おっさん、ゴブリン200体と戦ってみる
「えー、今日はー。森でゴブリンに囲まれた時の対処について教えたいとおもいまーす」
「おもいまーす!」
アッシュウッドの森、ゴブリンの巣の前で俺とテルメアは200体ほどのゴブリンに囲まれていた。
テルメアも一緒だ。
”死ぬwwwwww“
”無理だろこれ“
”初手で詰んでるんだが“
”何やったらこうなるんだ“
コメントの反応がいい。
やっぱ初手絶体絶命っぽくするとウケがいいな。
「お気づきの人もいるみたいなんで先に言っとくと。ほとんどの場合、この状態になると死にます」
”ですよね“
”なんでこんなことに“
「こうならないためにもアッシュウッドの森でゴブリンに遭遇した時はゴブリンと戦わずに目的地に向かって走ってください。こいつらヒカリものが大好きなんで、コインとか投げると拾いにいく習性を利用して時間を稼ぐわけです。ないときは食料でもいいです。馬車に乗っている場合は減速せずに突っ切ってね」
”掲示板で積み荷の二割から十割がなくなるって言ってたのはこれか“
”確かにこれだと損失はでるな“
”命を落とすよりはマシ“
もたもたしてるとこうやって囲まれて、物を囮にすることもできなくなるわけだが。
対処手段がないわけではない。
「えー、最初にやるべきことは今やってるように仲間と背中を合わせることです。ゴブリンにはできるだけ背中を見せないでください」
俺とテルメアは背中をあわせ、ゴブリンの群れに対峙している。
俺はいつも通りの死んだ目、テルメアは凛とした顔をしていた。
200体のゴブリンたちは武器でこちらをつつこうとしてくるが、反撃を恐れて踏み込みが甘くなっている。自分が弱いことを理解しているのだ。
群れで一気に襲い掛かれば倒せるかもしれないが、最初に襲い掛かったやつは死ぬ。
ゴブリンだって自分だけは死にたくないし、自分の代わりに誰かが死んでくれるならその方がいいからこんな挙動になるのだろう。
「ちなみに少しでもゴブリンにビビった姿を見せると、調子に乗って全員で襲い掛かってくるので気を付けてね」
ここにいるのがテルメアではなくフェリたちだったら、今頃ゴブリンの総攻撃を受けているだろう。
あいつらのびっくり顔は配信ウケがいいが、アッシュウッドのゴブリン戦で同じことをされたらかなわん。
「今は二人ですが、三人とか四人で背中を合わせれば一人当たりで相手にするゴブリンの数が減るのでおすすめでーす」
俺とテルメアは手足のリーチを活かしてゴブリンたちの攻撃が届かない間合いから、確実にダメージを与えていく。
ゴブリンの多くは練度が低く、手足も短い。
数による利を連携で潰して弱点を突き続ければ人数差が100倍あってもなんとかなる。
二人で背中を合わせてきちんと間合いが取れれば、200体いようが300体いようが一度に相手をするのは4,5体くらいだ。
無傷のまま一方的にゴブリンをぼこ殴りにしていると、ゴブリンたちも「やべえ」と思うのか、攻撃に躊躇が見えてきた。後方のゴブリンなどすでに及び腰である。
ゴブリンにも知性があるのだ。
”すげえ“
”普通に戦闘がうまい“
”ゴブリンびびってるww“
「あー、ゴブリンのやる気がなくなってきたところで。魔法を撃ちます」
俺が雑にファイアアロー(槍)を放つと巨大な炎槍が前方のゴブリンを貫き岩壁に激突、ずがんと爆発した。
逃げることもできずに呆然とするゴブリンの視線の先ではめらめらと燃える炎が、道を作っている。
ちなみに炎槍が命中したゴブリンは一瞬で消滅した。
”でた! ファイアアロー(槍)“
”やっぱ槍だよなこれ“
”火力が高すぎて参考にならねえ……“
”詠唱しないの!?“
「今回は巻き込まれる味方がいないので、詠唱サボりました。この場合、詠唱はしてもしなくてもいいです」
”してもしなくてもいいwww“
”無詠唱は高等技術なんだが……“
”まぁ、使い分けはだいじだよな。使えるやつほとんどいないだろうけど“
初手でこれを撃ってばよかったと言われそうなので補足しとくか。
「あー、威力はここまでなくても大丈夫です。ゴブリンに『この戦闘は割に合わない』と思わせた後、集団にまとめてダメージを与える方法があることを見せることが大事なので。付け焼刃でもいいので範囲攻撃手段を覚えておきましょう」
範囲攻撃手段がない場合は消耗戦になる。
勝てるかもしれないが体力消費が激しいのでおすすめしない。
”剣士はどうしたらいいんですか!?“
俺は剣士じゃねえからわからないんだよな。
そんなことを思っていると、テルメアがきらきらした目で「先輩! やっていいですか?」と訴えかけてくる。
お、おう。いいぞ。
「絶剣……!」
テルメアが剣を構えると一瞬でゴブリンの包囲を抜け、剣を鞘に戻した。
すると。
ズギャギャギャギャギャギャギャ!!
ゴブリンたちが上空に吹き飛ばされ、無数の斬撃を受けている。
理屈が何もわからん……。
”TUEEEEEEEEEE“
”できるか!!!!!!“
”これ、剣? 本当に剣?“
”何をどうやったらこんなことに……“
”剣士ってこうなるんだ“
”何をしたらそうなれるんだ?“
一撃でゴブリンの群れを殲滅したテルメアがえっへんと胸を張る。
「レベルを上げて物理で殴る!!」
まぁ、実際やっていることはそうなんだろうが。
何も伝わらないと思う。
「えーー、彼女は等級ブラックなので参考にしないでください」
”ブ……ラ、ブラック!?“
”例外処理枠じゃん“
”つまり、勇者か救世主ってコト?“
”ナナシなんでこんな人と知り合いなの!?“
テルメアがふふんと自慢げだ。
王城にいた時よりずっと楽しそうじゃないか。
いいことだ。
称号:勇者A+【装備中】
称号:次代の魔王C
スキル:狂化A、幸運EX、絶剣A++、光魔法E-、闇魔法B+、魔力暴走A+、勇者の勘A++、人格反転B、冷静沈着A、あわてんぼうB-
魔王スキル:闇のカリスマC、魔道活性C、魔道転移C、魔物召喚C、魔族召喚C、魔竜召喚C、魔系言語C、魔王の宝物庫C、異世界転移C、窒息無効、状態異常無効化
絶剣A++
すごく早く剣を扱うスキル。
A++ともなると一般的な物理法則では説明がつかなくなってくる。
ここまで至る剣士は感覚派がほとんどなので、なぜこんなことになっているのか自分でもわからないことが多い。
ある研究者の言によれば、時間停止か空間跳躍系の能力またはその両方が関わっているのではないかとも。
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