タルト、アイシクルランス(柱)を放つ


“ドラゴン退治!?“

“5人パーティで? 正気か?“


 レッドドラゴンを相手にするのは珍しいのか、今日はいつもより閲覧者が多いな。

 いや、どうでもいいか。


「タルト、予定通りいけ!」


「あの、わたしずっと工房でアーティファクトを調整してたばかりで……」


 戦闘が久々だから自信がないと言いたいわけか。

 この期に及んでめんどうなやつだ。


「そんな言葉は聞きたくない」


「ふえっ」


 タルトが涙目になった。

 まずい。今、タルトに戦闘から離脱されると勝ち筋がなくなる。


 俺も焦りが出ているな。

 冷静になれ。


 最短で絆(ほだ)すぞ。


「タルト、お前は未知のアーティファクトをいくつ直してきた」


「それは、その」


 タルトが押し黙る。

 タルトが解析・修繕したアーティファクトは無数にある。数え切れるわけがない。


「あれだけ不可能を可能にしておいて、今更泣き言など言うな。どうせまたうまくいくに決まっている」


 俺が面倒そうにそう言うと、タルトの表情に覚悟が芽生えた。


 タルトの中ではアーティファクトの修繕技能と攻撃魔法に繋がりはないはずだが、そこは重視されない。


 「俺に嫌われたくない」という一点だけでタルトは戦えるからだ。

 

 タルトよ。


 その弱さと恐怖を振り絞って、前へ進め。


 進んでくれないと俺が死ぬことになるし、頼むぞ。


 指示を受けたタルトが馬車から身を乗り出し、杖を掲げた。

 おどおどして見えるが、動作自体は手早いものだ。


「アイシクルランス!!」


 杖の先に巨大な氷塊が出現、レッドドラゴンに向けて放たれる。


 ファイアランスではレッドドラゴンに効きが悪いため、弱点属性のアイシクルランスを選択させた。


“なんだあのアイシクルランス、馬車よりでかいぞ“

“ランスっていうか柱“

“アイシクルランス(柱)じゃん!“


 アイシクルランス(柱)がレッドドラゴンの後頭部に直撃。


 ギャオウウ!?

 突然の攻撃に驚き、空中でなんとか体勢を立て直そうとする。


 ズドォンと氷柱が地面に刺さった。

 もう一体は何が起こったのかわからず俺達を探しているがすぐには見つからない、馬車はドラゴンを中心に弧を描くように進んでいく。


 ちなみにタルトはというと自分が放ったアイシクルランスの威力に目を白黒させている。

 ここしばらく戦闘を行っていなかったのに魔法の威力が上昇していることに、驚いているのだろう。


 ここまでになるとは思っていなかったので俺も驚いているが、さも当然という顔をしておく。


「タルト、次だ!」


 俺の言葉に思考を委ね、タルトは二発目の魔法を放つ。


「アイシクルランス!!」


 空中で体勢を立て直したレッドドラゴンにさらに追撃。

 氷柱が再びレッドドラゴンに直撃する。


ズドォン。


“おかしいでしょ。なんなのあの威力“

“魔力量も増え過ぎじゃない? どうなってるの?“


「あの、なんか。魔法の威力が……」


 心配そうに呟くタルトの瞳の奥に、僅かな自信が見える。

 今だな。引きずり出すか。


「ああ、それがお前の実力だ。どんどん振るってもらうぞ!」


 タルトの目に光が灯る。

 精神の成長というのはタイミングを逃すと次が何年先になるかわからん。


 うじうじされても面倒だ。

 さっさと自信をつけてもらう。


「冒険者の間ではあまり知られていないことだが、魔法を上達させるだけならモンスターを倒す必要はないんだ」


“えっ、は?“

“ナナシ今何言った?“

“まじょパン:あー、それ言っちゃう?“

“ええええええ、冒険者否定ですか?“ 

 

 クロエが駆る馬車が、レッドドラゴンのファイアブレスを回避しながら続ける。

 背後に回り込まないと当たらんし、もう少し解説しておくか。


「魔力の上昇は純粋に魔法を使った回数。魔法の威力はその使い方による。だから、冒険で魔法を温存しがちな魔法使いは高レベルになるほど成長しにくい。前衛が強力だとここぞと言う時しか出番がなくなるからだ」


「つまり、それってアーティファクトの修理でも……上達できるってことですか」


 タルトの言葉に俺は頷く。


「アーティファクトの解析は魔法理論の熟達に、修理は魔力の形質変化や流れの理解に役立つ。上達しないわけがない」


 ただ、冒険者になるような魔法使いは冒険をしにきているので、このような迂遠な訓練はやりたがらない。


 魔術理論の理解は面倒だし、よくわからない機械をいじるために冒険者になったわけではないからだ。


 だから皆、ダンジョンに潜ってばかりだ。

 その結果、実力不足で死ぬのだから笑えない。


 これを期にダンジョンで見つけたアーティファクトを自力で解析するようになってくれ。


“タルトちゃんTUEEEEEEEEEEEEEEE!!“

“やれーーーーーーーーーーーーーー!!“

“ぶっ放せーーーーーーーーーーーー!!“


 ファイアブレスを回避してタルトが再びアイシクルランスを放つ。

 魔力量・威力・効率も上昇しているので、まだまだ息切れしない。


 冒険者が蔑ろにしがちな基礎ができているのだ。


 狙いはひたすら一体のみ、もう一体は無傷のままだ。

 こちらの動きに順応される前に一体倒しきり、敵の手数を減らしたい。


 これはゴーレム戦ではない。

 知性ある敵との戦いだからな。


「なんか、動きが変わったんだけど」


 戦闘経験の多いフェリがそう口にする。

 その直感は正しい。


 カチッカチッカチッと、口内の火打ち石を打ち鳴らしてダメージを負ったレッドドラゴンがブレスの準備をする。


 しかし、その首はレッドドラゴンの真下を向いていた。

 下からこちらへ、地面を舐めるようにブレスが放射される。


 馬車はレッドドラゴンに対してまっすぐ突っ込んでいるので、躱しようがない。

 ついにこちらの動きが読まれたのだ。

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