第4話

 ダンジョン『動乱の洞』を一団が進んでいく。


 編成は交渉役に現ギルド長のランピック。


 A級冒険者のオルクスに、ナナシと面識があるフェリ、アリア、タルト。そしてレコード妖精の6人になる。


 映像で見た樽の前は焚火の跡があった。


「あのー。ナナシさーん。いませんかー?」


 そうフェリが話しかけると、もぞもぞと男が這い出て来る。

 ナナシである。


 


「何の用だ?」


 俺が樽から出ると、昨日出会ったフェリ、アリア、タルトがかがみこんでいた。


 その後ろにはおそらく立ち振る舞いからしてA級冒険者の男と……かつて俺を追放した副ギルド長ランピックだ。


 服装からギルド長になっていることがわかる。


 ああ、そういうえばここは王都の近くだったか。すっかり忘れていた。

 俺を追放して出世したなぁランピック。今の気分はどうだ?


 そんなことを言いそうになって、やめた。

 リスクが高すぎるからな。


「昨日のナナシさんの活躍を見て冒険者ギルドがオファーに来たんです! あなたほどの逸材は他にいないってみんな言ってます! ナナシさんも冒険者になりませんか? 稼げますよ!」


 興奮気味のフェリに冷めた目を向ける。

 それができたらこんな苦労はしていない。


 そもそも、俺は元々プラチナランク。

 最高クラスの冒険者から冒険者ギルドの長になった経緯がある。


 俺が追放されたのは職業適性のせいだ。

 追放した本人であるランピックがここにいる時点で、もうこの話は詰んで。


「いやぁ、ナナシさん。今日はお日柄もよく。結構でございますなぁ。私は王都冒険者ギルドのギルド長をしているランピックと申します。お見知りおきを」


 ランピックが恐縮して頭を下げ、そんなことを言った。


 まさか、こいつ。

 俺のことを忘れているのか?


「これはナナシさんにとっても悪い話ではありません。冒険者になれば、こんなところに住まなくてももっといい生活ができますよ!」


 誰のせいで、誰のせいでこんなことになっていると思っているのか。

 お前が俺を裏切りさえしなければ、こんなことにはならなかったのに。


 俺の気も知らないでこいつは。


「フェリたちのレコードからナナシさんの活躍は国中に広まっております。これほどの才を埋もれさせておくには実に惜しい!」


「レコード?」


 なんだそれは。


「はい、最近の技術なのでまだお知りになっていないかもしれませんがこのレコード妖精が見た映像を王国内で共有することができるようになりまして。今ではナナシさんは王国中の注目を集めるインフルエンサーなのですよ!」


 あぶねえ。


 昨日、うっかりパンツ見せてとか言ってたら王国内に広まってたってことじゃねえか。


 あの女冒険者たちが「えっちなことに興味ありませんか」とか言えたのはレコードによる抑止力があるからだな。


 滅多なことはしてこないと思っていたんだろう。


「なるほど」


 インフルエンサー、配信者か。

 俺は考える。


 このような状況に追い込まれているのは職業適性『盗賊SSS』のせいだ。正確にはそのスキルが露見したことで犯罪者として扱われているせいだろう。


 称号:追放されしものEX


 こいつのせいでどれだけ辛酸を舐めさせられたかわからない。

 だが、結局のところ称号というのは他者からのイメージでしかないはずだ。


 俺は今、インフルエンサーとしての称号も獲得している。 


 もし、追放されしものEXからインフルエンサーに称号を変更できたなら?


 俺はこの生活から抜け出せるのではないか?

 希望が見えてきた。


 考えろ。

 最短経路はどこだ。


 リスクがあっても構わない。

 再び日の下に出られるのであれば。


「ランピック」

「はい、何でしょうか!」


 俺はすべてを利用しよう。


「クエスト受注条件から性別条件を撤廃したのはお前か?」


 ランピックは一瞬きょとんとすると、すぐににっこりと笑って。


「ええ、ええ! よくご存じで! あれは私の功績にございます! 古く悪しき風習は前ギルド長を追放した際に撤廃させていただきました! いやぁ、やはり時代は男女びょうど……へぶあっ!」


 滔々と語るランピックを右ストレートでぶっ飛ばした。


 哀れランピック。

 壁に叩きつけられる。


 俺はのしのし歩いて襟首を掴み、怒鳴り散らした。


「ランピック! てめえが何人殺したのかわかってんのか!!」

「ひいいい!!」


 男女差による攻略難度の変化を無視するな。

 せめて危険があることは周知しろ。

 これまでの死亡者から統計をとって事実確認をしておけ。

 冒険は遊びじゃねえ、生き死にがかかってんだそこをはき違えるな。


 十年前、まだギルド長だった俺が乗り移ったかのようだった。


 オルクスが抜きかけた剣を鞘に戻す。

 ランピックを殺そうとしているのではなく咎めようとしているのだとわかったからだ。


 妖精がこちらをじっと見ている。

 おそらくこうした暴力を抑止するためにそこにいるのだろう。


 いいぞ、もっと撮れ。

 そして広めろ。拡散しろ。


 どっちが正しいか、世間とやらに決めてもらおうじゃないか。


「冒険者になるつもりはない」

「だが、インフルエンサーならやる」


 そう発言してしばらく時間を置いた後。

 俺はしゃがみこんでランピックを介抱してやる。


「悪かったな、痛かっただろ」

「え、あの。何を」


 殴られた直後に優しくされ、困惑するランピックに俺は言う。


「これが一番映えるからだ」





称号の換装について


複数の称号を持つ者は場合に応じてその称号を変更できる。


たとえば 称号:村人 と 称号:戦士 を持つ者なら村にいる時は村人に、戦場にある時は戦士に称号をつけかえが可能。


現在のナナシの場合、インフルエンサーとして振舞うことで称号:追放されしものEXのデバフを無効にできるが、適性確認魔法などで『適性:盗賊SSS』が露見すると強制的に称号:追放されしものEXへと換装され再びデバフを受けることになる。


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