第9話

フェリとアリアが連携を覚えたが、まだタルトは戦力として浮いたままだ。


「ファイアアロ……い、今じゃない。あ、ファイア……今じゃない」


 入れ替わり立ち代わりゴーレムを相手するフェリとアリアに隙はなく、タルトは援護するタイミングを掴めずにいた。


 いくら魔力があっても魔法を撃てなければ無意味だ。


 熟練した前衛ならば魔法使いが攻撃するタイミングを作ることもできるだろうが、連携覚えたてのフェリとアリアでは無理だろうな。


「よし、もういいぞ」


 何もできなかったタルトが青ざめる。


 お前はもういいからパーティ外すくらいの意味に捉えられてしまっているかもしれない。


「次は俺がタルト役をやる。よく見ていろ」


 前回のアリアのようにやり方さえわかればお前も十分に活躍できる。


「は、はい!」


 チャームを使わなくても心を操作できるようになってきた気がする。


 さて、やるか。


 タルトに足りないものは明白だ。

 すぐに解決するだろう。


 俺は大きく息を吸い込んでゴーレムと戦闘を続けるフェリとタルトたちの方にこう叫んだ。


「ファイアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 その瞬間、フェリとタルトの脳裏に浮かんだのは俺の姿だ。


 オークを一撃で屠ったり、ゴーレムを瞬殺したりしたやつが大声で魔法を発動しようとしている。


 しかも、明らかに自分たちの方に何かを放ってくる。


 ヤバイ逃げないと死ぬ。


「わ、わあああああああああああ!!」

「ひいいいい!!」


 ゴーレムパンチの100倍くらいの恐怖を感じながらフェリとアリアは全力でその場から離脱する。


 いい反応だ。


「アロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 俺は手のひらに火槍を出現させ、槍投げの要領で投擲する。

 アローと言っているが、槍である。


 火槍はゴーレムの頭を射貫き、ダンジョンの壁に激突、炸裂した。


 ずどおん、と。

 重たい音がする。


 ダンジョン全体が揺れ、フェリたちが悲鳴をあげた。


 ちっ、まだ威力が高かったか。

 次はもっと抑えねば。


 タルトは何が起こったかわからないのか唖然とし。

 フェリとアリアは身体を丸めて防御態勢に入っている。


「フェリ、アリア。ゴーレムはまだ動いている。今のうちに回復しろ」


 俺がゴーレムの周囲を弧を描くように走るとゴーレムが俺に注意を向ける。

 その隙にアリアはフェリを回復し、戦線に復帰した。


 しばらく戦闘していると今度はアリアがゴーレムの攻撃を受け、ダメージを負った。

 

 そしてすぐさま。


「ファイアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「また来る!!」

「こわいこわいこわいこわい!!」


 俺は火槍を投擲する。


「アルルルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 今度は腹部に直撃、爆裂し。

 ゴーレムは炎上した。


「まぁ、ざっとこんな感じだ」


 俺はめらめら燃えながら倒れ伏すゴーレムを背に笑顔を作る。

 ほら、簡単だろ?


「できません!!!!!!!!!!!!!」


 普段物静かなタルトが猛烈に抗議している。

 そんなことはないはずだが。


「安心しろ。同じファイアアローだぞ」

「全然違います!!!!!!!」


 そもそも、俺のファイアアロー(槍)の元はタルトのファイアアローだ。


 盗賊系スキルである見て盗むを応用して、魔法を解析し自分が使いやすいように再構築しているに過ぎない。


 俺は子供の頃から一目見ればだいたいのことは真似できた。おそらく無自覚に盗賊系スキルを発動していたのだろう。追放されたことを考えると業腹だが便利には違いない。


 だが、これを言うと一目見ただけで何でも習得できる天才として扱われ。人間扱いされなくなるので黙っている。


 別に何でも習得できるわけではないしな。


「何か誤解しているようだが。同じ威力の魔法を出せと言っているわけではない。声を出せと言っている」


「え、声。ですか?」


 まったく、何のためにあんな大声を張り上げていたと。


「詠唱とは魔法を発動するためだけに行うものではない。味方にこれから攻撃すると周知し回避させるためでもある」


「わたし、魔法のことしか考えてませんでした」


 魔法学院出の魔法使いによくある誤解だな。 


 戦闘において、魔法が強力であるかどうかよりも連携がとれるかどうかの方が遥かに重要だ。


 たとえば俺が先のファイアアロー(槍)を無詠唱で放っていたら今頃フェリとアリアは死んでいる。


 さもなければ、先ほどのタルトのように魔法を撃つタイミングを逸して戦力として浮くことになっていただろう。


 これではどんな魔法が使えても意味はない。

 だが、対処法は簡単だ。


「タルト、お前の魔法は十分強い。後はでかい声で叫ぶだけでいいんだよ」


「はい! あ、でも。その。わたし、声ちいさいし」


 ……フェリ。

 そこに転がってる水晶玉持ってこい。


『できません!!!!!!!!!!!!!』

『全然違います!!!!!!!』


 俺は先ほどのタルトの声を配信魔法を非公開扱いで発動して説得すると、タルトは顔を赤らめながら従ってくれた。


 再び部屋から出て戻り、ゴーレムを復活させる。


 前衛のフェリとアリアがゴーレムを攻撃し、疲労や怪我が見えたらタルトが魔法を使う。


「ファ、ふぁいあーーー! あろーーーーーーーーー!!」


 まだ不器用だが前衛が攻撃を察知できればいいので問題はない。


 タルトのファイアアローが腹部に命中し、タルトに気づいたゴーレムが攻撃対象を変更。


 その隙にフェリの怪我をアリアが治す。


「ファイアーー! アロー!! ファイアアロー! ファイアーアローー!!」


 どかんずがんばがん!


 タルトが湯水のように魔法を使ってゴーレムを足止めしている。


 なるほど、タルトの魔力量と足の遅さを考えるとこの方が適しているかもしれんな。


 そうこうしているうちにフェリとタルトが戦線に復帰、ゴーレムへの攻撃を再開する。


 剣と回復と魔法攻撃が完全に噛み合ったよい連携だ。

 継戦能力を獲得したな。


 こうなれば。


「え、あれ? 倒した?」


 ついにフェリたちは三人だけでゴーレムを撃破した。

 耐久力の高いゴーレムとはいえひたすらダメージを与え続ければいつかは倒れる。


「やったぁーーー!!」

「やりましたねーー!!」

「うん!!」


 大物を倒したという実感が心を躍らせるのか、跳ねまわったり手を叩きあったりしていた。


 これでよほど実力差がない限り負けなくなるだろう。

 さて、ゴーレムのコアでも回収しておくか。


称号:インフルエンサーA【装備中】


称号:追放されしもの(アハト)EX、魔力逸脱者(測定不能)


スキル:生存自活チュラル・ビースト・ワンEX、チャーム(魅了魔法)


現在確認できている盗品


オーク語(低)、怪力(B)、見切り(B+)、掘削魔法(C)、解毒(古式)、ファイアアロー(槍)NEW!!

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