第7話

 俺たちは宿屋に集まっていた。


「じゃ、今日は魔力測定をしまーす」


 そう言って俺は魔力測定用の水晶を取り出した。

 ちなみに今日はレコード妖精は休みだ。


「配信しないんだ」


 フェリが少し驚いたように言う。

 まぁ確かに映えるだろうが。


「魔力量は個人情報だからな」


 秘匿しなければならないものでもないが、公開しなければならないものでもない。


 冒険者やってて魔力の多い少ないで迫害されることはないだろうが……まぁなんだ。俺にも思うところがあるんだよ。


「ナナシさんにも良心があったんですね」

「私達を金儲けの道具だと思ってたわけじゃないんだな!」


 最近、フェリとアリアが辛辣な気がする。

 実際に金儲けの道具だと認識しているので見透かされているのだろう。


 チャームの効果は一過性だし。

 こいつらは馬鹿ではないからな。


 重要なのはそれでもついてきてくれているということだ。

 そこについては感謝している。


 だから。


「じゃあまずフェリ、魔力測定器に手をかざせー」

「私、魔力ないんだけどなぁ」


 俺に「いーから」と言われ、しぶしぶ手をかざすフェリ。

 水晶玉に変化はない。


「ほら見ろ、何も起きないだろ!」


 ちょっと恥ずかしそうだ。

 確かに戦士に必ずしも魔力は必要とされないが。


 んー、本当に魔力ないのか?


「アリア、タルト。カーテン閉めてきてくれ」


「了解です」「承知……」


 うっすら暗くなった。

 もう一度やってみろ。


「はぁい」


 フェリがまたしぶしぶ手をかざすと、かすかに水晶玉が光った。


「私、魔力あったんだ」


 フェリが自分に魔力があると知らなかったのも無理はない。


 ギルドの魔力測定は基本的に日中行われるし、夜でもギルドの中でやるので明かりがあるため気づかれないことが多い。


 自分の魔力に自信がないものはわざわざ高い魔力測定器を買わないため、大抵一生気づかない。


「でも、こんなちびっとじゃ意味なくない?」


「いや? 魔力を大量に消費するヒール系や攻撃魔法はやめた方がいいだろうが、やりようはあるぞ」


「え、ってことは私も魔法使えるの!?」


 使える。

 その為の用意もある。


「手を出せ」


 俺は魔法陣の書かれた布をフェリの右手に巻き付ける。


「これは解毒魔法の補助具だ。この魔法陣に魔力を流せば解毒魔法が発動する。練習すれば自分の中で魔法陣をイメージするだけで解毒できるようになるぞ」


 緊急時のヒーラーは回復魔法を使うので手一杯になって状態異常対策まで手が回らなくなることがあるからな。


 僅かな魔力のやりくりを求められた際、前衛職が自分で解毒できればパーティの生存率は上昇する。


「へー、どうやって練習するの?」


 安心しろ。ちゃんと用意してある。

 俺は毒草を取り出して皿の上にのせた。


「さぁ、たんと食え」


 呆然とする三人。

 そして。


「この野郎ーー!!」

「あ! それで、それで今日は配信なしなんですね!」

「殺人未遂……」


 何を驚いているのかわからない。

 解毒の練習に毒を食うのはごく自然なことではないか。


 他人が強要すれば罪に問われるが、自分で食う分には自殺未遂でしかないので問題ない。


 まさか、俺の考えが古いのか? そんなばかな。

 ふっ、ありえないな。


「大丈夫だ。毒性が弱いものを厳選してある。ちゃんと解毒が発動すれば死なない」

「発動しなかったら?」


 ……。

 がんばれフェリ。お前には才能がある。


「~~~~~~!!」


 俺の空虚な言葉に反抗しながらも、嫌々毒草に手をつけるフェリ。

 毒で呼吸を荒くしながら必死に解毒をかけている。


 なつかしい。

 俺もこんな感じだった。


 最悪の場合、俺かアリアが解毒すればいいので死ぬことはないのだが、ある程度真剣にやってもらわないと訓練の意味がないからな。

 


 次にアリアの魔力を測定すると水晶玉は普通に光った。

 平均より少し多いくらいだな。


 十分に回復職としてやっていけるだろう。

 そつない感じに元の位置に戻るアリアだが、よく見ると少し自慢げである。


 最後にタルトだが、魔力量はかなりある方だった。


 後衛の魔法職として十分すぎる量だが逆にここまで多いと冒険者をやっていることが少し不思議ではある。


 魔法学校か魔法院にいてもおかしくない。


 タルトはあまり自己主張しないので、測定しなければ気づかなかったかもしれない。


「ナナシもやりなよ」

「私達だけってちょっとずるいです」

「ナナシの、知りたい、かも」


 そういえば測定は追放される前にやったきりで、それからはやったことがなかった。


 明らかに魔力量が増えているので自分でも気になることではある。


「いいぞ」


 そうして俺が水晶に手をかざすと。光らずに割れた。

 容量オーバーらしい。


 予備のもう少し容量のある魔力測定器を取り出して試すがまた割れた。


 まぁいいか。

 別に体感でどれくらい魔法を使えるかはわかっているわけだし。


「不良品だったようだ」


 フェリが「ずるいちゃんと調べろ」と言う中、タルトだけが化け物を見るような目で俺を見ている。


 こいつ。

 魔力測定器がキャパオーバーを起こすと壊れることを知っているな?


 冒険者の魔力測定でそのようなことが起こることは稀だ。

 起こるとしたら魔力が高いものが集められ、検査を受けた場合だが。


「タルト、そういえばお前はどこで魔法を学んだんだ?」


 魔法学院出かもしれない。

 卒業するには若すぎるので中退だろうか。


 だとしたら使える魔法の幅はだいたい決まってくるので戦略も立てやすくなる。


「いえ、わたしは。独学で……」


 俺は何か引っかかるものを感じたが、それ以上追求することはなかった。




称号:インフルエンサーA【装備中】

称号:追放されしもの(アハト)EX


スキル:生存自活ナチュラル・ビースト・ワンEX、チャーム(魅了魔法)


現在確認できている盗品


オーク語(低)、怪力(B)、見切り(B+)、掘削魔法(C)、解毒(古式)NEW!!


称号:魔力逸脱者(測定不能)NEW!!


基本規格の魔力計器で魔力量が測定できなかったことを示す称号。


ナナシはダンジョンで長く生活を続けたことで常人を遥かに超える魔力を獲得したが、あまり気にしていないようだ。


本来、人間が保有できる魔力量ではないので魔法関係者からは化け物扱いされることになる。


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