさん感謝されてましたよ」


 どうやら思惑通りいったようだ。

 ギルドの受付嬢がそう案内して金を出してくる。


「ああ、そいつはフェリが来た時にでも渡しておいてくれ。ギルドと登録しているのはフェリたちだからな」


 受付嬢が少し困り顔になって「わかりました」と言う。

 俺が冒険者登録をしないからだろう。


 それでもギルド側が不信に思わないのは、俺が初手でランピックギルド長をボコ殴りにしているからだ。


 そうしたことで、ランピックに対して腹を立てているから冒険者になりたくないのではないか、思われている。


「あっあ~~~ナナシさん! これはこれは、本当にいつもありがとうございます~~~!」


 そうこうしているとランピックが異様な腰の低さで現れた。

 茶を出し、お茶菓子を出し、手をすりゴマをするランピック。


 どうにかして俺の機嫌をとり、冒険者登録までこぎつけたいランピックはありとあらゆる手で俺を優遇しようとしてくる。


 このような状況はランピックを初手で殴っていないと起こらない。

 まぁ、これはこれでウザいものではあるんだが。


 さて。


「フェリたちのランクはどうなっている?」

「最近、黒曜にあがりました。異例の速度かと」


 始めて会った時は駆け出しの白磁級だったフェリたちも俺と行動を共にすることによって黒曜級に昇進した。


かなり早い昇進だ。


 だがこれから先、下級冒険者である白磁・黒曜・鉄鋼を超え中級の銅に至るには時間がかかる。


 俺としてはさっさと等級をあげてもらってより深いダンジョンに潜りたいところだが、フェリたちにとっていいことではないだろうな。


 実力がないのに等級だけあがると調子に乗って死亡率があがるものだ。


 育てるか、乗り換えるか。


 育てるのは時間がかかり。

 乗り換えは容易だ。


 考えるまでもなかったな。

 さっさと使い捨てるべきだろう。


 む、これはなんだ。

 配信画面の横に文字が流れているが。


「ああ、これは最近実装されたコメント機能ですよ。こうすれば視聴者の気持ちもわかってよいかと」


 なるほど。

 フィードバックは大切だ。


 ランピックもたまには役に立つことをする。


 どれどれ。

 なんだ、マジか。


 


「えっ、いいんですか?」


「ああ、これから先のことを考えるとお前たちには強くなってもらう必要がある。そのためにも協力は惜しまないつもりだ」


 やったー!

 と喜ぶフェリとアリアとタルト。


 最近、俺がフェリたちを引きずりまわしているばかりでフェリたちが冒険者らしい活躍ができたかというと皆無だからな。


 これを期に自信をつけてもらう必要がある。


「すごく嬉しいですけど。なぜ……ですか?」


 魔法使いのタルトが自信なさげに言う。

 別に自分たちでなくてもいいということはタルト自身がよくわかっているのだろう。


「これまで、お前たちには世話になってきたからな。これはその礼だと思ってくれ」


 タルトの表情がぱぁっと明るくなっているが、これは嘘だ。

 むしろ、俺が世話をしてきていたと言える。


 だが……。


・タルトちゃんが魔法を使うところがもっと見たいです!


 昨日確認した動画にそのようなコメントがあった。

 タルトと名指しされている以上は、タルトでなければならないだろう。


「意外です。配信がうまくいくことしか考えていないのかと思ってました」

「ちょっとアリア!」


 僧侶のアリアの疑問はもっともだ。

 実際、お前たちのことはうまく利用できる駒くらいに考えていた。


 人生がかかっているのだ。

 配信を最重要に考えるのは当然だろう。


「誤解だ。お前たちのことを大切な仲間だと思っている。俺を信じてくれ」

「えっ。本当に……? そっか、疑って、すみませんでした」


 俺の死人のような目を見るとアリアは急にしおらしくなってうつむいた。


・アリアちゃんとフェリちゃんのかけあいをもっとください!


 このようなコメントがつくということは、アリアとフェリについても同様に外すことができない。厳密には外せば一定のファンを失う可能性がある。


 もっとも、それくらいの理由ならば別に乗り換えてもいいのだ。


 だが致命的だったのは、視聴者にとって俺の強さはすでに当たり前になりつつあるということだった。


 強いやつがただひたすらに強くすごいことをしている。

 一見面白そうに見えても、ドラマがなければ人は飽きてしまう。


 だから。


「ナナシもようやく私達の強さに気づいたか!」


 戦士のフェリが胸を張ってそんなことを言う。


 こんなことを言っているが、冒険者として活躍できていない日々に内心傷ついていたのだろう。だから、かけるべき言葉はこんなところだ。


「ああ、俺についてこられる者などそうはいない。これだけ強いお前たちを鍛えたら、どうなるか、俺もワクワクしている」


 俺の言葉で自尊心が満たされたフェリがにまりと笑う。


 そう、だから。

 お前たちの弱さが必要だ。


 駆け出し冒険者である弱いお前たちでなければならないだけだ。

 

 だが、そんなことは言わない。

 俺は優しいからな。


「強いよ。お前たちは。もっと強くなる」


 三人の背筋が伸びた。

 認められることで人は成長するのだ。


 気の弱いタルトに至っては泣いていた。


「ま、明日からな!」


 そう言って去る俺の死んだような目は虹彩だけが僅かに赤く光っている。


 魅了の魔法・チャーム。


 心を盗む盗賊の技が魔法に昇華されたものだ。

 この程度の人心掌握なら造作もない。




称号:インフルエンサーA【装備中】

称号:追放されしもの(アハト)EX


スキル:生存自活ナチュラル・ビースト・ワンEX


現在確認できている盗品


オーク語(低)、怪力(B)、見切り(B+)、掘削魔法(C)



スキル:チャーム(魅了魔法)NEW!!


人心を掌握する盗賊のスキルが魔法に昇華されたもの。

説得成功率に大きなボーナスが発生するが、発動には相手の目を目視する必要がある。


また、チャームを使用していることが露見した場合。効果は半減する。


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