ギルド長、フェリたちを昇格させる
「確かにこれは最奥にいるガーゴイルのコアですね。石室の迷宮のクリアおめでとうございます」
ギルド長のランピックがそう言うと、フェリたちが喜んだ。
「よし、ギルド長。次は何だ。何をしたらいい?」
「わたしたち、早く先に行きたいんです」
「うん」
銅等級への昇格規定は『実績』。
単純に見えて曖昧な規定だが、銅等級並みの依頼をたくさん請ければおのずと昇格するはずだとフェリたちは考えていた。
同じ鉄鋼等級の冒険者たちが、異質なものを見るような目で見ている。
本来、鉄鋼等級の冒険者は鉄鋼等級のクエストを請けるものだ。
稀に人手不足などで銅等級の依頼に駆り出されることもあるが、基本はサポート役だし。銅等級の中でも下位のクエストを請けることになる。
だが、フェリたちはこの一週間で中位の銅等級クエストを請け続け、そのすべてをクリアしてきた。もはや実力で言えば銅等級の冒険者たちと遜色はない。
ランピックは考える。
フェリ・アリア・タルト。
この三人がナナシにおいていかれて焦っているのはわかる。
そもそも、鉄鋼等級に昇格して数日で銅へ昇格など前代未聞だし。曖昧な規定を理由にして昇格を先延ばしにする方法はいくらでもあった。
(ナナシなら……前ギルド長のライオットならどう判断するでしょうか)
考えてみるがわからない。
もう自分で選ぶしかないのだ。
「もう実績としては十分です。異例ですが、銅等級の証を授けます。これからも冒険者として一層、クエストに励むように」
ランピックがギルド職員に指示を出して銅等級のタグを用意させていると、フェリたちが飛び跳ねて喜ぶ。
レコード妖精もノリノリだった。
冒険者ギルドもずいぶん活気づいてきたと思う。
ランピックは前ギルド長を追放した張本人だ。
なぜ追放したかといえば、彼が独善的で不平等に見えたからだ。
深い理由も説明せずに冒険者を降格させたり、資格をはく奪したり。
男女や職を理由に特定のクエストへの参加を拒否することもあった。
もっと冒険者の報酬を増やしてもいいのではないか。
冒険者に自由にさせてやった方がいいのではないか。
そう思って盗みの濡れ衣を着せて追放したが、実際はその後が大変だった。
なぜそうなるのかはわからないが、なぜか物事がうまく回らなくなってきたのだ。
おそらく、理不尽に見えた行動にもそれぞれ意味があり。それらがうまく噛み合っていたのだろう。
だが、ランピックはそれを壊してしまった。
冒険者たちの面前で前ギルド長の作ったルールを撤廃すると宣言した以上、元に戻すこともできない。
冒険者の死亡率が増加した。
ランピックが間違えたからである。
少しずつギルドの規定を元に戻そうとしてみるも、冒険者たちに反対されてしまう。
人間、誰しも自分が好き勝手できる権利を手放したいとは思わないものだ。
だからこそ、体制側は少しずつ自分の権利を拡張し、それによって得た利益を民に還元していた。なのに、ランピックはそれを手放してしまったのだ。
ライオットに戻ってきて欲しい。すべて謝りたい。
そう思ってほうぼう探したが見つからなかった。
それから十年後。
フェリたちが「すごい人を見つけた」という洞窟で変わり果てたギルド長。ライオットに出会った。
ライオットはナナシと名乗り、身分を隠していた。
当然と言えば当然だ。
彼がこんなことになったのも、職業適性が「盗賊」だと知れ渡ったからなのだから。
なら、私は知らないふりをするべきなのでは。
『いやぁ、ナナシさん。今日はお日柄もよく。結構でございますなぁ。私は王都冒険者ギルドのギルド長をしているランピックと申します。お見知りおきを』
そう言って誤魔化した。
自分を蹴落としたやつが、蹴落としたことを忘れている。
怒られて当然だ。
そう思っていたが彼が起こったのは制度を改悪したことだった。
やはり、彼はわかっていてやっていたのだ。
十年経っても届かない自分の至らなさに辟易した。
ランピックはナナシからの圧力を受けたという形で次々に制度を変更する。
ランピックが変えようと言っても通らなかったことも、ナナシが言うと通るのだ。
自分はギルド長の器ではなかったのかもしれない。
そう思うこともあった。
だが、ナナシはギルド長に戻ろうとはしなかった。
ギルド職員として登録する際には職業適性検査を受ける規定があるので、なろうとしても弾かれる。それがわかっているのだろう。
ランピックは自分にできることをすることにした。
ナナシが使っている配信技術は、昔ランピックが趣味半分で作ったものが広まってできたものだ。
それがナナシの助けになるなら、その技術を拡張すればいい。
『ああ、これは最近実装されたコメント機能ですよ。こうすれば視聴者の気持ちもわかってよいかと』
『なるほど。フィードバックは大切だ。ランピックもたまには役に立つことをする』
嬉しかった。
謝ることができないなら、この罪を雪げないなら。
せめて喜んでもらいたい。
そう思っていた。
配信魔法は複数の魔法体系を立体的に組み合わせた新しい魔法だ。
民間でも使えるように低位の魔法だけで組んだので一度構造がわかってしまえば再現は容易になっている。
配信魔法をこれまで誰も思いつかなかった理由は、複数種の魔法を使う魔法使いはいてもそのすべてを体系的に理解しているものは少ないからだろう。
ランピックの職業適性は賢者だ。
だが、こうした魔法エンジニアめいたことをしていると賢者とは何なのだという気になってくる。
職業適性検査によって賢者とされるのは『賢き者』などではなく、単に『複数の魔法体系に対して適性がある者』なのではないか。
そう考えると、彼の職業適性『盗賊』も一般的なイメージとはちがうものである可能性が。
「こちら銅等級の認識タグです。大事にしてくださいね」
「やったぜ!! 待ってろよナナシ……すぐそっちに追いついて、瞳孔開き女に勝ってやるからなぁ!!」
「いや、流石にブラックには勝てないでしょ」
アリアにそう言われてもフェリは意に介していないようだった。
「力ではなくてこう、距離感的に勝つ」
「関係性では負けたくないですね」
「うん、うん!」
フェリたちが燃えている。
ついこの前まで最下級の白磁等級だった冒険者がここまで伸びたのは、間違いなく彼の影響だろう。
「おや? アポート」
ランピックが半透明の画面を呼び出し、最近開発したメール機能をチェックする。
ナナシから依頼が来ていた。
『フェリたちはもう銅等級になったか? なっているなら頑丈で薄汚れたでかい鍋をひとつ。人間がすっぽり入るくらいのサイズのものをベリア領・第一冒険者ギルドまで届けてくれ。無論、金は出す』
フェリたちの成長もナナシには織り込み積みらしい。
ランピックは三人に新たなクエストを出した。
称号:ギルド長【装備中】
称号:電脳魔法の発案者、賢者
スキル:発想力A++、開発力B、全属性魔法E、電脳魔法C++、カリスマE、独善C-、異世界転生D-
NEW!!
電脳魔法C++
ランピックが生み出した新しい魔法体系。
映像の記録、動画の展開、配信、音声、文字情報の伝達などを可能とする。
数量魔術記録板、略してスマホと呼ばれる板さえあれば誰でも扱える点が画期的で。
使用している魔法はすべて低位のものなので、構造を覚えればスマホがなくても空中に画面を表示したり、情報にアクセスすることも可能。
この魔法が発生したことで手紙のシェアが激減することになるのだが、現在はまだ混乱期にあたるのでまだまだ手紙も現役のようだ。
魔法院の魔法使いたちは「低位の魔法を組み合わせただけの下賤な魔法」「思いつきさえすれば誰にでも創れた」とランピックの才能に嫉妬しているが、ランピックは自分を魔法使いだと認識していないのであまり気にしていない。
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