第5話

「あー今日は、絶体絶命の状況から生き延びる方法を教えようと思いまーす」


 俺はレコード妖精に向かってそんなことを言う。

 走りながら手で鳴り物を鳴らして。


「あの、これ本当の本当に大丈夫なんですよね! ね!?」


 傍らを走るフェリが絶望した顔で問い質してくる。

 後ろを見ると大量のゴブリンとスケルトンが押し寄せてきていた。


 流石にこの数だとまともに戦うと全滅する。

 なぜこんなことになったかというと、俺が呼び寄せたからなんだが。


「ひぃぃぃぃ!」


 必死の形相のアリアと無の表情のタルトが俺に言われた通り、鳴り物を鳴らしながら走ってくる。追いかけてくるのはオーガの群れとワーウルフか。


 挟み撃ちの形になるな、俺たちが。


「本当の本当に大丈夫なんですよね!! ねえ!!」 


 フェリに胸ぐらを掴まれながら俺は「大丈夫なんじゃないか?」と言った。


 そして酒瓶を煽る。

 死にたくないのだろう、アリアとタルトも合流し必死の形相で俺を詰めている。


 そんなことをしているうちにモンスターたちが距離を詰めてきていた。


 前方にはゴブリンとスケルトン、後方にはオーガとワーウルフの群れ。

 それ以外は壁だ。


「えー。今回は冒険において絶対に避けなければならないとされる閉所での挟み撃ちをわざとやられてみました。この状況になると冒険者はだいたい死ぬしかありません」


「何言ってるんですか馬鹿ーー!!」


 はっはっは、笑える。

 まぁ、こいつらには回避法を一切教えてないからそうなるよな。


「まぁ見てろって、なんとかなるから大丈夫でーす!」


 俺は松明の火を消し、壁に向かって掘削魔法を使う。


 炭鉱のドワーフたちがトンネルを掘る時に使用する魔法で、追放されていた頃人夫に紛れて働いているうちに見て盗んだ。


 フェリたちの首根っこをひっつかんでトンネルの中へと逃げ込む。


 外を見るとゴブリンとスケルトンがオーガとワーウルフとかちあい、そのまま戦闘になっていた。


 暗いのでこちらがどこに逃げ込んだかもわかっていないらしい。


「モンスターというのは必ずしも一枚岩ではないんで、こうやって正面衝突させてやるとそのまま争ってくれることがあります。いい気味ですねー」


 たまにトンネルに気づいて襲い掛かってくるやつもいるが、そういうのは冷静に一体ずつ倒していけばいい。


 相手にする数を減らすのは戦闘の基本だ。

 俺がたまにこっちにくるモンスターをボコスカ殴っていると、後ろから声が聞こえてくる。


「し、死ぬかと思った」

「なんだちゃんと考えてたんですね」

「今度こそ自殺だと思った」


 とんでもない言い草だ。


「あれ、なんかこの壁どんどん狭くなってきてないですか?」


 よく気づいたアリア。


 ダンジョンには自己修復機能があるのでこうして隠れているとそのうち生き埋めになってしまうんだ。


「ダメじゃん!」


 いいツッコミだ。フェリ。


 俺はフェリたちとチームを組んでインフルエンサーをやっている。


 エンタメ性を考えるとおっさんが一人で生活しているだけでは華がない為、こうして彼女たちにも協力してもらっているのだ。


 ついでに報奨金は冒険者ギルドからフェリたちに渡り、そこから俺の取り分が支払われる。


 この方法なら俺は自分の素性を明かすことなく冒険者ギルドから金を受け取れるってわけ。


 フェリたちも有名になれるし、金も儲かるしWinWinと言える。


 おっと、トンネルが潰れそうだ。

 そろそろやるか。


 俺は掘削魔法を入口正面突き当りと斜め後ろに発動し、再び鳴り物を鳴らさせ魔物を呼び寄せる。


 鳴り物に惹かれて入ってきた魔物が正面へ進むのを確認しつつ、斜め後ろに作ったトンネルに滑り込み、突き当りまで走ったら更に掘削魔法。


 壁を破って通路へと出た。

 右を見ると通路の先ではまだ魔物たちが争いあっている。


「このまま逃げるぞ」


「え、倒したりとかは?」


「あんな数相手にしてられっか!」


 一体一体は弱くとも、数が多くなると手ごわくなるのは何でもそうだ。


 まぁ本当にどうしようもなくなったら戦うしかないが、わざわざやることではない。

 


 ダンジョン『くらやみの巣窟』を出て一息つくと、フェリたちがバテていた。

 ダンジョン前の森を見上げると、鳥が青空にチチチチと言いながら飛んでいった。


 晴れやかだ。


 今回、掘削魔法を使ったのには理由がある。


 最近炭鉱での働き手が少なくなっていて、短期でもいいので労働力が欲しいと冒険者ギルドに話が来ていたのだ。


 危険な上に冒険ほどの夢もない仕事だ。

 募集の張り紙があったって誰も行きゃしねえ。


 なら、俺が掘削魔法で活躍することで炭鉱で働いて掘削魔法を学ぼうって冒険者を増やせばいい。


 うまくいったら炭鉱から俺に金が入るよう手配してあるので、金回りに抜かりはない。


 ちなみにランピックは特に反発することもなく、俺の言う事を聞いている。

 その方がギルドがうまくいくからだ。


 ここまできても俺が元ギルド長だとわからないんだから救いようがない。

 まぁ、そのおかげで助かっているのは俺の方なんだが。


「それじゃ、宿に戻るぞ。それからは各自解散な!」

「はーい!」


 森を抜け王都に戻ると、道行く人が俺に話しかけてくる。


「ナナシさん今日はどこのダンジョンで?」

「いい魚が入ったんだけど買っていくかい?」

「どうやったらそんなに強くなれるんだ!?」

「今度俺の連れて行ってくれよ!! 配信に出たい!」


 人々の賞賛を受けて、じんわり喜びを感じる。

 かつて迫害されたことを考えれば思うところがないわけでもないが、人間とはそういうものなのだろう。


 ひどく身勝手ですぐに忘れて、都合がよくなると手のひらを返す。

 まったくどうしようもない生き物だ。


「今日はうちに泊まっていっておくれよ!」

「いい子が揃ってますよ!」


 それでも俺は笑顔を作って手を振る。

 人は他者に認められたいと思うからだ。


「フケツ」


 タルトがぼそりと言う。

 誤解だ。


 三人ともじとっとした目でこっちを見るな。


「今日はもう解散! かいさーん!」


 まだ年若いからだろう、三人はきゃあきゃあ言いながら走り出す。

 年齢にしては金回りいい方だから、使い方を間違えなきゃいいが。


 俺はとっておいた宿に戻る。

 適性確認魔法によるチェックはされない。


「お早いお帰りで~」

「ああ」


 A級のインフルエンサーになった今となっては大体のところは顔パスで通れる。

 樽の中に住んでいたのが嘘のようだ。


 すべてがうまくいっている。

 清潔なシーツの上に寝転ぶと、俺は次の配信について考え始めた。






称号:追放されしもの(アハト)EX

スキル:生存自活ナチュラル・ビースト・ワンEX


NEW!!


称号獲得:インフルエンサーC→A


A級のインフルエンサーを適性確認魔法にかけようとするものはいないだろう。見れば誰だかわかるし、わかっているのに素性を割ろうとする行為は失礼にあたるからだ。


よほど特殊な事情でもない限りは。



現在確認できている盗品


オーク語(低)、怪力(B)、見切り(B+)、掘削魔法(C)NEW!!

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