おっさん、ゴーレムで連携訓練する1


 ダンジョン・石の洞窟。


 迷路のようなその道を進み、突き当りに手をかざすとみるみるうちに壁が開いて大部屋に出た。天井が高い。空間が歪んでいるのだろう。


「え、何? 何したの?」


「ダンジョンにはたまにこうした隠し部屋がある。俺たちは有名になりすぎたからな、人目につかない場所が必要だ」


 フェリたちが後ろを振り向くと隠し部屋に続く扉はもう塞がれていた。


「これから訓練を始める。お前たちに基礎体力があることはわかっているが連携についてはまだ」


 ゴゴゴゴゴと。不穏な音がした。


「なに、あれ」


 タルトが驚くのも無理はない。

 壁からせり出るように巨大な人型ゴーレムが一体現れたのだ。


 妖精も見上げている。


 4メートルはあるだろうか、二階建ての家くらいの大きさ。

 ボディには数多の刀傷、爆裂魔法が直撃した痕もある。


「何ってゴーレムだが」

「それは見ればわかります!」


 どう考えても勝てる相手じゃない!

 逃げないと!!


「なんか、出口ないんですけど」

「なぜ逃げようとする? こいつと戦いに来たのに」

「冗談でしょ」


 ウゴーーーーー!

 と雄たけびをあげて襲い掛かってくるゴーレムの攻撃をフェリたちは大きく躱す。


 粉塵が舞った。


「どうした。戦ってみろ」

「無茶言うな!」


 半歩下がって攻撃を回避した俺はフェリたちにそう促すが、戦意を喪失しているようだ。


「ナナシさんは強いから余裕でしょうけど、私達じゃそうはいかないんですよ!」


 アリアの言葉にタルトがコクコクうなずく。

 仕方ないやつらだ。


「別に倒せとは言っていない。こうした敵と戦わなければならなくなった時、お前たちならどう戦う? やってみろ」


 自分よりも強い相手、勝ち目がない相手と戦わなければならないこともある。

 それでも逃げることが許されない場合、逃げられない場合、お前たちはどうする?


 ようやく意味が理解できたのかフェリが前に出た。

 アリアがその後ろに、タルトがさらにその後ろに。


 こいつらがよく使う3タテの陣形でゴーレムに対峙する。

 フェリがゴーレムの攻撃をなんとかかいくぐり、脚部に刃を当てた。


「硬ったい!」


 剣が火花を散らすだけでダメージは通らない。


 アリアはいつでもフェリを回復できるように待機、タルトは魔法を使いたがっているがフェリに誤射する可能性があるのか戸惑っている。


 そうこうしている間にも戦い続けるフェリ。


 ぐだぐだだ。

 アリアとタルトが戦力として浮いている。


 こいつらよく今まで生きてこれたな。


 フェリに体力の限界が来て後方に下がろうとすると、ゴーレムもついてきた。

 アリアがフェリを回復するがゴーレムの接近は止まらない。


「ファイア、アロー……」


 足止めの為にアリアがファイアアローを撃つがダメージは軽微だった。


「無理無理無理無理無理ィ!!」


 ゴーレムはそのままフェリたちに拳を振り上げて。


 倒れた。


「へ」


 俺が右脚をもいだので、直立できなくなったのだ。


「え、何。どうやったの?」

「何か手で普通にもいだようにしか見えませんでしたけど」


 掘削魔法で分解しただけだ。

 こいつはダンジョンの壁からせり出てきた。


 つまり素材はダンジョンの壁だ。

 トンネルを作る掘削魔法で削れる。


「言われてみれば、そうだけど」

「普通、モンスターに掘削を使おうとは思わないです」


 俺はゴーレムの胴を分解して動きを止めると、フェリたちを集め。懐から水晶玉を出す。


 配信魔法を非公開で発動。

 先ほどのフェリたちの映像が映し出されてきた。


「その配信水晶どうしたんですか?」

「ギルド長の好意で譲ってもらった」


 正確には目の前で堂々と盗っただけだが、ギルド長のランピックが曖昧な表情をしていたので大丈夫だろう。


「よく見ろ。前衛のフェリの体力が尽きたことで戦線が崩壊している。オークの時もそうだったが、継戦能力が足りていない」


「そんなこと言われても」

「私たちはナナシさんじゃありません」


 本人たちとしては精一杯やっているつもりなのだろう。

 だが、お前たちの感情などどうでもいい。やり方が問題なのだ。成長しろ。


「次は俺がアリア役をやる。立ち回りをよく見ていろ」


 そう言って俺がダンジョンの壁に手をかざすと出口が現れた。慌ててついてくるアリアたちと外にでると見慣れたダンジョンの通路に出る。


「では戻るぞ」


 再び壁に手をかざして隠し部屋に入ると、また壁からゴーレムがせり出てきた。


「戦闘開始だ」


 再びフェリが前に出てゴーレムを牽制する。

 ダメージが入らないことにいらだちながらも、腐らずにやるべきことをしているところは好感を持てるな。


 フェリの体力が落ちてきたところで、アリア役の俺が前線に出た。


「なんで回復役が前に出てんの!?」

「いいから、下がって息を整えろ」


 俺はゴーレムの攻撃を躱してナイフで傷をつける。大したダメージにはならないが注意をこちらに向けさせることさえできればいい。


 フェリが息を整えきり、再び前線に復帰する。

 こうすれば前衛の体力切れで急に戦線が崩壊することはない。


 回復役がメイスなんて鈍器をなぜ装備しているのか、考えればわかりそうなものだが……先入観だろうか。


 これを何度か繰り返したあと、俺はゴーレムを分解する。

 そして動画を確認させたあと、アリアと交代して隠し部屋に入りなおす。


 アリアが前にでてメイスを振るうだけでパーティの生存率が飛躍的に上昇することがわかってもらえたようだ。


 回復魔法を使ったせいで、パーティが全滅とか最悪だからな。


「回復したら負けるってあったんだ……」


 耐久力が高く力任せのゴリ押しでは勝てない相手で、扉をくぐりなおせば再生し、掘削魔法一つあれば無力化も極めて簡単。


 ゴーレムほど練習に適した魔物もいない。


 フェリたちにとってゴーレムは脅威に見えていたようだが、俺には経験値にしか見えない。


 次はタルトだな。



称号:インフルエンサーA【装備中】

称号:追放されしもの(アハト)EX、魔力逸脱者(測定不能)


スキル:生存自活(ナチュラル・ビースト・ワン)EX、チャーム(魅了魔法)


現在確認できている盗品


オーク語(低)、怪力(B)、見切り(B+)、掘削魔法(C)、解毒(古式)

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